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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-26-2.阿鼻叫喚の声【本忠秋恵】

 それからは瞬く間の出来事であった。

 スマホの画面からミミズの様な物体に続いて何かが飛び出してくる。

 それはミミズではなく長く伸びた触手のような指であり、そこから順に手、体、頭と、人の形をした気味の悪い物体が飛び出してきた。

 そして全身が画面からニュルニュルと出終わったかと思うと、テーブルの上に置いてあった鉄製の黒いステーキ皿を手に取り、目を刺された男子生徒の頭へと勢いよく振り下ろした。

 痙攣するように頭を震わせていた生徒はその一撃でピタリと動きを止めてしまった。頭と目のあった部分からダラダラと滴り落ちる血液。

 頭をカチ割り、撲殺したのだ。


 私も、席についていた他の生徒達もその光景を言葉も無く唖然と見ているしか出来なかった。


 そして同テーブルに座っていた他の三人も同様にソイツの餌食となる。

 スマホの中から出てきたソイツは、頭だろうと思われる部分に無数にある目玉をギョロギョロとさせて辺りを見回すと、小さな呻き声を上げたと同時に素早い動きで触手のような指を四方八方に暴れまわらせた。

 口に指を突っ込まれ顎を力任せに引き落とされ口を裂かれ顎をもぎ取られる生徒、逃げようとして足に触手を巻かれて引き千切られ首を絞め殺される生徒、頭をもぎ取られ壁に投げつけられ潰される生徒……。皆、何が起こっているのかも分からずに、断末魔の叫びを上げる暇もなくバラバラにされ殺されていった。


 私自身、目の前で何が起こっているのか理解できていなかった。ただ目の前で起きている現実を目から脳へと伝える事しか出来なかった。


 そして、店内に飛び散った生徒等の血液に数名の客が気付き、少しずつざわめきを増していく店内。皆、何事かと身を乗り出してこちらを見ている。


「モウ、ニガサナ……イ……」


 出てきたソレは、学生達の肉片を地面や壁に叩きつけながら私の前に立ちはだかった。

 そして、そう言葉を漏らし、こちらへとゆっくり顔を向けるソレ。

 とても人とは思えないその顔を見ると私は我を取り戻し、正気に返ると一瞬で目の前の状況を把握した。

 人が死んでいる。沢山死んでいる。飛び散った血が辺り一帯にこびりつき、その凄惨さを物語っている。私の着ている店の制服も、殺された生徒達の飛び散った血液によって真っ赤に染まっている。


「い、いや、いやああああああああああああ!!」


 咄嗟に場を逃げ出す私の叫び声を皮切りに、一瞬静まり返っていた店内が一気に阿鼻叫喚の声により包まれる。


「な、何!?」

「血、血、血だあああああああ!!」

「お、おい、なんなんだ!?」

「きゃあああああああ!」


 客達の叫び声が交差する中、一際ひときわ大きな叫び声がそれを凌駕し切り裂いた。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 それは先ほども聞いた化物の声。人とは思えないそのおぞましい声が鳴り止んだと思うと、今度は客達の叫び声が再び聞こえてきた。


「キャアアアアアアアアアアア!!!」

「やめてええええええええええ!」

「うわあああああああああああああ!!!」

「いでぇ! いでででで!! やめろぉ!」


 振り返ると、逃げ惑う客達を次々と容赦なく殺していく化物の姿が見えた。

 その手から伸びた触手のような指が次々と客の体を貫通していく。一人、また一人と声が消えていく。同時に自分の中にある恐怖という感情が反比例するかのように増大していく。


「ひぁ、ひあっ」


 逃げないと、逃げないと、何で私はこんな目にあっているんだ?

 訳も分からず、もつれる足で必死に店の入り口へ向かう。


「こここ、このやろおおおおお……おぶっうっ! がろろげぼぼぼぼっ」


 店長であろう声の断末魔の声が聞こえてきた。自分の事で必死になり振り返り見ることも出来ない。

 殺されたのか、殺されたのだろう。逃げないと、私も、殺される。

 そして私はよたよたと入り口のドアへと何とか辿り着いた。

 ここを出れば助かる。後一歩、店内から外へ踏み出せば私は助かるのだ。

 そんな想いを胸に扉へと手を突く。


「な、何……?」


 しかしそこはいつも見える入り口の光景ではなかった。ドアのガラス越しに見える外の世界は闇に包まれ外の風景がまるで見えない。いつもは気にかける事もない無機質なビルのコンクリートの壁がいとおしく感じる程に私の心が灰色に染まっていく。

 そんな目の前に広がる光景に、今まで自分の中にあった恐怖や不安が一気に絶望へと変わっていくのが感じられた。


「い、嫌……死にたくない……っ! 助けて!! 誰か開けて!! 誰かぁ!!」


 一向に開かない自動ドアを開けようと必死に隙間に指を入れようとガチャガチャするが、開く気配が全く無い。固く閉ざされた自動ドアが私をあざ笑っているかのようだ。


 ドアを開けようと四苦八苦していると、ヒュッと風を切るような音に続きベキッバキッという嫌な音が耳に入ってきた。それと共に胸の辺りに激痛が走る。

 声もなく胸元を見ると、自分の胸から手が生えている。不気味に変色した気持ちの悪い手。その手の平には赤い塊がすっぽりと収まっていた。赤い液体を滴り落としながら僅かに鼓動する赤い塊が、次第にその動きを止めていく。


 わたしのしんぞう。


 春香……今日、お誕生日、お祝いできそうにない……ごめ……ん。

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