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本当はどうなんだっけか?

ついに来たか……。

正直、内覧のアポを取るのは難しくは無いだろう。単純な話、電話の時点で"オレンジタワー"に興味があるわけで、開口一番に内覧の話を出せば見てみるしかないとなる筈だ。


だが、川谷さんは"エグゼクティブヒルズ"の話を俺にした。という事は"オレンジタワー"のアポをそのまま取るのは正解ではないという事なのだろう。


川谷さんが聞き出した大きな情報は3つ。

1つは"オレンジタワー"に興味がある。

2つ目は、既にタワーマンションに住んでいると言う事。

そして3つ目は結婚と出産を理由として引っ越しを考えている中年夫婦と言う事。


そう、相手は2人なのだ。

そして、俺がエグゼクティブヒルズを推す理由はデザイン面は劣るが立地や学区、生活などを考慮すると長く住むのであればこちらの方が向いていると言うわけだ。


よし、商人モードに切り替えていこう。

そう構ると、隣に川谷さんがいた。


「えっと……川谷さん?」

「なんだ? 一人で入るつもりだったのか?」


てっきり、俺だけで行くのかと思っていたが、そうではないらしい。


「基本的に話すのはお前だ。フォローするのが前提なのだから最初から居る方が違和感無いだろう?」

「そうですね……」


「いらっしゃいませ、(ひいらぎ)様、お待ちしておりました。こちらのブースへお入りください」


ここからは脳内変換。

商品は2つ、レジェンド級の武器が2つ。

相手の戦闘スタイルとしてはオレンジソードよりエグゼクティブソードを推すべきだ。


挨拶を済ますと、早速話を切り出した。


「本日は、(オレンジソード)がきになられてるのですか?」

「そうなんです、今の家が元々一人で住んでいたもので……幸い事業も軌道に乗っているのでいい所に引っ越そうかと思いまして」


なるほど、事前情報には相違はないな。

価格帯もあまり気にはしていない様にみえる。


「なるほどですね、きになられた理由はやはり広さと間取りですか?」

「そうですね、あとはデザインも気に入ってまして」


レジェンド武器の売買でもよくある話だが、デザインが気に入ってるというのは大きなメリットだ。ここは尊重しつつ、提案するのが妥当だろう。


「そうですね、常設の設備などもかなりこだわりのある(武器)ですからね! ところで、何故内覧希望ではなく相談に来られたのですか?」

「そうですね。事務所や、お店の物件ならある程度わかるのですが、住むとなると嫁にも納得してもらいたいので……」


なるほど、目的としては嫁の説得か……。

この場合は下手すると意見が割れる可能性もあるな。


「ちなみに奥様は何か希望があるのですか?」

「私ですか? そうですね、もうすぐ子供も生まれ、旦那より長くいる事になるので施設や立地なんかも気にはしています。ですがなんとも……」


まだ、必要なものは見えていない感じか。

「そうなのですね、そうしましたら比較用に子育ての部分で人気のある物もお持ちしますね」


「お願いします」


そういうと、俺は用意していた(オレンジソード)(エグゼクティブソード)の2つの資料を開き見せる。


すると川谷さんが話始めた。

「今、お話を伺った感じですと、子育ての際での不安がある様に感じたのですがそのあたり少し伺ってもよろしいですか?」


「はい……



それから川谷さんは色々と質問を話の流れに合わせ繰り出した。


まだ、今後どんなものが必要なのか?

幼稚園や学校に関してはまだほとんど調べられていない事。

引っ越しは改修前を目処に考えている事など、勧めると言った言葉は何も話さずただひたすらにヒヤリングを行う。


「なるほど……でしたらこちらのエグゼクティブヒルズを周り含めて内覧してみませんか?」

「はい! 私はこちらをみてみたいです」


ん? 俺には何が起こったのかよくわからなかった。


「あとですね……内装ですけど、合計の価格としてはあまり変わらない形で有名デザイナーと相談して改修できます。 ただ内容によっては価格はあがりますが、オレンジタワーの設備と同等位までなら費用はほとんど変わりません」


「そんな事が出来るんですか?」

「そうですね、弊社ならではのサービスとなっていますので良ければこちらの資料で内覧までに検討してみて下さい!」


と言った具合に、最終一言づつ勧めただけで内覧をエグゼクティブヒルズだけにし、改修の案内での種を蒔いた。


日時を設定し、見送ると川谷さんは言った。

「まぁ、及第点だな。最初にしては悪くはなかった」


「川谷〜ヒヤヒヤさせやがって〜」

マスターがホッとしたように声をかけた。


だが、これくらいニーズのあるタイプの人ならフォローも含め大丈夫なのではないか?


「黒江、店長の反応が不思議に感じてそうだな?」

「ま、まぁ……」

「優良顧客。今のは月に数件くるか来ないかレベルの確実にサービスを提供しないといけないお客様だ」


「それって……」

「いわゆるうちのターゲット層だな、本来なら山野でさえ俺や店長が付くかもな」


月の売り上げを左右するメインターゲットか……。


「今回の接客は入って間もない事を考えると仕方ないのだが、ヒヤリングが弱い。自分で相手のニーズを決めつけるな、あくまでか俺らはアドバイスするだけで決めるのはお客様というのを忘れるな」


ニーズを決めつけるな……か。

たしかに俺は資料の情報で子育て世帯とくくり教育環境などを考えていると思っていた。


だが、実際は考える前の段階。

細かい話ではあるが、それだけでも必要な情報は変わってくる。


生理的に苦手なタイプだが、この人は接客のエースにふさわしい視点とアドバイスをくれた。


でも何故急に接客させようと思ったのだろうか?


まさかユーリちゃんに話しかけていたのも俺の雰囲気などを知る為なのか?



いや……まさかな……。



俺は新しい物件情報を確認しながら、川谷と言う人物の本心が気になっていた。

今回も最後までありがとうございます!


よければ感想などお待ちしていますのでよろしくお願いします!

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