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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-22-2.野獣の眼光【陣野卓磨】

 出てきた瞬間、向こうは階段に座っている俺に気付き、高齢の男とと目が合ってしまった。

 客間から出てきたのは、和服を着て髭を生やした高齢の男と、白いスーツでサングラスをかけた男。

 二人とも中々の強面で、決め付けは良くないがその出で立ちからしても反社会的な系統の人なのではないかと思ってしまう。


 しかし、目があって俺の前で立ち止まった二人の姿を見ていると、どこかで見た事がある。

 俺を見るその目は、人であるという事を感じさせない程に冷たい眼光を放っていた。

 俺は盗み聞きをしていたという後ろめたさもあり、気まずい雰囲気ふんいきを感じ取り目を逸らしてしまう。


「盗み聞きか。行儀が悪いな」


「いえ、その……すいません」


 耳に響く低い声が鼓膜を揺らす。そして相手が眉間西輪を寄せると更に厳しい視線が俺に向けられる。

 その体からは威圧的な物が感じとられ、まるで蛇に睨まれた蛙のような状態である。心臓の鼓動が大きくなり、身体が圧迫される様な感覚に囚われる。


「お前だったのか。確か何日か前に霧雨学園近くの喫茶店にいたな」


「あ、そういえば……! あそこで騒いでたガキの一人ですよ。男が一人しかいない珍しい組み合わせだったから覚えてやすよ」


 高齢の男にサングラスの男も同意する。

 そうだ、どこかで見た事があると思ったら、あの喫茶店にいた客だ。

 俺達が話をしている途中店に入って来て……一番奥の席に腰掛けていた二人組だ。和服に白スーツという珍しい組み合わせであった為、俺もぼんやりとではあるが記憶に残っている。


「刀を盗む、会話も盗む。三代揃って行儀の悪い家系だ。なぁ、千太郎さんよ」


 目も向けずに爺さんを名指しで声を掛けるが、客間から爺さんの返事は返ってこなかった。


「見た所、弱い。貧弱だ。術どころか武術も使えまい。お前のような貧相な男に抱え込まれて影姫もさぞ不幸な事だろうな。今後は私から何を盗むつもりだ? 金か? 名誉か? 何にせよ教育がなっとらんな。まぁ、育ての親があれでは仕方ないか」


 酷い言われ様だ。俺だけでなく父さんや爺さんまでけなしてくる。

 初めて言葉を交わす相手に向かって言う言葉だろうか。俺が悪い部分もあった為に黙って聞いていたが、徐々に苛立ちが募ってくる。


「な、なんだよ……それが初めて話す人間に対する物言いかよ……」


 言い返したいが言葉がそれ以上出てこない。これでも頑張って搾り出した方だ。


「目上の者に対する喋り方すら身についておらんとはな。ほとほと呆れ果てる。親の顔は知っているが、やはりそれ相応の教育しかしていなかった様だな」


 爺さんの方を一瞥いちべつしながらそう言い放つ。なんて偉そうな奴だ。殴り飛ばしてやりたい気持ちだが、体格が違いすぎる。年の割りに凄くガタイがいいし、後ろにいる奴も筋肉質に見える。

 ただでさえ俺は弱いのに相手は二人だ。とてもじゃないが俺が敵う相手ではないのは明白。返り討ちに遭うのがオチだろう。


「私が何の話をしているか理解する頭も持ち合わせているとは思えないが、お前の不用意な行動によって、大勢の人間が死ぬ事になるかもしれないという事を自覚しておけよ」


「どういう事だよ……」


「言葉通りだ。最も、私等が手にしていたとしても別の意味で死人が出るのは変わらんがな。フフッ」


 男が見下すような視線で俺を見ながらそこまで言い放つと、爺さんが客間の方から姿を覗かせた。


「或谷さん、あまり卓磨を責めんでやってくれ、悪いのはワシじゃ」


「おっと、そうだったな。今回も十二年前も。全部貴様の責任だ。そのせいで、家族が、友人が、街の人間が大勢死ぬ事を忘れるなよ。私は貴様が絡む案件について助けるつもりはおろか、関わるつもりも一切無いからな。せいぜい苦しみの先に苦しみぬいて、自分のやった事を後悔するがいいさ」


「……今日はもう帰ってくれ……」


「ハッ、今のアンタにしては過ぎた言い草だな。言われずとも帰る所だ。せいぜい諮問委員会からの呼び出しを楽しみにしておけ」


 或谷と呼ばれた男はそう言い放つと、サングラスの男を引き連れて玄関の方に歩いていった。

 爺さんもそのまま客間から出てきて二人を玄関で見送るが、二人は、挨拶はおろか顔も向けることなく玄関をピシャリと閉め家を出て行った。


 俺は責められる爺さんの顔を見る事が出来なかった。


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