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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-23-3.大切な物【桐生千登勢】

「待って!」


 振り返り影姫さんを呼び止める。

 もしかしたら、この人の言う事は本当なのかもしれない。なぜかそういう考えが心の奥底に沸いて来てしまった。

 信じたくは無いけど、噂になるにも何か原因があるはずだ。私としてもどうしてそういう噂が出だしたのかを知りたい部分もあるし、誤解が解けてくれるのならそれに越した事は無い。


 影姫さんも私のその声に反応して立ち止まり振り返る。


「何か……早苗ちゃんがそう言う事に関わっているって言う証拠はあるの!? 単なるオカルト趣味の興味本位で言ってる訳じゃ、ないよね……?」


 そう、証拠だ。誰かが姿を見たとか、心霊写真的な物が映ったとか……どんな小さなものであっても、どんな疑わしいものであっても、いくら真剣な顔をされた所で証拠がないとこんな夢現な妄想話はやはり信じられないところがある。


「物的証拠はありません。ですが、私自身、彼女が屍霊しれい……怨霊怪異となって人を襲う所を目撃しています」


「仮に影姫さんがそれを見たとして、それが早苗ちゃんだってどうして特定できたの? だって影姫さんは早苗ちゃんの事知らないはずでしょ?」


「卓磨もその現場に居合わせたのですが、人を襲っている彼女の声、容姿が伊刈早苗に間違いないと言っていました」


「陣野君が……?」


「桐生さんの言う通り、私は生前の伊刈さんとは直接お会いした事はないし写真すら見た事もありませんので、それが伊刈早苗であるというのは卓磨の証言のみです。そして、私はあの逼迫した現場で卓磨が嘘や適当な事を並べて言っている様には見えなかった」


「……」


 証拠と言える証拠じゃない。というか、怨霊怪異って何。

 目撃? 声? 容姿?

 死んでもういない人の何を見たって言うのよ。言葉だけなら何とでも言える。

 陣野くんの人物像は、去年クラスが違うかったからよく知らないけど、早苗ちゃんが虐められているのを見て見ぬフリをしていたのは事実だ。兵藤さん達と同じ様に面白おかしく話を広めようとしているだけかもしれない。とても信用できる証言とは思えない。


「嘘……」


「転校してきたばかりの私が、貴方にこんな嘘をついて何の得になると言うんです。事態は急を要します。聞いた所によると関連する事件で数名の死者が出ているようですし、このまま放置していれば恐らくこれからも死者が大勢出るでしょう。今の彼女は正気を失っています。何らかの方法で彼女の魂に接触しないと、どうにも出来ません」


「そんなのどこから信じろって言うのよ……第一、影姫さんの言っている事が本当だったとしてどうやって……」


「大切な思い出の篭った何か……大切な物が何かないか、を聞ければと思ったのですが……伊刈早苗さんのご両親もご存命ではないと聞いたので、幼馴染で親友であった貴方ならば、と思い声を掛けた次第です」


「……」


「ですが、やはり信じてはもらえてないみたいですね。話をしたくない人に無理矢理聞くなどという野暮な事はしたくありません。では、私は先に教室に戻りますね」


 無言の私にどこか諦めた様に振り返り、再び足を進めようとする影姫さん。

 本当に、見ている感じでは嘘をついている様には見えない。

 怨念、呪い……本当にそんなものがあるのだろうか。


 早苗ちゃん、本当なの?

 本当に目玉狩りの事件は早苗ちゃんが起こしていることなの?

 信じたくない。信じたくない……。でも……!


「スマホ……」


 私の呟きに再び影姫さんが立ち止まりこちらを振り返る。半信半疑、どちらかと言うと疑の割合の方が高いが、もし影姫さんの言っている事が本当だとしたら、放っておく訳にはいかない。

 きっと早苗ちゃんも苦しんでいるんだ。なすすべなく命を絶つ事になった自分自身に。


「スマホ?」


「早苗ちゃんのスマホ! 私、放課後も学校に残って、時間の許す限り探してた。早苗ちゃんがすっごく大事にしてた物。早苗ちゃんのお父さんとお母さんが亡くなる前に言ってたの。大切にしていたはずなのに、どこを探しても遺品にスマホだけ見つからなかったって……スマホになら何か虐めの証拠になるような物残ってたんじゃないかって……」


「それで、そのスマホとやらは見つかったのですか?」


 首を横に振る。思い当たる場所は探したけど見つかっていないのだ。

 学校にはないのかもしれない。喫茶店にも忘れて置いてあるなんて事も無かった。

 もう、どこにあるのか見当もつかない。もちろん電話をかけても繋がらない。

 天正寺達にどこかに捨てられでもしたとしたなら、もう見つけることなんて不可能だ。

 同じ学園内に居ながら何ヶ月も疎遠になってしまった事がとても悔やまれる。早苗ちゃんの行動範囲がわからなくなっていた。


「高校に入ったら、バイトして自分で料金払ってお父さんとお母さんに負担かけないようにするんだって言ってた。中学入学の時、お父さんが入学祝にってくれたプレゼントだから大切にするんだって言ってた。肌身離さず持ってたから、家にないなら最後にいた学校のどこかにあるかもって思って探したんだけど……見つからなくて……思い当たる場所全部探したんだけど、見つからなくて……」


 影姫さんはそう言う私の言葉に、真剣に耳を傾け聞いてくれている。


「ご両親が無いと言っていたのならば警察が押収したという可能性も無いか……。誰かが拾って何処かへ届けたという可能性は?」


「そんなのわからないよ……電話かけても繋がらないし、GPSも全く反応しないし……」


「そうですか……なら期待は薄いですね。スマホ以外に他には何かありませんか?」


「早苗ちゃんとの大切な思い出も、私はいっぱいある。いっぱいあるけど、早苗ちゃんにとってはお父さんとお母さんが一番だったと思う。最後に暮らしてたマンションに引っ越してからは裕福って言う感じじゃなかったけど、すっごく仲良かったから……」


 こんな情報が役に立つのだろうか。影姫さんの言っている事が本当だとしても、私自身はとても役に立つとは思えない。


 影姫さんは私から視線を逸らし、何やら考え込む仕草をしている。


「あと……大切な思い出とか大切な物じゃないんだけど…」


「何ですか?」


 影姫さんが顔を上げる。

 知っている事。それが私にはある。

 あの日の事、怖くて誰にも言えなかったあの日の出来事。

 今、私はここで言うべきだという気がした。


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