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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-28-1.買い物の帰り【霧竜守影姫】

 日曜日。

 今日は燕と外出をしている。


 昨日燕に誘われ、断る事が出来ず外出しているのだ。

 なんでも新しい服を買いに行くのだという事だった。ずっと同じ着物を着ている私の物だそうだ。寝る時は卓磨の母の物や古着を借りているが、それもサイズが少し大きいし、逆に燕の衣類は小さくて着る事が出来ない。

 私としてはそんな事はさほど気にしていなかったのだが、どうにも燕が気になるとの事であった。


 私が普段着ている着物は、私を納める鞘が変化した物だ。

 刀を鞘が包むように私を身体を包んでいる。

 毎夜寝る前に鞘の手入れはしているので汚れはさほどない。それでもずっと同じ格好をしている私の姿が気になるのか、買い物に行く事になってしまったのだ。


 そして、何事も無く買い物も終わり、今は帰宅の途中である。

 午前中には用事を済ませて、さっさと帰るつもりだったのだが、あれやこれやと連れまわされて、気がつけばもう夕刻も近づいている。何時くらいであろうか。


 今両手には紙袋の束。中には衣類が入っている。私は古着でも良いと言ったのだが、燕が古着では流行に乗った可愛いのがあまりないと言うもので、きちんとした衣料品店に行く事になった。

 出かける前に千太郎が封筒に五万円を入れて手渡してくれたが、色々と店をはしごしている間にそれをほぼ使ってしまった。残るのは数枚の硬貨のみ。


「さっきのお店、おいしかったね。近くにあるのは知ってたんだけど、行った事なかったんだよね」


 燕が笑顔で話しかけてくる。さっきのお店とは、帰りがけに寄った商店街の中にある和菓子屋だ。

 店は中でも飲食できるようになっており、そこでマロンパフェというものを食べた。それはもう、私にとっては言い表せないほどのおいしさであった。燕はその店のお勧めである大福餅を食べていたが、これまたおいしかったらしい。少し値段は張ってしまった為、その店で千太郎がくれたお金は無くなってしまったのだ。


「ええ、とてもおいしかったです。また、機会があれば行きたいですね」


 私がそう答えると燕はむくれた顔になる。何かまずい事を言っただろうか。


「もー! その敬語やめようってさっき言ったじゃん! 普通に話してよっ。敬語で会話する姉妹なんてあると思う?」


 その事か。ついつい敬語になってしまう。


「す、すまない。人によってはなかなか慣れなくて……なるべく気をつけるから勘弁してくれ」


「何かそれでも他人行儀なんだよねー。何かお兄ちゃんやお爺ちゃんとは気兼ねなく喋ってるって感じがするんだけどなぁ」


 表情は和らいだものの、まだどこか不満そうだ。


「そうか? そんなつもりは無いのだが……これが限界なんだ。本当に勘弁してくれ」


 思わず苦笑が洩れる。

 卓磨や千太郎はあの人と同じ感じがするから違和感なく喋れた。天正寺恭子は嫌悪感が先に走ったので丁寧に話すつもりは最初からなかった。

 正直、この話し方のせいでクラスでも少し浮いている気もする。直していかないといけないか。


 ……そんな思いの中で一つの疑問が浮かび上がった。

 あの人……。あの人とは誰だ? 思い出せない。砕かれた記憶の中でも特段大事な部分であった気がする。

 しかし思い出せないものをうだうだ考えていても仕方がない。


 そんな事を考えながら、とりとめもない会話をしながら歩いている時だった。

 商店街を抜けて少し歩いた場所で、何やら不穏な雰囲気ふんいきを感じ取った。

 覚えのある瘴気。恐らくあの屍霊のモノだ。近くにいるのかもしれない。


 もしくは、この近くで誰かがあの画面を見ているのだろうか。


 立ち止まり神経を尖らせ辺りを見回す。

 歩いている人間、立ち止まっている人間。見える人間の殆どがスマホの画面をを覗き込んでいる。中には連れ立って歩いているのに会話の一つもせずに画面を覗き込んでいる人間もいる。

 まるで生気を感じない少し気持ち悪い光景だ。機械が行列をなして歩いているように見える。よくあれで他の人間にぶつからないなとある意味感心する。

 普通に会話しながら歩いている私達の方が異質なのではないかと思えてくる程だ。


影姉かげねぇどうしたの?」


 燕も同じく足を止め、不思議そうにこちらを見つめる。

 仮に近くにいたとして、そこから戦闘に発展したとしたら燕を巻き込んでしまう可能性が極めて高い。

 とりあえずは一端場を離れた方がいいかもしれない。


「いや、何でもない。行こ……」


 燕の方に顔を向けてそこまで言いかけた時だった。

 ドン!! という大きな音が横にある雑居ビルから聞こえてきた。

 見上げると二階の窓に人間がへばりつき大声で助けを求めている。閉まっている窓から聞こえる大声だ。よほどの事である。


「助けて!! 誰か!!」

「いやああああああ!!」


 その悲痛な叫び声に、何事かと周辺を歩いていた人間が野次馬となり集まってきた。


 ドン! ドン!


 更に続くぶつかり音。

 窓に貼り付けられていた広告の紙が破かれると、黒い塊が窓にぶつけられる。広告の隙間の窓ガラスに大量の赤い液体が付着し、中から洩れる明りの量を減らしていく。


 これは……!


「キャアアアアアアアアアアア!!」

「やめてええええええええええ!」

「うわあああああああああああああ!!」


 そこから聞こえる複数の叫び声。

 間違いない、あの屍霊だ。あの屍霊があそこで暴れて……人を殺しているのだ。


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