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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-21-2.厄災ノ神【陣野卓磨】

 よく覚えてない、か。というか、じゃあ俺は影姫がいたせいで襲われたってことになるのだろうか。考えてみれば、学校の踊り場で不思議な光景を見せられたのも、化物に襲われたのも影姫が現れてからだ。

 何かしらの原因となっているのは間違いないのではないだろうか。


「恐らく先程の屍霊しれいもそれの一端だろう。私はあの屍霊がこの世界でいつ出現し始めたかは知らないが、伊刈早苗の件について聞いた事を考えると、その人物であると言うのは間違いはないと思う。あんなもの、実際に見た事ないだろう?」


 確かにあんな化け物は映画みたいな映像作品以外では見たことない。あんな物が実在したと思うだけでも背筋が凍る思いだ。


「ああ。見たいとも思わなかったがな」


 影姫の言葉に頷く。そして俺は思い出す。シレイ……変わり果ててはいたものの、伊刈の声と姿をしていた。だとすると、出現したのも伊刈が自殺したよりも後という事になる。


「それと、現在の私の本体と融合している刀の刀身が粉砕され……なぜ粉砕されたかは、これもよく覚えていないのだが、しばらくの間は自己の修復の為に深い眠りに入っていたらしい。だが、つい最近、修復が終わり眠りも浅くなっていた。私を起こす者を引き入れる為に。なので、先程のアレが出現したのは最近の事だと思うが」


 そう、最近なのだ。世間では目玉狩り事件と言われている。兵藤と七瀬に聞いた一件目の殺人事件も伊刈の死んだあと。時期が合う。


 そして俺を見る影姫。そうか、居間に置いてあったあの刀。爺さんに騙されたのと、あの場のドサクサで記憶は薄くあやふやになっていたが、やはりあの刀だったのか。

 それで俺が刀の状態であった影姫を呼び起こしてしまったと。


 にしても、刀に触れたあの時に見た光景は何だったのだろう。言葉に表すのには難しい。

 今影姫にその事を聞いても、言葉がまとまらず、まともな質問にはならないだろう。


「それと、先程も言ったが、今の私では弱すぎてあれには勝てる見込みが極めて低い。だからと言って、このまま放置して卓磨が殺されでもしたらば、私もまた強制的に刀に戻り眠りにつかなければならない。なので、何か解決策を見つけるつもりではいるが、当てにはするな。一人の時は自分の身は自分で守れ。瀕死でも、卓磨が死ななければ問題ない」


 自分で身を守れとはえらく簡単に言い放ってくれる。俺は影姫のような戦える武器は持ってないし、また狭い室内に閉じ込められでもしたらそれこそ逃げる事すら不可能だ。

 あんな化け物からどうやって身を守れと言うのだ。それができるなら苦労しない。あんな怖い思いをせずに済むって話だ。


 でも気になることがある。影姫がただ単にそのシレイって奴を呼び起こすだけの存在なら、起こさずにずっと眠らせといた方が平和なんじゃないのだろうか。そう、ふと思った。


 そう思い影姫から視線を外していると、影姫は顔を上げこちらに向き直った。


「そう、事情をよく知らない人間が私の説明を聞けば、私を延々未来永劫眠らせておいた方がいいと思うだろう」


 また、心を見透かされたように答えが返ってくる。同じ様な経験を過去にしているのだろうか。影姫の方を見ると、影姫の顔には少しの陰りが見える。


「勿論その通りだ。私の本体である刀身の刃を折り、それぞれを別の場所に保管でもすれば半永久的に眠らせることもできるだろう。だがそれはダメなのだ」


「駄目って、何で?」


「私が目を覚まして存在する必要がある出来事がこの先起こる。頻発する屍霊の出現はその一端であり、その事象がいつであるかが確定していない今、現状極力眠っているわけにはいかないのだ」


「その、出来事ってなんだよ。また覚えてないか?」


「いや、それだけははっきりと覚えている。忘れようも出来ない程に心に刻み込まれている。私が、私達が駆逐せねばならない存在、厄災の人造神……大勢の私の大切な……奪った……」


 影姫の言葉尻が徐々に小声になっていき、聞き取りづらくなってきた。


「や、やく? なんだって?」


 俺がそれが何なのかを聞こうとすると、影姫は立ち上がり俺に背を向け押し入れのふすまを開けた。


「卓磨、あまり一度に詰め込んでも理解しきれんだろう。今日はここまでだ、また気の向いた時にでも……」


「ちょ、ちょっとまって、その、今何か言ってたのについて話したくなければ、それはまた別の機会でもいい。唯もう一つ教えてくれ」


「なんだ?」


「シレイってなんだ? 襲われてた時もそうだけど、さっきから度々話に出てくるシレイって奴はよ」


 その言葉を聞いて影姫は呆れた表情でこちらを見つめ溜息をついた。


「なんだ、それも知らずに私の話を聞いていたのか?」


「いや、聞くタイミングがなかなか無かったから……で、シレイってなんなの?」


 その俺の疑問交じりの言葉を聞くと、影姫は再び俺の正面に腰を下ろし、机の上に乱雑に置いてあったノートとペンを手に取り言葉を文字に起こした。


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