19話 思ってたのと違う!
わたしの目の前に広がるのは、青々と生い茂った草原と遠くに見える塔。
わたしの中の「ダンジョン」というイメージを壊すには十分な光景だった。
「えっと、ここダンジョンの中……だよね?」
そう呟くとミリアちゃんが返事をしてくれる。
「な、だから言っただろ? 思っているのとは違うって」
このやり取りのちょっと前、準備をしっかりとしたわたし達はいよいよダンジョンに潜る段階に入っていた。
淡く青色に光っている大きな魔法陣、ここがダンジョンの入り口らしい。
「それじゃあ準備は良いか?ダンジョンに突入するぞ」
ミリアちゃんが宣言するとみんなが各々に相槌を打つ。
「大丈夫だよっ」
「大丈夫ですわ」
「ああ、問題ない」
「大丈夫だ、いつでも行ける」
「問題ないわよ」
わたしも応える。
「大丈夫だよ。……ところでダンジョンってこの魔法陣からワープして行くの?」
その疑問に今回同行する2人の男性の方、スタンさんが答えてくれる。
「ああ、カオルさんはダンジョンに行くのは初めてなんだっけ。そう、ダンジョンはこの様に魔法陣から転移して潜入するのが一般的かな」
なるほど、RPGみたいに洞窟に侵入して行くんじゃないんだね。
一人納得していると魔法陣が強く光り始めた。それと同時にわたしの意識が遠のいていく。
「突入だ!転移事故に気を付けろよ!」
そして意識が戻ったら、冒頭の状態だったって訳。
「明らかにあの塔が終着点ね、向かいましょ」
2人組の女性の方、エリーさんがそう言いながら歩き始める。
あの塔、すごく遠くにあるのにとても高く見えるのだけどどれだけあるんだろう、というか地平線で下が隠れてないからこの大地は平面ってこと……!?
などと思いつつ塔に向けて移動していくわたし達、道中で何度も魔物と出会ったけどみんな(主にミリアちゃんとスタンさん)が倒してくれたお陰でわたしは出番なし。
出番ができるって事はみんなが怪我するってことだから無い方が良いのは分かるんだけどちょっと複雑な気持ち。
そうして半日ほど歩き続けて、 ようやく塔の入口まで到着したわたし達一行。疲れもあるし日も暮れてきたしで今日はここで一夜を過ごそうという事になった。
事前に用意していた料理をマジックボックスから出していくユニちゃん、するとミリアちゃんがユニちゃんに声を掛ける。
「ユニ、酒も頼む。なんでもこのお二人さん飲める口らしくてな」
「もう、ミリアさん、ここダンジョンですのよ?ちょっとは危機感を持ってくださいな」
そう言いつつもしっかりお酒の入った樽をだすユニちゃん。なんだかんだで付き合い良いよね。
「……そうだ、カオル、あんた16歳だったよな?一緒に一杯どうだ?」
「ええっ?!わたし未成年だしお酒飲める歳じゃないよっ!」
そう応えると、スタンさんがなるほどといった表情で応えてくれる。
「そうか、カオルさんは転移者だったね。この世界では16歳で成人、お酒も飲めるようになるんだよ。まあ俺からは無理はしないよ」
なるほど、こういう常識と思っていた事の違いでも異世界に来た事を改めて実感するね。
「で、飲むのか?」
そう言いつつお酒の入ったグラスを向けてくるミリアちゃん。
正直、興味が無いと言えば嘘になる。けどやっぱ20歳までは我慢だよね。
……でも一口なら良いかな?
「じゃあちょっとだけ……!」
そう言ってミリアちゃんが持っていたグラスを貰って口をつける。
「にっがーい!やっぱ駄目ー!」
やっぱり、わたしの口には合わなかったみたい。グラスをミリアちゃんに返してユニちゃんが用意していた飲み物を一気飲みした。
「ははは、まあそのうちカオルも良さが分かる日が来るさ」
うう、そう言うけどあの苦さは子供舌のわたしには合わなさ過ぎるよ……
そんな事もあった夜も明け、塔に入る事にしたわたし達。
「じゃあ行くか、行くぜ!」
ミリアちゃんが先導を切って塔の入口を開けると、早速魔物とご対面。
それからは魔物を倒しては階段を上がり、また魔物を見つけては倒し……の繰り返しが続いた、途中で怪我(と言っても軽症程度だけど)を負った人はわたしの治癒魔法で治して、どんどん階を登っていく。
そうしていくと、途中で魔物の種類が変わってゾンビっぽい魔物が現れるようになった。
「カオルさん!この魔物たちには治癒魔法が有効ですわ!勇気を出してやってくださいませ!」
これもゲーム的な設定だけど、ともかく求められてるならやってみないと。
わたしはゾンビ達に魔法のステッキを向けて構え、魔力を集中させる。
「死者よ眠れ!ヒール!」
呪文を唱えると同時に青い光がステッキから溢れ出し、ゾンビ達を包んでいく。
すると、苦しそうなうめき声をあげて倒れていく魔物たち。
10秒もすると、後には魔物たちのドロップ品だけが残されていた。
「カオルお姉ちゃん凄い!」
そうアリスちゃんが褒めてくれる。意外な形だったけどやっとこのパーティーで活躍できた……のかな?
「カオルさん、助かるよ。奴らは治癒魔法以外には耐性を持っているからね……さあ、先の階に進もう」
そんな事もありつつ、やっと最上階に辿り着いたわたし達。
「明らかにここがボスの住処だな、みんな準備は良いか?」
みんなが応える中、わたしも大丈夫だよと応えた。
そして大きな扉を開けて巨大な敵がいる部屋に突入して行く。