1-24-2.白髪の転校生【天正寺恭子】
あの白髪の生徒、見た事はある。髪の色が特徴的だったので覚えている。
確か、隣のクラスに転校してきた奴だ。
言葉を一言も交わした事が無い私に何の用だろうか。私を待つその顔つき、態度を見る感じとしては、友達になりに来たと言う訳ではなさそうだ。
荷物を片付け席を立ち、椅子を机の上にあげてから近づく。
私が彼女を見る視線は他から見ればいいようには見えないだろう。それは彼女も同じで、厳しい目つきで視線をこちらに向けて様子伺っている。
「何か用? 私、忙しいんだけど」
本当は忙しくない。誰も私には構ってくれないから。
部活も新学年になってからは、全くやる気が起きずに一度も行っておらずサボっている。
ただ一人で寂しく電車に揺られて家に帰るだけなのに、虚勢を張ってつまらない嘘をつくことしかできない。
自分でも情けない。いつからだろう、いつから私はこんな人間になってしまったのだろうか。少なくとも中学まではこんな人間じゃなかったと思う。どちらかと言うと……控えめな人間だったはずなのに。
今の自分を心の中の鏡で見ると、自分でも情けなく感じてくる。
「用がなければ来ません。少し聞きたいことがあるのですが……生憎ここでは人が多くて少々話しにくい事ですので、宜しければ人気のない所へ移動して……」
同い年のはずなのに、やけに丁寧な話し方をする。第一印象からしてどこか絡みづらい女だと感じた。
その口調、態度を見ているだけでも募り募ったイライラが更に重なってくる。
「忙しいつってんでしょ。私はいいからここで話なよ。誰も私の会話なんて聞きたがらないし」
「そういう訳にはいきませんね。あなたが良くても、私に都合の悪い事もあります。物事を自分だけを中心として考えるのはあまり賢いとはいえませんね」
「あ? 何? 喧嘩売ってんの? いいから話があるならここで話せっつってんでしょ」
……。
苛立ちから凄んで言い返すも、相手から返事がない。だが、私の気迫に気圧されて黙っていると言う様子ではない。心をえぐる様な冷たい目線で、じっと私の目を見てくる。
まるで私の心の中を見透かすような冷たい視線。自分でもこの相手にたじろいているのが分かる。
「……チッ。わかったわよ。付いて行けばいいんでしょ……」
出来る限り嫌そうに返事をしたが、そんな私の返事を聞くと彼女は無表情に軽く会釈をしてきた。
「ありがとうございます。では、参りましょう」
腕を組みつつ不機嫌そうなオーラを放ちながら、歩き出す彼女の後ろを少し離れて付いて行く。
廊下ですれ違う生徒は、私が他の生徒と一緒にいるのを珍しい物を見る様な目で見ながら何か囁き合っている。
『あいつが次の標的か?』
『決闘か?』
耳に入った幾つかの囁き声は好き勝手な事を言っていた。私を何と思っているんだ。
クソが。イライラする……。