商人ギルドは甘く無いっけか?
「黒江さん。貴方が弊社を希望された理由はなんでしょうか?」
「えーっと、私は御社の社風に魅力を感じまして……」
「では、弊社の社風のどんなところに魅力を感じたのでしょうか?」
「それはですね……あ、アットホームな……ところに……」
「はい……わかりました……」
♦︎
「おーい! 清隆ー、面接どうだったんだ?」
「はぁ……今回も終わったなぁ……」
「なんだよ、また上手く話せなかったのか? 天下の"クロエ商会"のギルマスも面接には弱いってか?」
俺、黒江清隆は大学4年絶賛就活中だった。
「いいよなぁ〜俺と同じ様にゲームばっかりしてたはずのお前は就職決まってさぁ」
こいつ中野喜一は高校からのゲーム友達だ。大学も同じだったこともあり、仲がいい。
スマホのMMORPG"インペリアルブレード"サービス開始から4年たったいまでも100万ユーザー以上のモンスターゲーム。
俺たちはその"インペリアルブレード"のヘビーユーザーだった。
「面接官も見る目ないよな、清隆の商業スキルに気づけないってか?」
「まぁ、ゲーム内限定のスキルだからなぁ」
そう、俺はゲーム内ではサーバー内、資産1位の商業ギルドのギルドマスターをしている。ソシャゲの特性上、戦闘系のギルドはどうしても大きな課金が必要になってくる。
そんなプレイは時間は有ってもお金のない貧乏学生には難しい。そこで俺は、ゲーム内のアイテムや素材の売買を行い通貨を稼ぐギルドを設立しゲーム内で財を成し得た。
「でも商業ギルドでギルド資金1位をとりつづけるなんて中々出来る事じゃないぜ? もっとゲームみたいに調べて挑めばいいって」
調べてかぁ……確かに。
「ちょっとギルマス引退するかな……」
「マジで引退ってか?」
俺は帰り道、ギルド幹部にメッセージを送り就活の為にギルマスを引退する事を告げた。
よってこや:クロエさんギルマス引退しちゃうんですね……
ナツキ:マスター、悲しいですけど就活じゃ仕方ないですぬん。
クロエ:そういうわけだ。ギルドの倉庫は次のギルマスのよってこさんの好きにしてもらって構わない。
よってこや:クロエ商会は任せて下さい!また落ち着いたら戻しますんで!
クロエ:ありがとう! ちょっと就活してくる!
全員:いってらっしゃいマスター!
(クロエがログアウトしました)
俺はスマホを置いてパソコンの電源をつけた。
ふぅ……これから受ける候補は2社
・株式会社リクソン
音楽機材の会社。基本的には業者間取引のBtoBがメインで小売も始めた会社。
給料は……悪くないな。
・アトモスフィア.co
不動産関係の会社。物件売買の取引で店舗展開している会社か。
名前がゲームみたいなのがいいな。
……とこれくらいは普段から調べている。
売買するのが好きだから販売関係でピックアップしているのだが、何がダメなんだ?
(向いているはずなんだけどなぁ)
早速、躓いたのだがどうするのか……就職マスターの喜一にでも聞いてみるか。
俺はスマホを取ると喜一に電話をかける。
プルルルル、プルルルル
「おっ、清隆。何かあったっけか?」
「いや、早速躓いてな。おまえ面接の時どうやったんだ?」
「まぁ、俺は元々やりたい事だったから、スイスイと話しが弾んだっけかな?」
「なるほど……参考にならん!」
「いやぁ、清隆らしさを出していけば受かるんじゃないっけか?」
「俺らしく?」
「インペリアルの中だと思って話せばいいんじゃないか? 他のギルドとの交渉や、クエスト、レイドをまとめている時みたいにさ! そうすりゃ上手く行くんじゃないっけか?」
ゲームの中の様にか……。
「だけど、現実ではウィンドウなんかも開く事は出来ないし……」
「それじゃないか? ウィンドウを開ける様にすればいいんだよ……っけか」
「なるほど……って出来るわけねーだろっ」
「ははは! まぁ、でもゲーム内でも戦闘中とかは開けないしな!」
「戦闘中? それだ! それだよ喜一!」
「ん? なんかつかんだっけか?」
「ありがとう! 次は受かるぜ!」
「まぁ、見つけたならいいっけか……」
そうだ、面接は戦闘だ。さらに言えば、レイドボス、それも適正レベル以上。いかにして面接官というボスを攻略していくかなんだ。
♦︎
そうと決まれば俺のフィールドだ。
まずは防具!
面接レイド攻略に必要なのはプラスの効果じゃない!マイナスの状態異常をいかにして防ぐかが肝心だ。
髪型は……当たり障りのない、強いて言えば短髪で清潔感のあるやや2ブロック気味にやり過ぎないのが肝心。
服装は、就活スーツだが、サイズ感だな。この辺りは攻略サイトで最も印象がいいサイズ感を選んでくれる店にする。
問題は資金だが、就活の為と言えば手持ちに多少の援助は取り付けることができるだろう。
よしっ、これで防具の手配は完璧。
状態異常で不利になり死ぬ事はない。
次は攻撃、いくら防具を固めてもダメージを与えていかないと始まらない。面接にとってのダメージは……"雇いたい"と思わせる事。
俺のギルドは資産No1。スカウトももちろんしていたが、入りたい奴も今まで何人もいた。入りたい奴は比較的そこまで強かったり稼げていたりする奴は少ない。
そんな中、俺が気にしていたのは
・今のメンバーと気が合いそう
・理由が明確
・長期的にチャットを盛り上げてくれそう
この3つ。
となると、俺がしなければいけないのは……
そのギルド。いや、会社の人が喜びそうな入りで打ち解け、俺を入れる会社の目標に対してのメリットをしっかりと伝えて魅力を伝えていくことだ。
準備として会社の目標などを調べておく必要があるな……資料などでこの辺りは固めておくか。
剣や魔法ではない、商人としての武器を使い攻略していく、これで俺を切る理由はなくなる。
これで次の面接はバッチリだ。
この攻略がやりやすいのは……アトモスフィア.co、知識のない音楽関係よりゲーム内の土地や店で何度も取引した事があるイメージしやすい不動産がいいだろう。
よしっ、次の面接でクリアだ!
♦︎
〜そして面接当日〜
準備はバッチリ。揃えた防具も調べた会社の内容からの受け答えもしっかりと武器になりうるレベルだ。
最強の商人クロエはここに健在。
いざ出陣!
俺はオフィスに着くと前で息をのんだ。
5階建ての自社ビル、そこまで大きくはない。入り口のガラス越しに受付の雑魚モンスターがいる。
(ここが今回のダンジョンか。準備しているとはいえ、ソロクエストはなんだかんだで緊張するな)
俺は自動ドアからはいると受付に声をかける。
「すいません、本日新卒の面接で来ましたクロエと言いますが、会場はどちらでしょうか?」
「黒江様ですね、会場は3階ですので右側のエレベーターよりお上がり下さい」
あっぶねー、ゲーム内の名前を苗字そのままにしておいて良かったぜ。
俺は印象を良くする為に
「ありがとうございます」
と微笑んで会釈をし、エレベーターに向かった。
3階、面接の部屋はこっちだな。時計を見ると俺の面接時間まで15分。時間前行動として早すぎることもないいいタイムだ。
時間が来ると面接の部屋に呼ばれた。合同ではなく1対2、担当人事と役職者か?小規模な面接の様だな。
「本日は面接に来ていただきありがとうございます、早速面接とさせていただきますがよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
俺は挨拶の後、空気を読んで椅子に座る。
「ではまず、弊社を希望された理由をお聞かせ願えますでしょうか?」
よし、ここまでは予定通りだ。
「はい。私はまずこのアトモスフィア.coという会社名にファンタジー感を感じカッコいいと思いました」
ギルド名を褒め憧れをみせる。
こういったカッコいい感じの名前をつけているギルドではこれが一番……。
「えっと、ファンタジー感とカッコいいですか……」
えっと……一番。
しまった、見誤ったか? ここで怯んではいけない。自分の意思だとしっかりみせつつ会社の方向性に沿って回答をする。
「はい、貴族様向けの不動産に特化し扱われているので、やはり名前も重要だと考えます」
「えっと、貴族? 確かに弊社は富裕層向けの不動産を中心に扱っていますが……まあ、いいでしょう。それでは入社されましたらどの様なことがしたいとお考えですか?」
おかしい、あまり手ごたえがないな。
だがこの質問は予想してある。
「はい、私が入社した際には商人として培ったスキルを活かし、御社に貢献したいと考えます」
「商人……ですか、ところどころ気になりますが言いたい事はわかりました。では具体的にはどの様など簡単で構いませんのでプランなどはございますか?」
「はい、まず富裕層向けのため商品の相場とニーズを把握し付加価値を付けて提供します」
「なるほどそれは何故でしょうか?」
「富裕層のお客様が求める物は相場を決めるのが難しいレアなアイテムに価値を感じる傾向にあります。そこでニーズに合わせた"レア"を提供する事で多少の価格に関わらず課金し購入に繋がると考えています」
「なるほど、相場の無いものにニーズを入れる事で購入に繋げていくという事ですね?」
「そうです。例えばプールを求める人にはプールを、玉座を求める人には玉座を。どの様なと言った部分はヒヤリングする事で提供が可能になると思います」
「わかりました、最後にあなたの目標をお聞かせ願えますでしょうか?」
「資産1位のギルド、いや会社にする事です!」
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「と言った感じで今までで一番手ごたえがあったんだ」
「マジでそんな感じだったんけか?」
「おう、我ながら完璧だろ?」
「いや、無理だろ?」
「え? マジで?」
俺は喜一の言葉に落胆したが、後日届いた物はまさかの"内定通知書"だった。
新しい話を始めました。
個人的には異世界物のつもりで書いているのですが、転生も転移も妄想でしかしないなんて異世界じゃねーよ!って方もいると思います。
好き勝手かいてますので暖かく見守っていただければと思います!




