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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-1-4.死ぬのは嫌【御厨緑】

最終更新日:2025/2/25

 振り返り、ドアに勢いよく背中をつく。目の前には化け物。後ろには開かないドア。絶望しか残されていない。先程一瞬輝いた希望も、全て冷たい絶望へと変わってしまった。後ろから聞こえる母の声も、もう私の耳には届かない。ただ、目前に迫る化け物への恐怖と、身体を駆け巡る激痛で震えるしかできない。


伊刈いがり! 伊刈いがりでじょ!? 助けで! 私じゃない! 私じゃないのぉ!! 私は命令されで無理矢理やらされでただだけだから!!」


「………………」


 化け物は、私の少し手前まで近寄ったところで黙っている。青白い顔にぱっくりと軽く開かれたその口が、私の問いに答えることはない。口の中にも見え隠れし覗いている不気味な目玉が、私を見つめるだけだ。


「い、いや、もぢろん私も悪いっ! 悪いのは分かってるけど、あいつが一番悪いがら! 出るなら恭子のどころに出なざいよっ!」


「緑! 何言ってるの!? ふざけてないで開けなさいって!」


 また母の言葉が聞こえてきた。でも、この状況でそれに答える余裕など微塵もない。思考が纏まらず、至極単純な言葉のはずなのに、私は母が何を言っているのかが理解できない。


 ドアノブがガチャガチャと乱暴に回されている。それでも相変わらずドアは開かない。鍵などないのに。


  ゆらりと化け物の手が持ち上げられ、私の顔に近づいてくる。近くで見ると、ぼやけも晴れてその姿が鮮明になる。化け物の手のひらには、中央に一つだけ不気味な目玉が転がっており、その視線が私をじっと見つめる。体全体に無数の目が点在し、グルグルギョロギョロと部屋の中を見回すその目が、一斉にこちらに視線を移す。。


「ごべんごめんごべんごべん! 私が悪かったから! もうしないから!! ごべんっで!!」


「ダイジョウブ……イジメタヤツモ……ミテミヌフリシタヤツモ……ケイジバンツカッタヤツモ……ミンナコロスカラ……オトウサントオカアサンニハ……メイワクカケナイカラ……」


 ようやく化物の口から放たれた言葉は、私が求めていた答えではなかった。虐めた奴も、見て見ぬ振りした奴も、掲示板を使った奴も皆殺し? ふざけんじゃない……。勝手に死んだ伊刈に、なぜ私が殺されなきゃいけないの。


 沸々と怒りが込み上げるが、頭に血が上ると痛みが倍増する。痛みと恐怖で感情がメチャクチャになる。


 無事であるはずの右目を閉じることはできない。化け物から視線を逸らすことが許されない。とめどなく溢れ出る涙で目が痒い。なのに、目を閉じることができない。


 そして、ゆっくりと近づいてくる化け物の手。一本、二本、プツプツと右目の周りに化け物の爪が突き刺さっていくのが分かる。顔面に走る痛みがさらに増す。この後起こることを想像するだけで失神しそうだが、意識ははっきりとし、目を背けることさえ許されない。


 やめて。やめてやめてやめてやめてやめて。これ以上私を……、


 い じ め な い で 。


「ワタシモ、イッタヨネ。ヤメテ。ヤメテ。イジメナイデ。イジメナイデ。フフ……ヒハハ……」


「やめで! びゃべでぇ!!」


 相手の手を掴み、必死に押し戻そうとするが、人間とは思えない力で押し戻してくる。いや、人間ではないだろう。この見た目で人間であるはずがない。幽霊なのか? 妖怪なのか? でも、もはやそんなことはどうでもいい。今起こっているこのことが、夢であってほしいと願うしかない。


 ブツッ、ブツッ、ブチッ。


 嫌な音と共に、顔の右側にも激痛が走る。目と骨の隙間に無理やり指と爪を突っ込まれる感覚。広がる部屋の景色が歪み始め、徐々に消えていく視界と光。それとは逆に、広がってゆく恐怖と絶望。


 そして私の目は両方とも見えなくなった。広がる闇。何も見えない。脳が視界を認識してくれない。

 やだ……やだ! まだ死にたくない! まだやりたい事や夢がたくさんあるのに! まだこれからの人生のはずなのに! 目が見えなくなったら、パソコンも触れなくなる!


「ギイヤアアアアアアアアアアアアアアア!! だぁ!! にだぐない!! にだぐないよぉ!!や……」


 そう叫んだ瞬間、頭に強い衝撃が走った。何が起こったのかわからないが、鈍器のようなもので殴られたのだろうか。


「あっ」


 意識せずに口から漏れた一文字。頭から溢れ出しているであろう生暖かい血液が、目のあった場所、鼻、口をダラダラと順番に流れ落ちる。口に入り込んだ鉄の味がする液体が、渇いた喉を潤すが、すぐに喉につまり、苦しみを増加させる。


「がっ……がほっ……」


 なぜ、自分で勝手に死んだ伊刈に殺されないといけないの?


 ドアを背にずり落ちる体。もう、声も出ない。痛みを感じなくなると共に、意識が遠のいていく。広がる闇を駆け抜けて、底のない落とし穴に落ちたような感覚。


 ブチッ……グチュ……グチョ…………バキッ!


 薄れ行く意識の中で、何かが潰される音と折れる音が聞こえた。小さな何かが潰される音――引き抜かれた私の目玉が、潰されたのだろうか……。そして、体を引きずられる感覚。


 最後に聞こえたのは、骨が折れる音。感覚だけが伝わってくる。もはや痛みは感じない。……折られたのは、足かな……。


 自殺した伊刈の亡骸のようになって……。あの時見た伊刈の最後の姿のようになって……。


「テンゴクニ……イケルトイイネ……フフ……」


 そして、それが私の聞いた彼女の最後の言葉だった……。



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