35話 Aランク冒険者昇格試験(後篇)
お城のドアを開けて中に入ると、早速アンデッド系の魔物がお出迎えしてきた。
「この数はやばいな、カオル、敵にヒールを頼む!」
ミリアちゃんの指示に従って魔物に回復魔法を掛けていく、魔法1発で消えてくれる相手だけどとにかく数が多い!
主に翼くんとミリアちゃんが敵を足止めしてくれているけど押されるのは時間の問題だった。
「カオルさん、ヒールを範囲魔法化で打てませんか?!」
ユニちゃんが提案してくれる、でも範囲魔法ってどう打てばいいんだろう?
「ユニちゃん、どうすれば範囲魔法化できるかな?」
「魔力を集中させた後、広範囲に広げるイメージを持つのですわ!」
言われた通りにやってみる、いつも通りにステッキの先端に魔力を込めた後にその魔力を解放する感じで……
「白翼の天使よ、わたしに力を貸して!エリアヒール!」
呪文を詠唱すると、わたしの周囲にいたアンデッド達がばたばたと倒れていく。
どうやら数が多い分体力は低いらしく、効果が低くなった範囲魔法でも1発で倒せたみたい。
「カオルさん、ナイスですわ! この調子でお願いしますの!」
その調子でしばらく戦っていくと、どんどんアンデッド達が減っていきついに全員倒すことができた。
「よし、次の階に行くぞ」
階段を登って行くと、次は剣と盾を持ったスケルトンの大群が襲ってきた。
「ここは各自物理でぶん殴るしかないな、気をつけろよ!」
前の階層のアンデッドと比べて体力は多いけど物理攻撃や物理型の魔法が効くので戦いやすい。
「行くぜ! フレイムナックル!」
「貫きなさい! アーススピア!」
「吹き飛べ! ウィンドブラスト!」
「……ハイパースラッシュ」
わたしも水魔法で応戦していく。
「押し流して! ブルースプラッシュ!」
いつもの水流を出す水魔法をスケルトンに当てると、吹き飛んで形が崩れたまま動かなくなる。あまり魔物と戦うのは得意じゃないけどみんな頑張ってるしわたしも戦わないとね。
そうして戦っていくとこの階の魔物も倒し切ったみたい、次の階に進んでいく。
階段を登りきると見えてきたのは大きな扉とその左右にある小さな道だった。
「これは……左右でパーティーを分断させるトラップだな、さてどうするか……」
ミリアちゃんがしばらく悩んだあと答えを出す。
「よし、あたし、ユニ、アリスで左の道を進む。ツバサとカオルで右の道を進んでくれ」
言われた通りに翼くんと一緒に道を進んでいくと、すぐに行き止まりにたどり着く。そこには壁に小さなボタンが付いていた。
「罠かもしれないけど……押さないと進めなさそうだよね」
「……そのようだな」
「じゃあ押すね」
ボタンを押すとギィィと扉が開く音と同時に、眩しい光が目に入ってくる。
光が収まって目を開けると、武装したオークが数体帰り道に現れていた。おそらく召喚されてきたのだろう。
「……こいつは俺が倒す、薫は補助を頼む」
そう言って敵に切り込んでいく翼くん、やっぱり頼りになるね。道が狭いせいでオークがうまく動けなかったせいか勝負はすぐに付いた、補助しなくても余裕で勝てちゃったや。
扉があった部屋まで戻るとミリアちゃん達も戻っていたので合流する。
「よし、おそらくこの扉の向こうがボス戦だ。準備はいいか?」
みんながうなずいて開いた扉を進んでいく。すると大きな広場に出て、中央にボスらしき魔物が佇んでいた。全身真っ黒だから分かりづらいけど馬に乗った人の形をしているように見える。
「あれは……ダークロイヤルか、流石Aランクのダンジョン、一筋縄では行かないみたいだな」
後で聞いた話によるとこのボスは人馬一体の攻撃を得意とする魔物らしく、素早い動きで翻弄しながら着実に攻撃していくタイプの魔物なんだって。
「お主らが今宵の獲物か、征くぞ!」
敵がそう喋ると同時にこちらに向かって突っ込んでくる、速い!
咄嗟に横に逃げるも、すぐに追いつかれて槍で突いてくる。速すぎて攻撃の糸口が掴めないよ!
「どうした? 逃げてばかりいないでかかってこい!」
そうはいっても逃げるのが精一杯で……と思っていると、アリスちゃんがつまづいて転んでしまう。
「小娘よ、さらばだ!」
ダメ! あの時みたいにダークロイヤルの動きを止められれば!
全ての魔力をステッキに込め、敵に向かって放つ。
「止まって!」
すると、ピタッとダークロイヤルの動きが止まる。その間に翼くんがアリスちゃんを助け、ミリアちゃんがダークロイヤルを攻撃して落馬させる。
「な、何……馬がないと、私は、私は……うわああああ!」
「降参だ! 何でもするから命だけは……どうか……」
……なんだか急にイメージ変わるなぁ……
さっきまでカッコいい騎士だと思ってたのに急に情けない人になっちゃった。
「……あー、あたし達も魔物とはいえ必要ない命は取りたくねえ。出口の道を開けてくれればそれで良いぜ」
「はい、わかりました……ありがとうございます!」
そう言って出口の扉を開けてくれる敵さん、念の為翼くんが監視してるから不意打ちもされなかった。
出口の部屋には宝箱とダンジョンから帰るための魔法陣があった。宝箱からは魔導具が数個と貴金属のネックレスが手に入ったよ、Aランクのダンジョンだからちょっと期待してたけど性別転換器は無かったみたい。
ダンジョンを出て冒険者ギルドにクリアした報告をしに行く。
「……はい、確認いたしました。Aランク冒険者への昇格おめでとうございます!」
無事昇格手続きも終わって、満足なわたし達。今日の夜はまた羊肉のBBQパーティーをしたよ、最近食べたばっかりだけど美味しいから大丈夫!
ちなみにミリアちゃんの付き合いでお酒を飲んでたユニちゃんが酔っ払っちゃって大変な事になったんだけど、それもまた一興……なのかな?




