表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
73/613

1-21-3.屍霊について【陣野卓磨】

 開かれたノートの一ページには、大きく達筆で〝屍霊〟と書かれている。


屍霊しれいとはこう書く」


死霊しりょうとは違うのか?」


「違うな。見ての通り、『シ』は『屍』、『霊』は『リョウ』ではなく『レイ』と読む。読み方が違うのは死霊と区別する為もあると聞いた。世間一般的には幽霊よりも怪異・怪物・化物とか呼ばれている存在に近い」


「どこが違うんだ?」


「まず大前提として知っておかねばならん事を言っておく。死霊というのは人が死んだ後に魂となりこの世に留まっている存在だ。もちろん現世に生きている我々からは見ることも出来ないし触ることもできない。まぁ、たまに写真やビデオに映ったりするものもあるが、害をなすものは少ないし、あったとしても少々怖がらせるくらいだ」


「あぁ、まぁ、なんとなくは知ってる。ってか、その言い草だとそれ等が実在するみたいな……認識でいいのか?」


 俺の返事を確認して一つうなずくと、影姫は次の話に移る。


「そしてもう一つ、あやかしという存在。これは、人の信心の念や様々な思い、作り話や伝承などから形どり生を受ける存在だ。普段、人が目にすることはないが、時に姿を現し悪さをしたりする。そして触れることもできる存在だ。私を作り上げた存在でもある。死霊が人であるのに対し、こちらは魂の宿った物や動物である事が多い」


「妖、ねぇ……そんなもの実在するのか」


 影姫のその口ぶりは、さも妖が実在するかのような口ぶりであった。もし実在するというのならば、ぜひとも一度お会いしたいものだ。

 そんな半信半疑な俺の顔を見ても表情一つ変えずに影姫は続ける。


「私は嘘偽りを言っているつもりはないが、その存在を信じるか信じないかは卓磨に任せる。この世界ではそういう存在に出くわす事が少ないと言うのは私も承知しているし、勿論その様子では今まで見た事もないだろうから、今すぐ一から百まで全て信じろと言うつもりはない」


「まぁな。そんな存在の実物なんて見た事ないわ」


「そして本題の屍霊だ。これは今言った死霊と妖の間に位置するような存在だ。そして、性質としてはその二つよりも残忍で非道であることが多い。この性質は第三者の介入があると言われている」


「第三者? 霊とか妖に介入するってと、神様か何か?」


「……それが先程私が口にした厄災の人造神だ。だがそれについて説明しだすとまた長くなるからまた今度だ。正直、その辺についても記憶が抜けている部分が多いからな……」


「ああ……」


 正直説明された所で理解しきれる気がしない。


「話を戻すぞ。なぜ『屍』という文字が使われているかというと、死霊と違い触れる事ができるのだ。私の刀は霊的なものも切れるので当然の事だが、卓磨自身も屍霊に対して傷を負わせられるかどうかは別として、攻撃しようと思えば攻撃できる。霊というよりは動く屍に近い」


「ゾンビみたいなもんか?」


「……まぁ、ゾンビと言えばゾンビかも知れんな。個々の能力はゾンビのそれとは桁違いだが……フォーグラー城にいた庭園墓地のゾンビ共はそこそこしつこかったが……」


 ブツブツと何かを思い出すようにそう言う影姫の口調や仕草は、まるでゾンビと戦った事があるとでも言わんばかりであった。


「とにかく凶暴なのだ。ゆえに屍霊は、生前募らせた深い怨念の赴くままに生きた人を殺す」


「影姫は何度も戦った事あるのか?」


「ああ。全てを思い出す事は出来んがな」


「例えばどんな奴がいたの?」


「どんな……いや、何度も……最後に……八……」


 俺の問いに対して何かを思い出そうとしている影姫は、頭を痛そうに抑えて口を噤んでしまった。演技などには見えない。じわりと冷や汗をかき、少し俯いてしまう。聞いてはいけない事でも聞いただろうか。


「おい、どうした? 具合でも悪いのか?」


 だがその時だった。

 心配に思い、そう声を掛けて無言の影姫を見ていると、突然俺の頭の中に〝ボッ〟っという不気味な声が鳴り響いた。

 その声に肩をビクッと震わせてしまう。そして、頭に少しの痛みが走る。

 人の声……というより、先程襲ってきた屍霊の声に近いように思えた。


「な、ん?」


 突然のその声に恐怖を覚え、また先程の奴が襲ってきたのかと慌てふためき辺りを見回すが、誰もいないし気配もない。

 空耳かと胸を撫で下ろし影姫の方に向き直ると、影姫両拳をテーブルの上に置き、更に具合が悪そうに頭を項垂れている。


「……すまない。今日はこれまでにしてくれ。とにかく、屍霊が危険な存在であると言う事だけは頭に叩き込んでおいてくれ」


「え、あ、ああ。やっぱ具合悪いのか?」


「少々頭痛がするだけだ。寝れば治る……と思う。元々病み上がりだしな……」


 そう言って押し入れの上段に軽やかに飛び上がると、ピシャリとふすまを閉めて閉じこもってしまった。

 まだ色々と聞きたい事はあったのだが……。


◇◇◇◇◇◇


 にわかに信じ難い話だった。そう、以前の俺なら微塵も信じなかっただろう。だが、実際に襲われたという経験をしてしまった今は違う。嫌でも信じざるを得ない。


 ディスプレイから出てきた屍霊とやらに襲われ、部屋が滅茶苦茶にされた。同じくつけられた腕の傷だって、深くは無いのにまだ痛みが引かない。

 所々に屍霊と言う存在に出会ってしまったという確たる証拠があるのだ。


 しかし暇だ。暇すぎるし眠くない。

 影姫は部屋から出るなと言っていたが、ネットの動画も同じ様なものばかりで見たい物が無いし、そもそもスマホを起動する事が出来ない。

 考えた後に、下でテレビでも見るかと思い身を起こす。


 うちのテレビはネットとかに繋いでいないから大丈夫だろう。

 テレビ関係でウチに襲撃してくると言ったら、ガラの悪い受信料集金人くらいだ。

 そうして俺はあまり見ないテレビを見る為に階下へ降りることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ