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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-27-1.響く叫び声【七瀬厳八】

 もう夕方か……。腕時計を見ると十六時四七分である。

 最近、ふと時計に目をやると、この時間付近である事が多い。そしてよく耳にする時間帯でもある。


 この時間帯になると人が死ぬ。いや、殺される。目玉狩り事件の犯人が活動を開始し人を殺す時間帯。

 今日はそんな事がない日であってほしい。


「もうこんな時間か。一端、署に戻るか」


 隣にいる九条くじょうも車のハンドルに突っ伏し疲れた顔をしている。

 いまだに"目玉狩り〟と名づけられた殺人犯に繋がる手がかりは、何一つ掴めていない。最初の殺人が起きてから、目撃証言はおろか、近辺の監視カメラにもそれらしき人物は一切映っていなかった。


「ですねぇ。正直ここまで手がかりがないと、人間の仕業じゃないんじゃないかって思えてきますよ」


 頭を起こし疲れた顔で溜息をつく九条。

 俺だってしんどい。これほど当てのない捜査はした事がない。アレだけの惨状を引き起こした殺人犯であったし、返り血を大量に浴びているであろう犯人に関して当初はすぐに見つかると思っていた。しかし、実際はこれだ。

 だが、地道な捜査が実を結ぶ事もある。疲れた等とは言っていられない。これ以上被害者を増やす訳にはいかないのだ。一件目の事件が起きてから、もう少しで二週間になる。


 一件目は三月二三日、被害者は大貫まち(おおぬきまち)

 二件目は三月二八日、被害者は小枝哲雄こえだてつお

 三件目は三月三一日、被害者は御厨緑みくりやみどり

 四件目は四月一日、被害者は洲崎美里すざきみさと


 何か共通点でも分かれば捜査も絞りやすくなるとは思うのだが、どうやっても一人あぶれてしまう。

 霧雨学園の在籍者となれば大貫が、女を狙っていると言えば小枝が外れる。

 もう一度よく洗い直して調べた方がよさそうだ。


「一度捜査本部に戻って報告だけしとくか。つっても何も成果は得られんかったが」


「何か、その時間も無駄なんじゃないかって思える状況っすけどね」


 そう言うと九条は車のキーに手をかけた。鍵が回されエンジンがかかる。

 そして九条がサイドブレーキのレバーに手をかけた時、ふと目の前を見ると気になる風景が視界に入った。


「ん? 何だ?」


 目を凝らして前方を見ると、今自分達が車を止めている駐車場から道路を挟んだ向かいの場所にある雑居ビルの様子が何やらおかしい。階の窓から見える中の様子が何処かおかしいのだ。


 窓には大きな広告が張られており、それぞれの窓に分割して「宴会承ります!」と書かれているが見て取れる。

 その中の広告が一枚、破れる様に上から引き裂かれたのだ。普段なら気にも留めない広告だ。破かれたとしてもさほど気にする様な事でもなかっただろう。だが、気になるのはその破かれた広告ではない。


 広告の隙間、店の中が若干見える透明なガラスの部分。薄暗い外の風景の中、中から洩れる煌々と照らされる明りに反射し先ほどから何やら赤い液体が次々と付着している。中には何かが窓にぶつかって落下していく光景も見えた。


 奇妙な光景である。下にある歩道を歩く人々も、窓に何かがぶつかった音に何人かが気付き、そのビルの下に立ち止まり上を眺めている。

 それに釣られて徐々に増えていく人の数。それを不思議に思い少し見ていた時だった。


 赤い大きな何かが勢いよく窓にぶつかった。ぶつかった窓が揺れたのがここから見ていても確認できた。


 あれは……人?


 窓を必死に叩き口をパクパクさせて何やら助け求めているようにも見える。他の窓を見ると、次々と広告が剥がれ落ちていき、窓を開けようと必死になっている人もいる。

 その中には血を流している人間もいる。


 あのビルの二階で何か良からぬ事が起きている。間違いない。


「おい、おいおいおいおいおい!!」


 出発しようとする車のドアを慌てて開ける。


「どうしたんすか?」


 九条も慌ててブレーキを踏んで車を停めるとサイドブレーキを掛けると、不思議そうに声を掛けてきた。

 だが細かに説明している暇はない。開けたドアの外から、今まで車の中にいたせいで聞こえなかったのか耳をつんざく様な叫び声が耳に飛び込んできた。それは、窓が閉まっているにも関わらず、それを突き抜けて聞こえてくる大きな叫び声。


「キャアアアアアアアアアアア!!!」

「やめてええええええええええ!」

「うわあああああああああああああ!!!」


 一人の声ではなかった。男の声、女の声。ここで聞いているだけでも五、六人の声は聞こえる。


「九条! 署に連絡しろ! 今すぐ!」


 九条も車から半身を乗り出し、俺の目線の先の光景と悲鳴に気付き顔を強張らせている。

 

「なんすかあれ……ちょっとヤバくないっすか」


 そう言いつつも慌ててスマホを取り出し、連絡を取り始めた。


「俺は先に行ってるから! 頼むぞ!」


 俺は九条にそういい残すと、車を飛び出し雑居ビルへ向かった。


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