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悩みながらもアポ取るんだっけか?

仕事に行きたくない。

そう思うには充分すぎるくらいの別れ方をした。


昨日俺は一体どういう言葉をかけるのが正解だったのだろうか? 


「応援するよ」


いやいやお前は何を知っているのかとなりかねない。いっそのこと告白でもするべきだったのか?

それこそ振られて会社になんていけるものか……。


あのあと、川谷さんの家になきつきに行ってたりとか……正直考えたくもない事ばかりがめぐる。


重い足を無理やり職場に向け、頭を仕事に切り替える為に契約までの流れをなぞりながら歩いた。


店に着くと、営業資料を見返す。

始業時間が始まる頃にはユーリちゃんも席についているのがわかった。


普通に話して居るユーリちゃんに少し心苦しくなる。


昨日の事は気にしていないのだろうか?

それとも……。


頭の中がいっぱいになる。

すると川谷さんの声が俺に突き刺さる。


「おいっ黒江、お前いけ!」

「えっ? なんですか?」


「お前何ボーッとしてんだよ、お・きゃ・く・さ・ま! 来てんだろ!」


「は、はい!」

「早くいけよ! で、取って来い」

「承知しました!」


ブースに向かい名刺とアンケートを渡す。

60歳位の老夫婦、資産はあるが子供たちが結婚して家を出たとかそういった感じか……。


この場合は、警戒心を解く為にデバフから入るか……?


「よろしければ、住所や名前以外はこちらで記入いたしましょうか?」


「すまんね、少し老眼がすすんでいてなぁ」


この場合、アンケート内容に合わせてそれ以上のヒヤリングにも繋がる。俺の建てた仮説を修正していく事が出来る。よし、集中できている。


場所に重点を置くタイプなのか、それとも間取りや設備なのか? 探る様に、プライベートにも触れながらヒヤリングを繰り返す。


流れとしては順調だ。


ヒヤリングしていくうちに思っていたよりお年を召している方で孫ももうすぐ成人するという事も分かる。旦那様は役員としてまだ現役だが近いうち引退するのでそれに合わせてという事か……。


孫が泊まる事を考え今の家でいたが、もう泊まりに来る事がなく部屋は2DK程度……。


ゲストルームのサービスは必殺にならないだろうか?


俺はそれを目指しバックグラウンドのヒヤリングを、行う。


今悩んでいるのはもし泊まりたいと言ってもらえた時の泊まる場所……来た!


「でしたらマンション内にゲストルームのあるところを3件ほど紹介させて頂きますので内覧してみませんか?」


「そんなサービスがあるのですか?」

「はい、同じような悩みを持たれる方も多く、そういったお客様に勧めさせていただいています」


「そしたら、そこを内覧させていただきましょうか……」


よし、とりあえずアポに繋げられた。

俺は日程を設定しお客様を送る。


「黒江、今の提案は良かったぞ!」

「ありがとうございます」


「今回の案件から付いては行くが、基本的にクロージングも任せるから流れと、見られた時の対策を考えておけよ」


「はい」

「そしたら、アポ先への連絡と駐車券など事務に手配しといてもらえ」


「は、はい」


という事はユーリちゃんに……いや仕事だ仕事。


「塔野さん、すいません……」

「なんですか?」

昨日の事、気にして無いわけでは無い様子。まぁ当たり前なのだけど。


「この3件の連絡と、ここのチケット欲しいんですけど」

「分かりました、手配したら置いておきます」


この空気いつまで続くのだろうか?

何か解決策はないだろうか?

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