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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-22-1.来客の暴言【陣野卓磨】

 部屋から出て階下へ降りると、客間の方から何やら話し声が聞こえた。

 爺さんが誰かと喋っている。


「陣野さん、アンタはいつもそうだな。以前も同じ言い訳をしていた」


 聞き覚えのない、低く響く高齢の男性と思われる声が聞こえてきた。

 誰だろうか。爺さんがやっていると自称している骨董商の同業者だろうか。

 誰にせよ、声のトーンからするにあまりいい雰囲気ふんいきとは言えなさそうだ。このような深刻そうな雰囲気ふんいきの中、違う部屋とはいえ同じ階の近くの部屋でテレビをつけるのも気が引ける。


或谷あるたにさん、本当に申し訳ない。影姫に関しては不慮の事故。今のワシには謝る事しかできない」


 気になる言葉が聞こえてきた。爺さんの口から影姫の名前が出てきたのだ。

 影姫について話をしているようだ。


 客間は階段脇にある。影姫の名前が出てきた事により、影姫について昨日聞けなかった他の情報を聞けるのではと、俺は会話の内容が気になり、ソロリと音を立てずに階段に腰掛けるとそのまま耳を傾けた。


中頭なかがみから連絡を受けて、私も娘も影姫を迎え入れる準備を始めていた。それがなんだ。もう影姫は目覚めている、うっかり刀を居間に置きっ放しにしていただと? そんな言い訳が何度も通ると思っているのか」


「……」


「しかも目覚めさせたのは、部外者一般人ときたものだ。前の時は静磨しずま君がそこそこ戦闘能力が高い男であったし、状況が状況であったから我々や上層部もやむを得ず承認したものを、今回は酷いぞ。第一なぜあのような大切な物を人が入るような場所に放置したのだ。厳重に保管するように中頭から言付かっていなかったのか!?」


 怒りが抑えられなくなっているのか、徐々に声を荒げる男の声に爺さんが責められている。

 そして、相手の口からは父さんの名前も出ている。

 戦闘能力とは何の事だろうか。もしかして父さんも影姫と一緒に屍霊しれいと戦った事があるのだろうか。


「すまん」


 謝る爺さんの声。ただその一言だけが聞こえてきた。


「すまん、申し訳ない、私が悪かった。今までその台詞を貴様から何度聞いたことか。もう聞き飽きたわ。謝罪の言葉がこれほど薄っぺらく聞こえる人間もそうそうおらんな!」


 低い声の男の怒号に続き、別の男の声が聞こえてきた。


「陣野さん、あっしは許せやせんよ。お嬢がこれまで私生活の時間を削り、遊びたい年頃なのに交友関係も絶って、影姫を迎え入れるに見合う力量を手にする為にどれだけ鍛錬を重ねてきたかわかっているんですか。前回は組長が温情を持って許したから事なきを得やしたが、今回はさすがにお嬢が許してもあっしが……!」


 こちらは先程の声より幾分か若そうだ。悔しそうに若干声が震えている。


「政、お前は黙っていろ」


 若い男が低い声の男性にとがめられる。


「すいやせん……」


 どうやら、本来影姫を手にするはずだった人物の関係者が来訪しているようだ。それを俺が横から入って影姫を目覚めさせてしまった事で爺さんが責められているという事か。


「だが、政の言葉を聞いての通りだ。ウチの娘がこれを聞いてどう思うかと思うと心が痛い。陣野さん、どうする。責任は取ってくれるんであろうな?」


 部屋に訪れる少しの沈黙。

 最早、俺がこの場を去ろうにも階段を上がる為に少しの軋む音を出してしまうのも躊躇われる程の緊張感がこちらに伝わってきた。

 俺のせいで爺さんがこれ程までに責められていると知ると、胸が痛くなってくる。


「影姫を……ワシに折れと言うのか?」


 影姫を折る……?

 ちょっと待てよ、影姫の話からすると折ったら折ったで、あの屍霊とかいうのになった伊刈だけが残って、俺は……殺されるんじゃ。


「折るかどうかはアンタ次第ですな。屍霊が既に出現している現場で影姫がいなくなれば、どういう事になるかはアンタもわかっているだろう。私等はアンタの尻拭いをするつもりは毛頭無いからな。良く考えてから行動しろ」


 咎めるように言い放たれるその言葉に、ズズッっとお茶を飲む音が続く。


「まぁ、起こした者が月紅石も持たない一般人であれば、勝手に折れるのも時間の問題だがな」


「……」


 爺さんの返事の言葉がない。言葉に詰まっているのであろうか。


「手遅れな物の話をいつまでもしていても仕方ない。私はもう失礼する。アンタには失望したよ。まぁ、元々期待もしておらんかったがな。心のどこかではまたこういう事があるんじゃぁないかと危惧していた。体どころか頭まで使い物にならなくなった老兵がいつまでもシャシャリ出おってからに。そろそろ引き際と言うものを考えて欲しいものだ」


「ワシは……」


「これ以上、嘘に塗れた言い訳を聞くつもりはない。この事は上層部に一言一句漏れなく報告しておくからな」


 その捨て台詞と共に、ふすまがピシャッと勢いよく開かれた。

 最後の言葉が言い放たれてから襖が開けられるまでが早かった為、隠れる暇もなかった。


 そして部屋から出てきたその男と目が合ってしまった。


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