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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-23-2.またこの話【桐生千登勢】

 まさか、陣野さんの口から早苗ちゃんの名前が出るとは思わなかった。

 早苗ちゃんとは小さい頃からの幼馴染だし、ある程度の交友関係は知っているので、数日前に転校してきたばかりの陣野さんと面識があるとも思えない。一体何を知りたいのだろうか。


「なんで……早苗ちゃんの事?」


 不審に思いつつも当然の疑問を投げかける。良くない噂が広がっている。

 喫茶店での事もあり、理由によっては話したくないからだ。もう早苗ちゃんが誰かに悪く言われるのは嫌だから。


「最近、この近辺で起こっている連続殺人事件はご存知ですか」


 案の定と言うべきか、切り出された話は私にとっては良くない内容だ。

 だが、あからさまに拒否感を露わにするのもどうかと思い、少し様子を見てみる。


「う、うん、目玉狩りとかいう奴だよね。SNSとかネットのニュースでも結構騒がれてるから……もう、知らない人の方が少ないんじゃないかな。……それが早苗ちゃんと何か関係があるの?」


 そうは思いつつも、やはり湧き出てくる感情を抑えきれない。

 またこの話……。嫌だ、この人も前にあった喫茶店の時の様に早苗ちゃんを悪く言うのだろうか。呪いだのなんだのって、ありもしない事で死んだ人の事をまた悪く言って何が楽しいんだろう。


「私は回りくどい言い回しや嘘はあまり得意ではありません。信じて頂けるかは貴方次第ですが……単刀直入に聞かせていただきます。一連の事件には伊刈早苗さんの強い怨念が関与して……」


 影姫さんが此方を見つめながら、また根も葉もない事を言い出だした。


「嫌!!」


 思わず言葉が飛び出し、陣野さんの言葉を遮る。

 聞きたくない。この人も同じだ。何で皆そんな根拠もない作り話をするのだろうか。死んだ人だったら何を言ってもいいのだろうか。やるせない思いが少しずつ怒りへと変化していく。


 みんなみんなみんな、表では何も言ってなくても、裏ではそんな噂話して早苗ちゃんの事を未だに馬鹿にしてるんだ……!


 そう思うと握る拳に力が入り、思わず涙が零れそうになる。それをぐっと堪え、言葉を搾り出す。


「そういう根も葉もない噂、広めないでほしい……」


「いや、噂とかではなく……話を聞いてくれませんか」


「陣野……影姫さん、転校してきたばかりだし、誰からそんな噂を吹き込まれたのか知らないけど……早苗ちゃん、すっごい優しい子だったんだよ。私といる時だって、いつだって自分より私の事を考えてくれてた。そんな子が……そんな早苗ちゃんが呪いとか怨念とかある訳ないじゃない!」


 思わず言葉尻が強くなる。廊下に響き渡る声。


「体験をした事の無い事象を受け入れたくないのはわかります。ですが今は一刻を……」


「もう早苗ちゃん死んじゃったんだよ!? 影姫さんは知らないかもしれないけど、虐められて、苦しんで……それで自殺しちゃったのに、まだ虐め足りないの……」


「その話は聞いています……私も非常に心苦しい……」


「だったら! なんで! そんな事言うのよ! 私に聞いてきたって事は、私が幼馴染だったって事も誰かに聞いてきたって事よね!? 何、私を責めたいの!? 私だって……私だって……!」


 生きている時に助けてあげられなかった私が言えた事ではない。でもせめて、これ以上早苗ちゃんが悪く言われるのを少しでも止めたい。それだけ早苗ちゃんは私にとって大切な人だったのだ。

 いつも一緒に笑って、いつも一緒に泣いて、いつも一緒に悲しんで。思い出すと、堪えていた涙が溢れてきた。


「私……私だってすごく後悔してるのに……なのにみんな何よ……。まるで早苗ちゃんが死んで、噂話の種が一つ出来て喜んでるみたいじゃないっ。そんなのって……そんなのってあんまりだよ……」


「……気分を害すような事を言ってしまった事は謝ります。ごめんなさい」


 そう言うと影姫さんは頭を下げる。頭を上げた影姫さんの目はすごく真っ直ぐであった。

 まるで私が勝手に癇癪を起こして泣いているだけみたいだ。


「情報収集に協力していただければ有難かったのですが……それに伊刈さんが関与しているというのもあくまで推測の域でしたし、確たる情報・証拠が集まればその誤解も晴れると思うのですが……まぁ、いいです」


「……」


「では、教室に戻りましょう。私も、もう貴方にこの話はしません。忘れてください」


 でも、影姫さんは悪気があって言っている様には見えなかった。そして同時に、とても嘘をついている様にも見えなかった。

 兵藤さんや七瀬さんみたいに面白おかしく事件に関わろうなんて雰囲気ふんいきは一ミリも感じられなかった。


 そう、兵藤さん達みたいに、おちゃらけた感じじゃない。

 他の皆のように、世間話をするような感じじゃない。

 嫌な事を聞きたくなくて条件反射の様に影姫さんの言葉を遮ってしまったけど、私に話しかける影姫さんの顔は、とても真っ直ぐで真剣な顔に見えた。


 返事もせず、小刻みに震える私の横を何事も無かったかのように通り抜けていく影姫さん。

 何か不思議な感じがする人だ。このまま、このまま話を終わらせてしまっていいのだろうか。

 今、私が影姫さんの問いに答えれば何かが開けるのではないだろうか……。


 なぜだか分からないがそんな気がした。


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