1-23-5.残る後悔【本忠春香】
朝、部活の朝練を終えて教室に戻る時だった。
階段を上がり自身の教室がある二階に辿り着いた時、三階の方から何やら話し声が聞こえてきた。こちらの階段は特別教室が多く、朝に使う生徒は少ない為、ふと何だろうと気になり、三階へ向けてもう少しだけ階段を上がる。
どうやら屋上への踊り場付近で誰かが話をしているようだ。
「早苗ちゃんが飛び降りた日、あの時……天正寺さん達が早苗ちゃんを屋上に閉め出す所、偶然見ちゃって……」
「それで?」
「助けようとしたの。その後、天正寺さん達が行ってから屋上の扉を開けて助けようとしたの! でも、悲鳴の方が先に聞こえて、気が動転して訳が分からなくなって…………」
僅かに聞こえてきたその会話の内容は、どうやら伊刈さんの自殺に関して話しているようだった。
そう気がついたと同時に踵を返して階段を下り二階へと戻る。
体がこの話題に関して反射的に拒否反応を起こしている。胸が痛い。鼓動が早くなる。私は何もしていないはずなのに、どうしてこんな気持ちにならないといけないのだろうか。
全部あの男のせいだ……あの日あの男が私に声さえかけてこなければ、こんな思いをする事もなかったのに。
あの時安請け合いしなければ私はずっと無関係でいれたのに。
「あ、春香おはよー」
「え、あ、おはよう」
挨拶をしてきたのはクラスでも仲の良い廣政恋だった。
仲は良い。でも―――今の私が要らぬ所で厄介事に間接的に巻き込まれ、心を苦しめている事は恋にも話せずにいる為、恋は何も知らない。
「どったの? 怖い顔して。何か顔色も悪くない?」
「え、そ、そう? そんな事無いと思うけど。あ、ひょっとしたら昨日お父さんに食後のデザート取られたの思い出したからかなー? あはは」
とりあえず咄嗟に思いついたありきたりな嘘でごまかすも、恋の顔に浮かぶ怪訝な表情が消える事はなかった。自分では分からなかったが、そんなに怖い顔をしていたのだろうか。
「そーなの? それは許せないねー。まー、今日学校終わったら部活サボってどっか行くか? 相談くらいなら乗るよ? どうかね」
何か見透かされた様な顔で私の肩をポンと叩く恋。気持ちは嬉しいが、とても相談できる様なことじゃない。
「い、いや、ホント大丈夫だって。しょうもない事で部活サボったら他のパートの子らに迷惑かけるし。ほら、もう予鈴なる時間だし教室行こ」
「春香、アンタ最近ちょっと暗い顔してる時多いよ。この間だって桐生さんと話してた時急に暗くなったし。無理には聞かないけど、私でよけりゃいつでも相談に乗るから気が向いたら話してよ?」
「う、うん、ありがと。ホント大丈夫だから。大丈夫」
大丈夫なのだろうか。最近は例の噂話とかも聞いていると余計滅入って来る。
誰かに話してすっきりとしたほうがいいのだろうか……。