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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-25-1.スマートフォンとは【陣野卓磨】

「……と言う訳だ」


 学校も終わり影姫が帰宅してきた。

 どこの誰かも知らないオッサンに言いたい事を言われて不貞寝していた俺は、影姫に布団から引きずり出され、聞き出してきた情報に関しての説明を受けている。

 桐生きりゅう天正寺てんしょうじからの情報なのだが、転校して間もない影姫がよくここまで聞き出せたなと、一部感心した。


「桐生さんはともかく、天正寺さんがよくそんな事話してくれたな。あいつ、今ピリピリしてて誰も話しかけないから、頭ごなしにどやされるか無視されて終わりかと思ってたわ」


 今、天正寺は伊刈いかりの件があってのせいか、皆から敬遠されている。

 だからかは分からないが、学校で見かけると常に不機嫌そうな顔をしていた。

 正直俺もクラスが別になって胸を撫で下ろしていたくらいだ。


「我ながら聞き方が素晴らしかったのであろう。二人とも快く話をしてくれたぞ」


 澄ました顔でさも当然と言いた気である。だが、とてつもなく怪しい。

 普段は丁寧に喋っているつもりだろうが、それでも言葉の所々に棘があるし、何より視線が冷たいし笑顔もない。コイツが相手を不機嫌にさせないで人に質問できるとは思えない。コイツの言葉は信用できない。多分コイツは嘘が下手だ。。


「まぁ、二人の話から予想するに、伊刈早苗は復讐をするのはもちろんの事だが、命を絶った時にそのスマホとやらを失ってしまった事に対する後悔を抱いている可能性も高い。かなり大事なものだったようだ。……そこでだ、卓磨に一つ聞きたい事があるのだが」


「なんだよ」


「……あれだ、あれ。スマホとは何だ」


 その滑稽な質問にずっこけそうになる。

 スマホも知らないでこいつはその話をしてきたのか。知らないなら、なぜその時に桐生や天正寺に聞かなかった。


 コイツ、人にマウント取るのは好きな癖に逆は嫌なんだな。

 今、俺に聞くのも少々躊躇ためらいがあったような気がする。まぁ、マウント取られるのが好きな奴なんてそうそういないと思うが。


 そして俺はローテーブルの上に転がっている自身の電池の切れたスマホを手に取る。


「これだよ、ほら」


 影姫は俺が差し出したそれを受け取ると、まじまじと眺め始めた。


「大きさの割りにズシリとした重みがあるな」


「お前、昨日それの事を通信機器とか言ってたじゃねーか。知らなかったのかよ」


「卓磨がこれを眺めて何やらごそごそしている所の画面を横から見たのでそう思っただけだ。それと……それを使って通話している人間も見た事があるし」


「だったら大体分かるだろうよ」


「だがな、それの正式名称など知らん。スマホというのか。携帯電話みたいなものか? 携帯電話なら知っているのだが、ボタンが全然無いな」


 みたいな物と言えばみたいなものだが、使用用途の幅が全然違う。と言っても、影姫にそれを言って詳しく説明を求められても面倒だ。俺だって全てを熟知しているわけではないし、つらつらと説明しだしたらキリがない。


「正確にはスマートフォンな。略してスマホ。携帯電話で使える機能は大体備わってるし、アプリを入れればゲームも出来るし勉強も出来る」


「アプリ?」


 しまった。また疑問を増やしてしまった気がする。


「と、とりあえずそんな感じだ。まぁ、携帯電話の上位互換みたいなもんか。今は電源切れてるから画面切れてるけど、画面がついたら押せるボタンみたいなモンは出てくる」


 影姫の呟くようなアプリと言う言葉を華麗にスルーしつつ、適当に答えておく。

 この様子じゃ影姫はスマホを持ってなさそうだし、持ってない奴に教えた所で説明なんてしきれない。


「ほう、すごいな。電池が入っていればあのような色彩豊かな画面がこの様な小さな機器で見れるのか。私の知っている携帯電話はもう少し細長くてアンテナがあった様に記憶しているが……画面ももっと小さくて白黒だった」


 いつの時代の話をしているんだコイツは。そんな携帯二十年位前の話じゃないのか。使っている奴が残っていたとしても十年以上前の話だろう。

 しかし、すごく興味津々だ。自分にも買ってくれと言い出しかねない。生憎俺はそんな金を持ち合わせていないので、言うなら爺さんに言ってほしい。


「んで、話し変わるけどさ」


 影姫が俺に無理難題を言い出す前に話題を変えるとしよう。


「なんだ」


「さっきお前に叩き起こされるまで、俺も俺なりに色々案を巡らせてたんだけど、俺、月曜から学校行くから」


 そう思ったのは、じっとしていてもどうにもならないと分かったからだ。


「いいのか。屍霊が出てきても私が対処しきれる保障は出来ないぞ」


「いいのかと聞かれると不安はあるけどな……。でも、俺が最後に掲示板見た感じだと最近のタイムスタンプもまばらで流れも殆ど止まってたし、クラスの奴等があんな掲示板もう見てないと信じてる」


「信じてる、か。その言葉だけで動くのは不安しかないがな」


「でもよ、伊刈の復讐の矛先は天正寺みたいに直接虐めてた奴だけじゃないと思うんだ。俺みたいに見て見ぬ不利をしてた奴、助けの言葉をかけてやれなかった奴、自分の虐めを認知していた奴全員をターゲットにしてるんじゃないか?」


「卓磨がそうなのだと自覚しているのであればそうなのかもな」


「だからこそ俺も襲われたんだ。俺が学校に行かなかったとしても、遅かれ早かれ皆……な。だったら少しでも早く解決する方向へ動き出した方がいいだろ」


「そういう考え方もあるか。しかしまぁ、色々と確証が取れてない状況だ。不用意な動きはするなよ」


「そりゃわかってるよ。でも、屍霊の出現する時間を考えると学校の授業が終わるまでの時間なら大丈夫だろ? いくら一度襲われた俺がいるからって、出てくるという確証は無いわけだし」


「伊刈早苗が飛降りた時刻は確か夕方だったか。今までの被害者が殺された時間からするとそうだが……」


「それに俺一人だけ部屋に逃げこんでお前にまかせっきりでこもって、いつまでも隠れてるわけに行かないだろ? 俺だって解決に向けて何か行動起こさないと」


「仕方ないな。卓磨がやる気を出したと言うのなら私も今できる最大限の力で手助けをしてやる。だが、くれぐれも言うが無茶はするなよ」


 影姫の顔から薄っすらと笑みがこぼれる。

 それは嬉しいとか楽しいとかそう言う笑みじゃない。仕方のない奴に呆れる、そう言う感じの笑みだった。


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