即席パーティをまとめるんだっけか?
マスターが言った"フレームワーク"とはなんの事なのだろうか?
俺は家に帰ると早速調べてみることにした。
枠組み、思考……問題解決などに役立つ分析ツールか。
なるほど、マスターは俺のギルマスでの経験をこの様な考え方として捉えているわけか。
攻略法=問題解決する枠組み
と考えるとしっくりくる。それぞれのメンバーの思考をフレームワークとして捉え、本来解決すべき難題の解決に近づく。
ギルマスでもそれぞれの意見を纏めるのはかなり骨を折る作業だった。ギルドの事をそれぞれが真剣に考えている分何をどの様に捉えているか? この部分での一つの解決策ではないだろうか?
だが、今俺が攻略しなくてはならないものは明日のディスカッションというクエスト……みんなでクリアと考えるとレイドボスだな。
まだ問題は共有されていないという事は、まさに緊急レイド。
マスターは俺の戦略に興味がある、という事は明日のレイドでの解決策を知りたくて参加するわけで、となると即席パーティでの解決策の纏め方か……。
不覚にも今日はユーリ以外とはほとんどコミュニケーションが取れていない、しかもユーリでさえ雰囲気がわかる程度か……しくじったな。
だが、他の3人もコミュニケーションを取っていた様な様子はなかったしイメージとしては混合ギルドパテに新人のギルドメンバーが1人いる感じで比較的俺が有利になる訳か。
取り急ぎ明日はユーリと早い目にそれとなく話しておくか。
♦︎
次の日俺は少し早い目に家をでた。
例えレイドボスがいなくても事前に下見しておく事は重要で、あわよくばユーリと話しておきたい。
オフィスに着くと開いてはいるが、まだほとんどの社員は出社していない様子だった。
「おはようございます!」
「おはようございます……あぁ、新卒の? 早いねぇ」
何名かの役職者らしき人がいる中、俺は挨拶しながら、研修で使用している会議室に着いた。
(まだ、誰も来ていないみたいだな)
流石に今日の課題を知る事も出来そうにない。だが、机の並びが5人で囲うように変えられている。
これを事前に知れただけでも収穫だ。
まず、囲う形という事はその様にディスカッションを行うという事だ。これだけで円卓会議なのか、進行する議長がいるのかがわかる。
という事は、ほぼ課題を投げるだけで後は俺たちが話し合うという事になる。
次に、奥側にホワイトボードがある。
まぁ、これは内容を纏める際に使えというわけで自動的にホワイトボードに近い奴が取り纏める形になりやすい。
俺はホワイトボード側に鞄などを置いて場所を確保した。
「おはようございます!」
「おはようございます」
そうこうしているうちにパーティメンバーが1人来た。予想の範囲内だがユーリではなかった。だが一対一で話すチャンスだ、あわよくば手駒に加えられるように話してみるか。
「初めまして、クロエです」
「あ、こちらこそ初めまして、宮下です」
「今日のレ……課題はディスカッションみたいですね、何か準備とかされてますか?」
「そうなんですか? あー、それで……ちょっとこういうのは初めてなんで……」
宮下は男2名のうちの片割れだ。まぁ課題を知らないところを見ると調査はしていない初心者だ。
初心者には優しく声をかけ、同調する事で警戒を解ける。
「そうなんですよ、自分も初心者なのでちょっと何するのか気になりますね〜」
「そうですね、同期になるのでよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしくです」
そうこうしているうちにユーリも部屋に入ってくる。
「おはようございますー」
「あっ、塔野さん! おはようございます」
「おはようございます」
ユーリは俺の隣の席に来ると、
「隣いいですか?」
と声をかけ、「どうぞ」と返す。
ここで俺に気があるのでは? などとは考えてはいけない。ユーリの様にコミュ力のあるタイプは比較的個人チャットなどで少しでも話した事のある人で周りを固める習性がある。
向かいに宮下、右側にユーリ。
部屋の角を後ろにする事で部屋の様子が見やすく、話しやすくなった奴を近くに固める事が出来た。後はなにが来ても俺の陣形は崩れる事はない。
これで心置きなくレイドボスを迎える事ができるわけだ。
♦︎
あと少しで研修が始まる。
まさにレイドボスを待つ心境だ、だがこれは"インペリアルブレード"とはシステムが違う。時間ぴったりにはボスは現れるだろうが、簡単なチュートリアルから始まるはず。
時計の針が10時ぴったりをまわるとボスを召喚する魔導師が現れた。
人事部新規教育担当の井原
……さんだ。
「えーっ、おはようございます」
「おはようございます」
「はい、今期新卒5名を迎える事となり、弊社として皆様に1つの課題を持って来ています」
そういうと井原さんはパワーポイントの資料をスクリーンに映し出した。
ふむふむ、これがレイドボスの討伐依頼書という奴だな。
「今回の課題は"新規獲得に向けた新しいサービス"を新卒5名で話合って頂き、一つの企画として纏めて頂きたい」
新サービスだと?
ほぼギルドの運営課題みたいなものじゃねーか。
いや、まてよイハラは企画とまでしか言ってはいない。となると1つの企画として検討する事もあるという事か。
流石にそのまま実施するつもりは無いらしいな。だが、この企画を打ち出すには情報がすくなすぎるのではないか?
「ここで3つ、注意点を提示いたします」
1.会社の方針に沿った内容である事
2.実現の可能性のあるもの
3.利益に繋がるもの
「この3つを念頭に置いて話して頂きたい。本日は16時までに内容を固め、その内容を纏めて頂き、17時より発表して頂きます。紙やパソコンなどのツールは用意していますので発表の方法は皆様で決めて下さい」
レギュレーションなしのフリースタイルという訳か……。
まぁ、ある程度は予想通り、後はこれをいかに纏めていくかだな……。
ここはユーリと宮下を取り込みつつ話し合いの枠組みをつくっ
「よろしくお願いします! あ、俺藤森っていいます、一旦自己紹介しませんか?」
いきなり切り込むだと? イケイケタイプの見た目だとは思っていたがこいつは前衛の先制攻撃タイプか?
もう1人の女は新谷という少しギャル風の女の子だ。
こいつももしかしたら前衛タイプかもしれない。この場合切り込むべきか? いや、印象的にも少し様子を見た方がよさそうだな。
俺たちはそれぞれ簡単に自己紹介をすませる、奴の先制攻撃でこれで人間関係での有利な部分は無くなった。
「とりあえず、みんな思いついた事言っていくのがいいと思うんですけどどうすか?」
藤森は少し砕けた様に言うと、反対する人が出る訳も無く話は進む。
俺は思考を巡らせ考える。
この場合、それぞれの職業の把握が必要だ。
まず、藤森は切り込んでいく戦士職、ユーリは場を柔らかくするヒーラーだ。様子を伺っている様な宮下は盗賊辺りで警戒しておくか……新谷は……いきなり同調してバフをかけそうだから踊り子や吟遊詩人あたりか?
俺は補助スキルを回しながら魔法職で調整していくか……。
「俺、新規獲得だからチラシを撒くのがいいと思うんだよね」
「あーしも、それいいと思う」
藤森と新谷は予想通りか。
"補助スキル発動!"
「なるほど、問題は注意点の部分ですね」
「うんうん、会社の方針にって部分が気になりますよねー」
「じゃあさ、オシャレなチラシにしたらいいんじゃねーかな?」
「なるほど、チラシ自体に高級感ですか」
チッ、前衛の脳筋どもめ。
そんな施策でいいのなら、広報なんかの部署もあるのだからとっくにアプローチしているだろう。
さてどうするか……。
この場合はそれぞれ意見を出す訳だから少なくとも対案を提示する事はできる。
このボスは最後にハイダメージの全体攻撃で負ける一撃必殺系のボスだ、いかにそれまでに体制を整えておき生き残るかが肝心。
あまり否定的な技を出しても前衛が崩れかねないからなぁ……。
対案を出し、メリットデメリットを出して解決していく形で脳筋どもにわからせるしかないか?
よし、ボスを倒すにはまず、弱点を攻める必要がある。このボスの弱点とは、目的。
わ目的が果たせるならクリアと言っていいだろう。
新規獲得だから集客、さらには貴族の集客が出来るニーズを捉える事だ。チラシ案での違和感はそこにある。
だが指示を行い、立て直すやり方は信頼感が出来ているパテでしかできない。即席のパテの場合は崩れる可能性がある。
どうする?
似たような状況はなかったか?
同じギルドメンバーで行く事が出来ない……
"ログインの少ない早朝のレイドだ!"
そう、さらに言えば、始めたてで武器の強い武闘派ギルドの奴らとの即席ぱて。
"一旦体制を立て直そう!"
よしっ!これだ!
「高級感のあるチラシを1つめの案にしよう、他に思いついた人はいますか?」
2人とも納得したように次の意見を待つ。
この場合突っ走ったことは責めず受け入れ、実は聞いてみたいであろう別の案に視点をそらす。
誰だって攻略したいはずなんだ。
ここで、意見を求めるべきは黙って状況を見ていたであろう盗賊、宮下だ!
「宮下さんはどうですか?」
「自分ですか?」
さぁ、存分に索敵スキルを発動してくれ!
「自分はまず、富裕層にターゲットを置いているという会社の方針から考えてみたのですが晩餐会など富裕層が集まる場所で商品を紹介すると言うのはどうでしょうか? あぁ、まだあんまり固まってはいないんですけど」
なるほど、充分だ。
これだけきっかけがあれば前衛が攻めてくれる筈だ。
「それならモーターショーとかがいいんじゃないか?」
「えーっ? でもそんな事できるかなー。あーしはブランドの展示会みたいな方がやりやすいと思うんだけど……」
前衛、バフペアの意見が割れたか?
だが、ここを決めるには予算や前例の様な会社自体の情報が必要だ。
「確かに色々な方法があると思うけど、客層なんかがイメージ出来て無いんですよね」
「それもそうだよなぁ、モーターショーやファッションに興味ある奴が購入者って訳じゃないからなぁ」
当初から懸念していた問題点だ、この部分は情報が無いから俺もなんとも言えない。
まずいな、このままでは詰まってしまうな。
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それから色々議論はなされたがどうも決定打には欠ける。打開策は無いだろうか?
そんな中、聞き覚えのある声がする。
「なかなか面白そうな議論をしているじゃないか?」
「しゃ、社長! お、おはようございます」
いつからいたんだ?
議論に集中していて全く気づけなかった。
「ターゲットに気づいたのはいい視点ですね。だけど今回は会社を知っている人が考えるようなターゲットに適したものよりも、一般的な視点で"嬉しい""楽しい"と言った喜んでもらえる様な内容が君たちからでてくれる事に期待している」
「という事はあまりターゲットは気にしない方が良いのでしょうか?」
「まぁ、気にしなくていいというと語弊があるかもしれないが、ターゲットよりその施策に参加する人がどうすれば興味をもつか? を考えてみてくれないか?」
「はい! ありがとうございます」
そういうと空野社長はまた席から少し離れた席に着いた。
意図は新しい目線なのか?
いや、まだこのディスカッションでの意図を何かを見逃している気がする。
それは……一体なんだ?
反響が全然ないけどまだまだこれから!
なかなか内容をコンパクトに出来ない!
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