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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-29-1.大量殺人【陣野卓磨】

 大丈夫だ……何ともない。

 目の前にあるスマホを操作するが、ネットを見てもSNSを見ても、今の所は何も起きていない。

 何の変哲もない、いつも通りのスマホである。


 多分、あのサイトを開かなければ大丈夫。俺の勘が正しかった。信じるものは救われる。

 ……と言っても、まだ完全に救われたわけではないのだが……。


 少し安心した俺は、先程から近辺にそう言う物の対処を生業なりわいとしている人がいないか調べていた。

 こういう人物はインターネットで本人がホームページを開設して宣伝していると言うものがあまり無いらしく、なかなか見つからなかった。


「セニョール北口……心霊問題ならお任せ……か。テレビで見た事あるけど胡散臭せーな……」


 辛うじて見つけたものも、場所が遠方であったり胡散臭いものであったりと中々良さそうな人物が見つからなかった。

 だが、根気強く調べている内に、とりあえず近隣に一人そう言う人物がいるという情報が目に入った。それは何気ないゴシップ記事サイトの一つ、そこにそれは掲載されていたのだ。


 或谷岩十郎あるたにがんじゅうろうという名の人物である。


 記事に掲載されていた写真は盗み撮りをされた様な、少しぼやけて見え辛い写真ではあったが、俺はその掲載されていた写真にぼんやりと映る顔に見覚えがあった。


 見覚えがあったも何も昨日あったばかりだ。俺に散々言ってきたおっさんである。あいつだ。確か爺さんも或谷さんと呼んでいた。間違いないだろう。


 色々調べると、或谷のその力は確からしい。

 オカルトの掲示板などを見ていると、客となったらしき人物からの書き込みがあり、それが本当ならば、かなりの力と信用があるようだ。オカルト掲示板のスレッドでは色々な意見が交わされていて真偽の程は定かではないが、こういう件を頼むのならこの人なのだろう。


 だた、依頼をするには法外な料金がかかるらしい。数十万~数百万……高校生の俺にはとても工面できない金額だ。

 自分と拮抗する力をもつ同業者がいないからであろう。完全に足元を見た金額である。


 それに、俺自身コイツの力を借りたくない。もう顔も見たくないくらいだ。

 しかし、爺さんはなぜこんな奴と知り合いなのだろうか。

 そんな疑問も頭に浮かんだが、すぐさま目玉狩りをどうしようと言う目の前の難題にかき消される。


「はぁ、どうすっかなぁ……やっぱ、釘バットでも作るか? 釘バットにお札でも貼れば効力出るんじゃないか? お札の書き方くらいネットに転がってそうだし……素人が書いても効力ないか……」


 思わず声が洩れる。だが、生憎ウチには木製のバットもお札もない。スポーツ嫌いな俺が野球なんてするはずもないのだ。


 だとしたら角材かなぁ……。角材くらいなら倉にありそうだし……。


「影姫、おっせーな。昼には戻ってくるっつってたのに。もう夕方じゃねぇか」


 時計に目をやると影姫の事を思い出した。

 そして、そう独り言を呟きながら、スマホを片手にベッドに転がる。恐らく燕に連れ回されて、帰るに帰れないのだろう。大方こういう事になるんじゃないかとは薄々思っていた。


 結局色々調べたつもりだが解決の糸口は見つからなかった。パソコンさえ使えればもっと調査は進んだだろうに、普段スマホをあまり使っていない事が悔やまれた。

 そして、調べ物にも飽きてきて、何気なく日々の呟きを投稿するSNSアプリを眺めていると、トレンドに気になるワードが上がっていた。


〝大量殺人〟


 また事件か……。俺の絡んでる事件といい、もううんざりする。

 何で人間は意味も理由もなく簡単に同種を殺すんだよ。


 げんなりする気持ちを抑えつつ、トレンドとなっているワードをタップする。

 するとそのトレンドに関する呟きがタイムラインに一気に表示された。中には写真や動画もあり、それぞれがその件に関して勝手な事を言い合っている。


「ん?」


 これは……場所は霧雨市……って写真を見るとウチの近くじゃないか。

 映っている建物も見た事がある。いろんな店が入っている雑居ビルだ。俺も何度か行った事がある。

 それと一緒にパトカーや救急車も何台か映っている。そして写真を開きスワイプして拡大すると、映っている雑居ビルの窓には血痕の様なものも多数見える。


 投稿された時間や、呟きが広まった時間は十七時前後に固まっている。


 おい、まさかこれ……。


 不安が胸を駆け抜けてベッドから勢いよく起き上がると、勢いよく起き上がりすぎたせいで屁が出た。

 途方もなく臭い屁だ。影姫が部屋にいたらドヤされていたかもしれない。


 画面を送り、次々と流れる投稿を見ていく。


『殺人事件だって! 窓やばい! 血めっちゃついてる! 殺されたの一人じゃないみたい! 大量殺人!』

   『グロい写真うpすんなや』

   『うわぁ……』


『大量殺人が起きたらしい。警察大勢いてヤバいんだけど。テロかな?』

   『こんな場所でテロってありえる?』

       『知らんがな』


『大量殺人の犯人逃亡中らしい! 霧雨市にいる人はみんな気をつけて!』

   『気をつけろってどう気をつけるんだよwwww』

   『マジかよ。俺氏霧雨市在住だわ……でもこどおじだから外でないし大丈夫でしょ』


『人が大量に殺されてるってよ! 殺人事件だ! 死体もバラバラだったり目玉くり抜かれたりえげつないみたいだぞ!』

   『野次馬が何処情報だよw』

   『目玉狩り事件と混同してない?』


 何だかんだ言って皆他人事のような内容である。投稿を送って見て行くも、内容は皆同じ様なものばかりだ。

 まさか……まさかとは思うが目玉狩りじゃないだろうな。

 しかしこれ、やばいんじゃないのか……。もし、これが目玉狩りの仕業だとして、俺が明日学校に行って目玉狩りが出てきたらクラスの皆が……。そう考えただけでも背筋が凍る。


 そしてもう一つ思った。俺が今日スマホで調べ物をしていて何も起きなかったのも、目玉狩りが別の場所で人を殺していたからなんじゃないのかと。


 明日、学校へ行くべきなのか、行かざるべきなのか。一度決めた決意が揺らいでくる。

 だが、それを考えると答えは一つしかなかった。行かない方がいいのだろう。

 俺が学校へ行かなければ「もしも」の事態が起こる可能性はきわめて低くなる。かと言って俺以外の誰かが例の時間にあのサイトを覗けば同じ様な事が起こらないとも限らない。

 あれこれと考えても迷いだけが残る。

 結局SNSの投稿だけでは詳しい事が分からず、見た感じ事は全て終わっているようだ。この事件が目玉狩りが起こしたものなのかすら、はっきりとは分からない。今更俺が現場へ行った所で何をする事も出来ないだろう。だが、じっとしているだけでは何も進まないのも事実だ。


「くそっ、どうすりゃいいんだよ……」


「卓磨、大丈夫か!?」


 もやもやとする頭であれやこれやと考えを巡らせていると、部屋のドアが勢いよく開かれ影姫が姿を現した。そして、俺の姿を見るなり安心したようで影姫は胸を撫で下ろした。


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