表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
88/613

1-25-2.束の間の休息【陣野卓磨】

「で、明日は日曜で学校も休みだから、スマホとパソコンつけて色々調べようと思う。あのサイトさえ開かなけりゃ大丈夫と俺は信じてるから」


「何を根拠に信じるって言うんだ……まったく」


「それは……」


 俺は影姫に、以前朝にあのサイトを見て屍霊の影らしき物を見て襲われなかった事があったのを説明した。


「なるほど、経験から言っているという訳か」


「ああ。それと、明日は燕と買い物に行くんだろ? その間に何とか少しでも情報集めるよ。何調べたらいいのかよく分からんけどさ、もしかしたら似た様な都市伝説とか噂話とかあるかもしれないし」


「そんな眉唾物の話を見た所で、何かがどうにかなるとは思えんがな」


「やらないよりはマシだろ」


「それはそうかも知れんが、もしあの屍霊が出てきたらどうするつもりだ?」


「その時はその時さ。死んだら骨は拾ってくれ」


 腕に巻かれる数珠を握り締める。効果の程は全く分からないが、期待はゼロじゃない。爺さんがあれだけ真剣な顔をして渡してきた代物だ。ただの数珠だったなんてオチはないはずだ。

 俺にだって戦う為の道具があると言う事だ。俺は爺さんを信じる。


「アホか。卓磨が死んだら私も動けなくなる。少なくともあの屍霊を何とかするまでは死ぬな。兆候を感じ取ったらすぐさま閉鎖的な空間からは出る事だ。外へ逃げろ」


 影姫はそういい苦笑する。


「ああ、わかった」


 俺も釣られて苦笑した。信じる信じると色々考えを巡らせはしたが、やはり不確定要素が多すぎる。とりあえずは逃げの一手を打つしかないか。


「まぁ、いいだろう。……だが、そっちはだめだ」


 影姫がパソコンの方を指差す。一応、前に使っていた一回り小さいディスプレイは設置したが、ディスプレイも本体も電源プラグはまだ挿して折らず、昨日から一度も起動していない。


「なんで?」


「そっちはまだかすかに横の箱に違和感を感じる。一度屍霊が絡んだ物をやすやすと動かすのは賢いとは言えない。調べるならまだ安全である可能性が高いスマホだけだ。わかったな」


 言われてパソコンの方を見るが、俺が見ても何も感じない。だが、影姫が言うのならそうなのだろう。


「わかった。そっちは使わないよ」


「それと、出来れば件が解決するまではあまり他の事に時間を割きたくなかったのだが……燕の申出を無下に断って、それで何やら詮索や心配をされても困る。出来れば燕を巻き込みたくないのだ。明日の買い物はなるべく早く済ませて戻ってくるつもりではいるから、何度も言っている通り無理や無茶はするなよ。少しでもそのスマホから違和感や危険を感じたら、さっきも言った様に逃げるか、スマホを粉砕しろ。金槌くらいは用意しておいてやる」


 え……粉砕……? 嫌だ……。


 ともあれ、爺さんは見た感じ、影姫から屍霊の事を聞いて既に知っているだろうからともかくとして、俺も燕は巻き込みたくない。

 出来れば燕の知らないうちに解決して、何事も無かったかのように日常を取り戻したい。屍霊自体は調べても何か分かるという確立は低そうだし、オカルト系で何か調べて近所にこういった案件に対処できそうな人が住んでないか調べてみるか……。


 いや、それなら月曜日オカ研に顔出して部長に聞いた方が早いのかなぁ。うーん……。


「ああ、わかってるよ。俺だって死にたくないからな」


 スマホを粉砕すると言う提案は受け入れられないが、少し考えてからとりあえず返事をしておく。

 スマホを返してもらい充電ケーブルを差し込む。急速充電器は持っていないので、しばらくは使えないだろうから今日は何も出来ないかもしれない。


「ところで卓磨、お前も家で暇をしているだろうと思っていい物を持ってきたぞ。学校で七瀬に何か二人で暇つぶしが出来るものはないかと聞くと、これをくれたのだ」


 そう言うと影姫は着物の裾から何かを取り出した。

 缶のペンケースの様な物だ。それは恐らく金属で、木目の塗装がなされている。そして何か盤の目が書かれていた。影姫がそれを開くと、中からプラスチックで出来た小さな将棋の駒がジャラジャラと出てきた。駒の中には磁石が入っているのか、いくつかはケースにくっついている。


「少し小さいが、七瀬の家に代々伝わる由緒ある将棋盤だそうだ。鉄で出来てるなんて珍しい物だな。そんなものをくれるなんていい奴だ、七瀬は」


 そう言いながら将棋の駒を盤面にならべていく。いや、騙されてるぞお前。こんなものそこらのおもちゃ屋で安価で売っている。これだったら爺さんが蔵にしまいこんでいる炭で出来たような黒い将棋板のほうが、まだ時代的価値がありそうだ。つか、七瀬が学校で将棋やってるところなんて見たことないけど、何でこんな物を持ってるんだ。あいつ確か剣道部だし……。


 よくよく盤を見ると、端の方に油性マジックで『七瀬厳八』と書かれている。ななせ……げんはち?げんぱち? 家族か誰かの名前だろうか。堅苦しそうな名前だ。


「気付いたか卓磨、この銘に。これは七瀬の先祖で江戸という時代にこの盤を製作した細工師の名前らしい」


 不敵な笑みを浮かべる。いや、それっぽい名前だけど違うだろ。


 これを貰ったのがよほど嬉しかったのかニコニコとしている。その顔を見ていると真実を伝えるのはよしておこうと言う優しい気持ちになった。

 というか……。


「俺、将棋やった事ないんだけど……」


 机の上に散らばる将棋の駒。これまた小さい。恐らく子供用の持ち運びが出来るタイプの奴だ。

 ある程度のルールは知っているが、駒が裏返った時の動き方とか、裏返る条件とかはよく知らない。


「いいよ、教えてやるからやろう。気を張りっぱなしじゃ疲れるだろう? 息抜きも必要だ。私も卓磨の事をちゃんと心配してやっているんだぞ? ありがたく思えよ」


 嬉しそうに駒を並べる姿を見ると、緊張していた気分も少しほぐれたような気がした。

 どうやらこれは付き合うしかないようだ。だが、影姫はあまり思っている事を顔に出さないので、心配してくれているのはそれはそれで嬉しい気もする。

 

 その後、夕食を挟みつつも将棋に何戦か付き合わされた、飛車角抜きで全敗した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ