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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-27-2.撒き散らされる鮮血【七瀬厳八】

 事件の起きている雑居ビルは車道を挟んでの向こう側。車道手前で左右を確認するも、信号が遠い。

 だが、目の前の現場から助けを求める叫び声はまだ聞こえてきている。


「クソッ!」


 無茶な道路横断はしたくないが、そんな事を言っている場合じゃない。

 幸い、車の通りはさほど込んでいない。


 く思いに背中を押され、走り行く車の隙をつきながら車道を突っ切る。

 危うくトラックに轢かれそうになったが、それをかわしつつ車道を突っ切る。

 鳴り響くクラクションの音。速度を出して車道を走っている運転手達はあの状況に気がつくはずもないだろう。


「馬鹿野郎! 危ねーじゃねーか!! 死にてぇのか!」


 俺を轢きそうになった運転手が放つ罵倒の声が聞こえるが、構っている暇はない。

 車道の対岸に辿り着くが、ざわつく野次馬達が邪魔で現場のビルへと近寄れない。


「すいません! 警察です! 通してください!」


 そんな俺の声も、辺り一帯に広がる野次馬達の喧騒にかき消されなかなか通してもらえない。

 中には嫌な顔をしてこちらを睨みつける奴もいるくらいだ。こいつ等は今、どういう状況になっているのか分かっているのか。呑気にスマホ構えて写真か動画か知らんが撮影しやがって。

 人と人を掻き分ける。邪魔だ。

 邪魔だ邪魔だ邪魔だっ!


 野次馬がよ! いつもいつも邪魔なんだよ!

 何もしない癖に、クソにたかる蠅みたいに群れやがって!

 クソッ! どけよ!


 口にする事の出来ないその思いを噛み締めつつ、何とか野次馬を掻き分けて抜けると、雑居ビルの階段を駆け上がる。その間も向かう先からかすかに悲鳴が聞こえてくる。


 辿り着いた先に食事処のドアが見えた。閉ざされた自動ドアの前では女性店員とおぼしき人物が、何やらガチャガチャと音を立てている。


「助けて!! 誰か開けて!! 誰かぁ!!」


 その女性は、閉ざされた自動ドアの間に指を突っ込もうとしたりして、必死に手で開けようとしていた。

 女性自身は怪我をしている風には見えなかったが、その着ている衣服や出ている肌は血まみれである。


「おい! 開かないのか!? 一体何が起きてる!?」


 俺が店の前に辿り付き声をかけるも、女性は俺の姿がまるで見えていないかの様にドアを必死に開けようとしている。


「おい! クソッ……! 聞こえないのか!?」


 俺もこちら側からドアをこじ開けようと、自動ドアの間に手を掛けようとした。

 だが、その時だった。


 ヒュッ! ズシュッ! と、風を切るような音と何かを突き刺す様な音が耳に入ってきた。

 自動ドア越しにも聞こえる嫌な音。考えたくない事が頭に沸いて来る。

 恐る恐る視線を少し下にずらすと、その嫌な予感は的中していた。


 女性の左胸の辺りから手が生えて、ドアに手を突いている。その手とドアのガラスの間には赤い塊が押し付けられている。何本もの管が垂れる赤い肉の様な塊。微妙にビクビクと鼓動する塊。

 ……心臓……か?


 か? ではない。恐らく目の前の女性の心臓であるものがドアのガラスに押し付けられている。

 そしてそれは、押し付けられる圧に耐えられず破裂し、入り口のガラスを赤く染め上げた。

 同時に、自動ドアに押し付けられたその手の平の中央に何かがあるのが見えた。

 目玉だ。手の平に目玉があり、こちらを睨んでいる。


 何だ、これは。

 一瞬目の前の光景に頭が真っ白になりそうになった。


 見ていることしか出来ない。何者かの手は女性の胸を貫通している。

 心臓が破裂した向こうにあった手の平にある目玉が、目を開き視線をこちらへと向けている。

 女性はこちらに見向きもしなかったのにこの目玉はこちらを見ている。

 一体なんなのだろう。何かの撮影か? ソレにしてはとても作り物には見えない。


 か、考えを整理せねば。

 しかしそんな時間はあるのだろうか。


「お、おい!!」


 ハッと正気に戻り俺が声をかけると、目玉のついた手が勢いよく店内へと引っ込んで行った。まるで、主の下に戻るかの様に。

 同時に支えを失った女性の身体が声も無く崩れ落ちる。口から血を垂れ流し、生気を失った表情のまま。


 そして女性の姿が視界から外れて見えたガラスのドア越しに見える店内は凄惨たるものだった。


 血。血。血。


 当り一面に飛び散っている。血だけではない。

 人間のものと思われる体のパーツが所々に転がっている。ピクリとも動かない、もう事切れているであろう人々。先程までかすかに聞こえていた悲鳴も、もう殆ど聞こえてこない。

 声の数が減っている。間に合わなかったのか。


「くそ!」


 いや、間に合う間に合わないは関係ない。まだ僅かでも声が聞こえると言うのならば、少しの可能性でも信じて生存者を助け出さねばならない。

 だが、自動ドアを開けようとするが開かない。頭上のセンサーは反応しているというのに。


 手でこじ開けようとしてもまるで周りをセメントで塗り固められたかのようにびくともしない。


 なぜだ。自動ドアといえども無理矢理やれやれば開くはずなのに。


「先輩!」


 俺がドアを相手に四苦八苦していると九条が遅れて到着した。そして、自動ドアと格闘する俺を見ると、辺りを見回し何かを見つけ出し持ってきた。手にはバールのような物を持っている。


 なぜここにこんな物が? いや、今それはどうでもいい!

 これがあれば何とか……! たのむ、開いてくれ!


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