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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-24-4.わからない【天正寺恭子】

 促されるまま再びベンチに腰掛けると、影姫が話し出した。

 こちらに目を向くこともなく、淡々と。


「貴様のせいで多くの命が奪われている。人の怨嗟えんさとは恐ろしいものだ。時には凶暴で大きな力になる。何が言いたいかわかるか?」


 わからない。

 何が言いたいのコイツ。その遠回しなハッキリとと言わない物言いに、また苛立ちが沸き起こってくる。


「分からないという顔をしているな。まぁ、分からないだろう」


 やはり喧嘩を売っているのであろうか。はたまた、おちょくられているのではないだろうか。

 いちいち神経を逆撫でる様な話の切り出し方をしてくる。


「何が言いたいのよ。はっきり言いなさい」


 こちらを見る。私の目を見るその視線は真っ直ぐと瞳の奥へと向けられている。


「伊刈早苗が怨霊怪異と成り、人を殺している。目玉狩りだ。目玉狩り事件と言えばお前も知っているだろう」


 目玉狩り事件は知っている。最近この付近で騒がれている連続殺人事件だ。緑と美里も目玉狩りに殺られたと言われてる。だから、生徒達の間では次の標的は私だと囁かれているのだ。


 だけど、怨霊怪異?

 馬鹿馬鹿しい。そんな非科学的な物を信じているなんて頭がおかしいんじゃないか。髪の毛と一緒で頭の中まで真っ白なのか。豆腐の様なシワのない白い塊でも入ってるんじゃないのか。


「怨霊? そんなものいるはずないじゃない。頭おかしいんじゃないの? そういう馬鹿げた話なら帰るわよ。生憎、私はそんな物信じてないから」


 そう言いつつ場から離れようとする仕草を見せるも、自身の前を見つめる影姫の目は真剣だ。


「既に人を大勢殺している。推察するに、次に狙われるのは貴様だぞ」


 やはりそう言うか。生徒間の下らない噂を鵜呑みにして、やはりコイツ、何処か頭がイカれてるんじゃないかと思ってしまう。

 だが、そう言いつつ私の方に向けられた影姫の視線はとても厳しいものだった。演技でこういう目が出来るのならば大したものだ。しかし、だからこそ影姫が嘘を言っているのではないのではないかという考えが頭に浮かんできてしまう。


 次は私? 私が殺される?

 何を馬鹿な。浮かんだ小さな考えを即座に振り払う。

 みみっちい噂を信じ込んで私を怖がらせようったってそうはいかない。


「私を脅しているつもり? そんな話、誰が信じるって言うのよ」


「信じるか信じないかは貴様の勝手にしろ。私は貴様が死のうがどうなろうが一向に構わん。だが、他の人間は別だ。伊刈早苗は貴様を殺しても、その怨念が止まる事はなく残り続けて人を殺し続ける」


 淡々と話し続けるその言葉を放つ表情は、やはり嘘をついている顔には見えない。

 本当なのだろうか。私の心が右へ左へと揺れ動く。何を信じていいのかが分からなくなってきて、本当なのかと思い始めると色々と感じてくるものもある。

 報道で流れていた緑や美里の遺体の状況を思い出すと、犯人は常軌を逸しているとしか思えない。人の所業じゃない。となると何が二人を殺したのか。


 化物? 怨霊? 怪異? 呪い?


 浮かんでくる同じ様な言葉の羅列に、だんだんと気持ちが変わってくる。

 そして頭に蘇る伊刈の死に際の言葉。


〝お前等!皆殺しだ!!〟


 言葉を思い出すと、背筋に寒気が走り、鳥肌が立つのが感じられた。

 伊刈は私を呪って死んで、それが今の事件を起こしているのであろうか。


「い、いや、そんな訳……」


 咄嗟に血迷った考えを振り払う。


「それでだ。私はそれを止めるべく情報を集めている。何分なにぶん、伊刈早苗の両親も既に自殺して亡くなっているので、伊刈早苗と親しくして、彼女に関して何かを知っている人間が極めて少ない。そこでだ、当然親しいという訳でもないだろうが、何か知っていそうな貴様にも聞きに来たのだ」


 え?


 そこで影姫の口から始めて聞く情報が私の耳に入ってきた。

 伊刈の両親が……自殺?

 知らない。そんな事、聞いてない。

 嘘よ、何で?


「何で…? 伊刈の両親って……お金で……お父さんが何とかするって言ってたのに……お金を積めば体外の事はどうにでもって……」


「金? 金で何でも何とかなるとでも思っているのか? 頭の悪い奴だ」


「ど、どういうことなの? 私、それはじめて聞いたんだけど……」


「権力で心が汚く染まった奴が、自分より下だと見ている奴に大金を積むと本気で思っているのか? 勿論、端した金くらいは出すかも知れんが、それで収まらなければどうなるかくらい貴様でも想像はつくだろう」


「それって……」


 影姫が何を言わんとしているかは想像がついた。だが、必死に頭の中でそれを否定する。

 父がそんな事をするはずが無い。父は立派な政治家なのだ。勿論裏でそういう動きをしている事があるのは私も知っているが、表向きは市民第一に働いている立派な……。


「大切なモノを失うというのがどれほど辛い事か分からないのか? それが分からずにああいう事をしていたというのなら貴様に生きる価値はないぞ。人間の皮を被ったゴミだ。いや、ゴミ未満だな。黒く輝き地を這う虫に頭を下げて土下座しろ」


 厳しく突きつけられる事実。知らなかった。そんなこと。虐めで自殺した生徒の親が、それが原因で後追い自殺するなんていう話は聞いた事がなかった。いや、今の話の流れからして自殺と言うのも……。

 お父さん、伊刈の両親に何をしたの?

 そういえば私に「もう大丈夫だから安心しろ」と言って来た父親の笑顔はどこかぎこちなかった様な気がする。まさか……。


 嫌な考えが頭をよぎった……。

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