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春は来るんだっけか?

ピピピピピピピピ!


カチッ!


研修の最後の日、俺は目覚ましをとめる。

普段なら、あと5分は寝ておきたいところなのだが、今日の俺は違う。


俺は何となく喜一にメールを送る。


"すまんな!"


そのあと奴は意味が分からずメールを返して来ているのだろうがとりあえず無視した。


今日は俺の恋愛イベントになるだろう。

ドラクエですら結婚イベントは後半なのだが序盤にあるのも悪くない。


いつも以上にみだしなみを整え、俺はオフィスに向かった。

すす


♦︎



今日は普通に始業の15分まえにつくと愛しの天使の後ろ姿がみえる。


よし、自然体、自然界。

そっと隣に座ると、そうやって心を落ち着かせる多重魔法を自分にかける。効果は今ひとつのようだ。


「塔野さんおはよう!」

「黒江くん! おはようございます」

「きょ、今日も研修だね!」


「今日でオフィス研修は最後ですね……」


少し寂しそうに見えたユーリちゃんに俺は心の中で"いつでも会えるよ"と呟く。


ただ、声に出すほどの勇気は無かった。

仕方がない、俺は勇者では無いからな。


いつもの事ながら、時間が来ると魔術師井原が現れて資料の配布に合わせて講習がスタートした。


「……であるからして、この時点で法的に契約が成立します」



魔術師井原は業務の流れを説明している。


これは明日からのOJTでの必須知識だ。

集中しないと。


魔術師井原は業務の流れを説明している。


しゅ、集中。

クロエは隣を見ているようだ。


"ショートボブの髪がサラサラしている"


触りますか?


・はい

・いいえ


くそっ、"いいえ"だ!


魔術師井原は業務の流れを説明している。


しゅ、集中!


クロエは隣を見ているようだ。


ユーリはジャケットを脱いだ。

(し、白いブラウスだと?)


ユーリは白いブラウスの攻撃を放った。

クロエは状態異常"注意散漫"に陥った。


魔術師井原は業務の流れを説明している。

魔術師井原は業務の流れを説明している。

魔術師井原は説明をおえた。


「では、一旦お昼休憩を挟みます。13時30分より後半を始めますのでよろしくお願いします」


あーっ、くそっ。

攻撃力が高すぎる。


午前中は、全く集中が出来なかったな。

攻略者としてはかなりの痛手だ。


「ねぇ、黒江くん?」


顔を上げるとユーリがこちらを見ていた、

「なんだ、天使か……」


「ふふっ、なんですかそれ?」

「あ、いや……」


「藤森くんたちと、お昼ご飯いきませんか?」

「あ、そうか。お昼の時間か……行きます行きます」


「黒江くん今日も凄く集中してますね!」


あ、いや全然してないというか出来て無いんだけど……。


俺はそのままユーリちゃんに連れられ新卒の5人で近くの定食屋でランチを取ることになった。


"日替わり定食500円"

中々いい感じのコストパフォーマンスだな。


「なぁ、黒江? きいてる?」

「え、あぁ藤森か……」

「藤森か……じゃねぇよ、さっきの流れの話黒江は覚えられそうか?」


「いや、中々複雑だなと思ったよ」

「黒江でもかぁ……」

「あーしも難しくてサッパリだよー」


「宮下は?」

「そうですね。 井原さんも仰っているようにいきなりは難しいので大枠でまず覚えて、それから細かい所は詰めるしかないかなと……」


「わたしも流れからですかねぇ」

「塔野もかぁ」


食堂では講習の内容の事で会話が弾んでいる。ユーリちゃんに今日の夜の話をしたいのだけど話せる空気じゃないな……。


ヤバいな、ユーリちゃんに気をとられ過ぎて全然参加出来ていない。集中しないとな。一旦今日の夜の事は置いておいて後半は集中だ。


後半は明日から始まるOJTの話と、接客での名刺の渡し方なんかを主体に実践講習だった。


実践な事もあり俺は何とか集中している。


「では次。黒江さん」

「はい!」


「いらっしゃいませ、ご予約の田中様でよろしかったでしょうか?」


「はい、ストップ! 案内の際は"よろしかった"ではなく"よろしいでしょうか?"です、過去形にはせず現在進行形でもう一度お願いします」


「すいません……」

「いらっしゃいませ、ご予約の田中様でよろしいでしょうか?」


これぞ騎士の嗜みか……言葉の規律は大切だからな……。


藤森や新谷はもちろん苦戦していたが、宮下やユーリちゃんも細かく指摘をうけた。


こうして俺たちは社会の洗礼と規律を叩き込まれ、次の日からのOJTの説明を受けこの日は終了した。



よし、待ちに待ったユーリちゃんとのデート。こういった経験がない場合どの様なスキルを用意すれば……昔やった恋愛シミュレーションゲームでも思い出して……


思い出して……


あれ? ユーリちゃん、何で藤森達と集まって……いやいやまだ焦るタイミングではない。


みんなとさよならしてからこっそり二人になる感じだな?


「おーい! 黒江、行こうぜ?」


研修室は最後だしな!

俺はエレベーターにのると違和感を感じる、帰るだけじゃないのか?


「なんだ? 今からどこかいくのか?」

「あれ? 塔野さんから聞いてない?」


「わたし言いましたけど……黒江くん、集中してたから伝わらなかったかな……?」


「!??」


「懇親会だよ! 懇親会!」


え? ユーリちゃん?


ま、まさか!?





そういう事だったのか……。

俺のライフは1になりステータスには"瀕死"と表示されているのが見えた。

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