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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-26-1.迷惑な客【本忠秋恵】

「だあーはっは!」


「なんだおめー、あんな根暗女が好みだったの?」


「ちげーって、ヤれりゃ別にそんなのどーでもいいだろって。ちと根暗っぽかったけど見た目もそんな悪い方じゃなかったしよー」


「でもあれだな、もうちょっとって所で逃げやがってよー。クソがあいつのせいで溜まりっ放しだわ!」


「いつまでグチグチ言ってんだよ。何ヶ月前の話だと思ってんだ」


 店の一角で数名の学生が騒いでいる。

 持っていた物や風貌からすると近くにある霧雨学園の野球部だろう。

 日曜日の部活終わりに店に寄ったというところか。しかし聞こえてく会話の内容は、野球の事など全く関係の無い下品極まりない内容である。聞きたくも無いのに聞こえてくる内容は、耳に入るだけで気分が悪くなる。


「店員さーん!」


 と、その一角から声がかかった。

 ベルを鳴らせばいいものを、わざわざ大声を上げて非常に迷惑な客である。チラリと覗くと、その周りの他の客もいい顔はしていない。店員は私を含めて何人かいるが、皆が曇った顔をしてその場へ行くのを躊躇っている。


本忠ほんちゅうさん、四番テーブルの方、行ってくれない?」


 誰か早く行かないかと、周りの様子を伺っていると店長から声がかかってしまった。


「ええー、私ですか……? 店長が行ってくださいよ。あの手のは絶対女性店員に絡んできますよ」


「悪い、俺も手が離せないんだわ。店の状況見ればわかるでしょ? 調理間に合ってないんだから早く行ってよ。あのまま叫び続けられても他のお客さんの迷惑になるしさ」


 確かに、あまり待たせてこれ以上騒がれると、更に他のお客様の迷惑になるのは分かる。

 視線をやると、早々に食事を追えてそそくさと席を離れていくお客様も見受けられた。

 アルバイトとは言えど、接客業として客は選んでいられないと言うのは実情であるが、正直気が進まない。


「ちぇー、何かいっつも私こんな役回りだなぁ」


「本忠さんバイト歴一番長いんだから、ああいう輩でも対応がきちんと出来るって俺が認めてるって証拠だよ」


「良い様に言ってくれますねぇ。煽てたって私のやる気は変わりませんよ」


「今日は妹さんの誕生日なんだろ? 忙しい時間終わったら早く上がっていいから、ほんと頼むよ」


「はぁい」


 力なく店長に返事を返すと、仕方なく四番テーブルに向けて足を向ける。

 他のバイトの子の「すみません」と言いたげな視線を、軽く愛想笑いで受け流しつつ向かう足取りはやはり重い。


「お待たせしました」


「遅っせー。どんだけ待たせんだよしかも年増の店員かよー。若いの来たら連絡先でも聞こうと思ったのによー」


「おいおい、お前口から出てるぜ。思ってても言うなって。ぎゃっはは」


 テーブルに到着するなりカチンとくる言葉を投げかけられた。何が年増だ。言っても私と幾らかしか違わないだけだろう。


「何か御用でしょうか?」


 カチンときたせいか、声がくぐもり表情も強張ってしまったのが自分でも分かる。


「用があるから呼んだに決まってんだろ? 脳みそ足りてる?」


 スマホをいじりながらこちらを見ることもなく軽々しく暴言を言い放つ。

 客が偉いと思っている連中はこれだから嫌だ。しかし接客業であるが故、ここでキレて言い返すわけにも行かない。しかし、このままおめおめと黙り込んで言いなりになるのも何か癪だ。


「あの、お客さ……」


 そこまで言いかけ、暴言を吐いてきた一人に視線を移した時だった。スマホを覗いていた男子生徒の様子が少しおかしい。

 おかしい?

 いや少しどころではない。私はその瞬間を見てしまった。


「あ、あれ? 見えない……? ていで……ん……?」


 スマホの画面から勢いよく飛び出たミミズの様な物が彼の両目に突き刺さり、男子生徒は僅かな言葉と共に口をパクパクとさせ頭を左右に小さく痙攣させるように振るだけであった。

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