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ラスボスは魔王だっけか?

俺は少し疑問を持ったままディスカッションをつづける。


マスターの発言内容により、全員に少し間が空いた。無理もない、思考の急激な変化にすぐ対応できる奴ははそうはいないだろう。


ここはおれがサポートしていくか……。


即時思考型の戦士タイプの藤森に振れば、流れは戻す事は可能だろう。だが的外れな方向を向きかき乱す可能性もある。


熟考型の宮下や友好型のユーリに振るのはきっかけの無い今ではない……取り急ぎは話しやすい流れを作りつつきっかけを作りそうな共感型の新谷か……。


「とりあえず、新谷さんはショッピングとか良く行かれますか?」

「あーし? 良く友達とはいきますけどー、どうしてですかぁー?」


「いやぁ、この場合ターゲットを気にしないとなると買い物する時の経験なんかが参考になるかと思いまして。面白いサービスのお店とか知らないですか?」


「でも、あーしがいくのはぁ服屋さんとかぁ、スイーツの店? うーん他にはご飯食べにいくのがほとんどですよー?」


新谷は肩まで伸びたパーマが掛かった様な髪を捻った。


「なんか面白かった店とかありました? あ、塔野さんも買い物とか良く行ってそうですよね?」


「わたし? 買い物は行きますけど……最近ハマってるのはパリパリしたクレープのお店に良く行ってますね」


「あーそれ! クレープに花火刺してくれるところじゃなーい?」

新谷の共感スキルが発動する。


「そうそう! あそこの店つい行っちゃうんですよねー。新谷さんも行った事あります?」

「うんうん、あーしも好きだよー!」


パリパリのクレープか。空気を変える為に話しを振ってみたもののどう問題に着地させるかが問題だな。


「あ、あのぉ……」

「お、宮下さんなんか思いついたんすか?」


少しづつだが議論をしていたことで打ち解け始めているのを感じる。コミュ力の高い奴のこういうときの距離の詰め方は見習わないといけないな。


「自分が思うに、新谷さんや塔野さんが同じ店に行っているのは凄い事だと思うんですよね……」

「えーなんで? 結構有名な店だよー?」

「そうですよ、口コミなんかもよく聞きますし、行ってても不思議じゃないですよ!」


「あ、なんか……自分が言うのもおこがましいかもしれないですが、新谷さんと塔野さんって全然タイプが違うと言うか……何というか……」


「まぁ、新谷はギャルだしな!」

「ちょっと藤森! 宮下くん! あーしギャルじゃないしねー!」


塔野は俺をちらりと見る。

「あ、塔野さんは可愛らしいアバターですね」

「アバター?」

「ちょっと黒江くんもギャルだと思ってるのー?」

「えーっと、ギャルじゃないなら踊り子てきな?」

「なによそれー!」


「あー、まぁ宮下さんの意見は結構いいところを突いてるとおもう。職業が違う様な2人が行くって事は共通の需要があるからなんだろう」


「わかった! 幅広く買いたくなる様な事を考えればいいんだろ? クレープに花火さすみたいな!」


共通の需要、この場合は"花火を刺す"という話題性なのだろう……。


「なら花火してみるのもいいんじゃね?」

「藤森は考えてなさすぎじゃん」

「いやいや、考えてるよっ」


目立つ物に合わせてさりげなく商品に注目させるのは良さそうだな。


「簡単にまとめると、"注目される様な物と合わせて話題性を作る"を商品に当てはめるのがいいかもしれないとおもうけど、どう思う?」


「それなら万人受けしそうだよな!」

「あーしも賛成!」

「わたしもいいとおもう!」

「自分も異論ありません」


「まぁ、ラスボスは見えてきたわけだが。うちの会社の商品って"家"なんだよね……」


「それなら簡単じゃないすか?」

「藤森は何か思いついたのか?」

「要は目立たせればいい訳だから、アートにしたらいいんじゃねすか?」


アート? 家自体に付加価値を付けて宣伝を兼ねるのか? これは意外と戦士藤森、会心の一撃になるかもしれない!


「うん、それいいと思う!」

「藤森やるじゃん!」


「ただ、どんなアーティストに頼むか?だよなぁ……」

「バスキアとか?」

「藤森くん、それは予算出ないとおもう」

「やっぱり?」


それから、ラスボスが決まった俺たちはパソコンでアーティストを検索して目星を付けて行くことにした。


こうして作業や議論をしているうちに即席パテだったはずの俺たちはどんどん打ち解け、お互いの距離感や性格を掴みはじめた。


同期の新卒という事もあり先輩後輩と言った部分がなく同世代なのも打ち解けるのが早い理由だろう。


今ジャンル分けするならチャラ男、ギャル、ガリ勉、天使、ゲーマー。


もちろん俺は"ゲーマー"だ。


そして打ち解けた事で時間より少し早くまとめに入る。


数字面などの資料や文章はガリ勉の宮下。

ギャルの新谷と天使ユーリちゃんは発表資料に纏める。


チャラ男の藤森と俺で発表の段取りを打ち合わせることにした。


こうして俺たちのパーティは発表というレイドボスに万全の体制で挑むこととなった。



♦︎



時間が来ると、魔術師井原がお供を連れて登場する。


いや、お供じゃない。

魔王と四天王レベルじゃねーか。


空野社長を魔王に置き、人事新規育成の魔術師井原、経営企画の魔神、営業の鬼神、そして広報の女神とラスボス勢揃いとなる。


いやいや、即席クエストで挑む相手じゃねーぞ!


「な、なぁ黒江……あれって幹部陣だよな?」

さすがの藤森も緊張している。


「あぁ、そうだな……」

「打ち合わせ通りやれば大丈夫だよな?」


「まぁ、やってみるしか無いだろう」

「そうだよな……なんかお前、すげー落ち着いてて勇者みたいだな?」


「まぁ、俺はギルドマスターだからな! バージョン4.2までのラスボスは4回はクリアしている経験がある」

「ははは、なんだよそれ、やっぱりお前ゲーマーだったわ」


こうして俺たちの渾身の作戦をラスボスにぶつけた。


題して

"アートで付加価値をつけてバズっちゃおう計画"


まとめた内容を俺が解説し、藤森が所々アドリブで説明に色を付けわかりやすくする。


ラスボス一行は終始落ち着いた雰囲気で俺たちの発表に耳を傾けていた。



というわけで結論として、こちらの物件の売却を目指して注目される事で弊社のサービスを知って頂くという施策です」


パチパチパチパチ。


人数の都合上、数は少ないが拍手を頂き締める形で俺たちの連携攻撃を出し切った。


発表が終わると、魔術師井原が前にでて話しはじめる。


「えー、皆さま。ディスカッションお疲れ様でした。 内容を聞かせて頂いた限り、私が考えていた以上の成果を生み出す事が出来たのではないでしょうか?」


「頑張ってよかったね」

ユーリが俺のとなりで囁いた。

俺は前を向いたまま左手の親指を立てて返した。


「今回の目的としては、ディスカッションを通じて今期の新卒の皆さまが打ち解け、今後それぞれ配属された際もコミュニケーションの取れた団結力となればと思います」


そうか!

俺がずっと引っかかっていたのはこれだ。

企画でネタを引き出す事が目的ではなく、俺たち5人の団結の力を高めるため……所詮はチュートリアルちゃんと纏まりさえすればクリアだったのだ。


「ただ、代表より伝えたい事があると聞いておりますので変わらせて頂きます」


そう伝えると、空野社長は立ち上がり俺たちに話しかけた。


「みなさん、最初に見ていた雰囲気より大分打ち解けましたね。今回一部始終見させてもらいましたが、内容としてとても面白いと感じました。そこで緊張されるかと思いつつ経営企画の部長など聞いて頂きたい役職者を呼んでいます」


本来は呼ぶ予定は無かったということなのか?


「ただ、このように緊張する場面に臆する事なく発表出来たという経験は今後も役に立ち、またこれからも沢山こう言った予想外の事はあると思いますが、乗り越え会社の需要な人物となる事を期待しています」


ある意味エンディングだな。

今回の企画は、経営企画より調整、取り纏めを行い実施にむけてプロジェクトとして始める予定なのだという。その際今回のメンバーもプロジェクトチームのメンバーとして参加する形で纏まり次第声がかかるらしい。


これはレアエンディングパターンではないか!


これからは明日の講習を終えたあとOJT(On-the-Job Training オン・ザ・ジョブ・トレーニング)という形で店舗に配属となるそうだ。


要は現場で覚えろって事だな。

明日でこのパーティともお別れか……大学時代なら仲良くなっていないと思う奴もいるが、少し名残惜しい気持ちになった。


そんな事を考えつつ勤務時間が終わると、俺は鞄を持ってエレベーターに向かった。


すると、

「あーっ、ちょっと待って下さい!」

慌てたような声が聞こえる。振り向くとユーリが小走りでこちらに来る。


「黒江くん、明日終わったらご飯いきませんか?」


ん?

ユーリちゃん、まさか俺の事……?


「あ、えーっと、嫌……ですか?」

「いや、そんな事はないよ! むしろ誘ってくれて嬉しいよ!」


そういうとユーリは微笑んで

「良かったぁ……それじゃまた明日もよろしくですっ!」


そういうと荷物を取りに戻っていった。


えーっと、

うーんと、


春かな?? 春だけど!

少しずつブックマークや評価が増えてきました!

読んで頂いてありがとうございます!


引き続き更新頑張りますので、良ければブックマークや評価、よろしくお願いします!

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