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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-20-3.伊刈に関わりのある人物【陣野卓磨】

 今思えば、兵藤のアホな推理通りの展開じゃないか。

 何が呪いだって全然信じちゃいなかったが、そんな考えをしていた俺の方がアホだったってことかよ。

 だからと言って、あいつらに今起きた事を言える分けがない。ほれみた事かと自慢げに見下されるのが嫌なんじゃない。あいつ等の事だ、知ったら知ったで首を突っ込みたがるかもしれない。そうなれば命が危険に晒される。

 極力巻き込んじゃいけない、巻き込んだ事で命を危険に晒してしまう。俺達みたいな普通の学生に解決できるような問題じゃない。


「なら、その伊刈早苗にゆかりのある者に何か聞けば何か分かるかもしれないな」


 ゆかりのある人物……。

 脳みそを回転させて思い出してみる。

 そこで一番に思い浮かんだのは桐生千登勢きりゅうちとせだった。幼馴染である彼女なら何か聞きだせるのかもしれない。


 だが、一体何を聞けばいいのだろうか。

 伊刈が化物になって人を殺し捲くっているとでも聞くのか。そんな事を言えばまた桐生は泣き出してしまうのではないか。

 だめだ。桐生がこういう話をして信じてくれるとは思えない。しかし、聞いて見ない事には話も進まないだろうし、どうしたものか。


 次に思い浮かんだのは伊刈の両親……なのだが、こちらは駄目だ。

 霙月の話によると既に亡くなっている。


 あとは……御厨みくりや洲崎すざきは既に殺されているから、天正寺てんしょうじか……。

 悪い意味ではあるが、係わり合いのある人物ではある。余り関わり合いたくない奴だが、俺の命に関わるこの状況である。そんな事は言っていられない。今まで俺が得た情報の中で心当たりがあるのは桐生と天正寺だけだ。


「一応、いるにはいるが……俺、そいつらの住所とか電話番号とか知らないし、スマホを使えないとなると、聞くなら学校行って直接でないと無理だ。でも、何を聞いたら……」


 わからない。この二人に何かを聞いて、解決するような事を教えてもらえるのだろうか。

 それ以前に、今この部屋で起きた事を話して信じてもらえるのだろうか。

 頭がおかしくなったと思われて逃げられるか避けられるのがオチなんじゃないだろうか。

 いろんな疑問符が頭に浮かぶが、どれもいい結果が得られるとは思えない。


 桐生に至っては喫茶店の時の件もある。伊刈が化け物になって襲ってきたなんて言ったら、やはりまた泣き出すかもしれない。

 そうだ、天正寺だ……あいつが悪いんだからあいつを伊刈に差し出せばこの件は終わるんじゃないのか……。


 駄目だ駄目だ駄目だ!

 俺は何を考えているんだ!

 いくら虐めの主犯だったからと言って、生きている人間を生贄に捧げるみたいな事、俺には……。


「両親はいないのか?」


「え? ああ、伊刈の両親はもう……伊刈自身が自殺した後に後追い自殺したらしい……」


「らしい、か……」


「ああ、俺も聞いただけだから死因は本当に自殺なのかは知らないけど、亡くなっているのは確かみたいだ」


「それなら学校の交友関係を辿るしかないな。何か大切な思い出や、大切にしていた物などがないか、その辺が妥当だな」


「大切な物?」


「ああ、それを媒介として本来の記憶を蘇らせ、魂を浄化させるしかあるまい。思い出話し等は本人達と話させるのが理想なのだが……危険だな。万が一にも何も反応がなかった時に縁者となる者の命が危ない。特に今回の屍霊は虐めによる自殺が原因なのだろう。そうなるとなぜ自分を助けてくれなかったのかと言う積念があるやもしれん。私が刀を使えて強制的に滅せれば何の問題もないのだが……」


 刀?

 伊刈と戦っていた時に使っていたが、それとは違うのだろうか。


「これ以上犠牲者を出すのは俺も嫌だ。天正寺は……ムカツクけど、あいつでも目の前で死なれたら寝覚め悪いだろうし……明日、学校行ったら聞いてみる。虐めてたくらいだから何か弱みとか握ってたのかもしれないし……」


「いや、卓磨。お前が学校へ行くのは危険だな。皆が所持しているのを見たが、その小さい通信機器の巣窟そうくつではないか。大人子供皆違わず、怖い位に皆が画面を覗き込んで、虚ろな目をした死者の行進の如く歩いているのを通学路で見たぞ」


 影姫が俺のスマホを指差す。そう、スマホなんて今時は誰でも持っている。むしろ持っていないと仲間はずれにされるような世の中だ。

 さっきサイトを見た感じでは来場者カウンターはそれほど回っておらず、現在はサイトにアクセスしてる奴はほぼほぼいなさそうだったが、書き込みを見た限りでは、少なくとも同じクラスになった二階堂や三島は見に行っているだろう。


「明日は確か、学校は土曜日で半日だったな。卓磨は明日は学校を休め。大した授業もないだろう。私がその二人に聞くから、二人の名前を教えろ」


「え、でも明日は田中の授業あるんだよなぁ……あいつの授業あけちまうと後々……」


 俺のくだらないぶんを聞いて影姫がフッ吐息を漏らす。


「卓磨、自身の命と教師の小言回避とどっちが大事なんだ?」


 影姫の視線が痛い。

 もちろん命である。そんなもの命に決まっているじゃないか。

 また溜息をつく。その溜息を返事と捉え、影姫が続きを話し出した。


「あと、卓磨が知ってる限りでいい。先に伊刈早苗に関しての情報を知りうる限りで教えろ」


「ああ、わかったよ」


 観念した俺は、それから伊刈について知っている事を全て話した。と言っても大した情報量は無い。虐めの事、天正寺達の事、実際に見た虐めの内容、噂で流れていた虐めの内容……。

 そして桐生との事や、霙月みつきに聞いた伊刈の両親の事くらいだ。


「酷い話だな。それは自殺したくもなる。卓磨は見ていただけなのか? 同じクラスだったんだろう?」


 うつむき加減に、目も合わさずに問いかけられる。その質問内容は俺にとって辛い所だった。


「俺は、まぁ……なんというか……」


 俺の歯切れの悪い返事に影姫は鋭い視線を一瞬こちらに向けると、すぐさま元に戻す。


「目の前の女一人助けられず何が男か……。だが、だろうな。卓磨にそんな気概があるとは思えない。他の奴も同じなんだろう? さしずめ、助けたことで自分が標的にされるのが怖いとかそういう理由だろう」


 だったらどうしろって言うんだよ。と思いつつも影姫のほうに視線を移す。視線だけを向ける無言の俺を見て肩を落とす影姫。


「誰かが行動を起こせば同調するものが出てくるかもしれないと、なぜ誰も考えないのだ」


「そんなの分からないだろ……皆だって自分の生活があるんだ。僅かな可能性にかけて自分の学園生活台無しになんて誰もしたくないさ」


「気分が悪くなるような光景を毎日毎日見せられて、それがいい学園生活と言えるのか?」


「それは……そうだけどよ……」


「……まぁいい。過ぎた事をとやかく言っても仕方が無い。とりあえずは明日私が学校で二人に聞くから、卓磨はこの部屋から絶対に出るな。千太郎には私の方から伝えておく。燕は……燕も学校だから大丈夫だろう。燕が帰って来るまでには私も帰ってくる」


「ああ、わかった」


 言われたままで悔しい気持ちもあるが、まさにその通りであるので反論ができない。

 誰かが言えば変わったのだろうか。俺には分からない。


「では、夕食を……」


 部屋を出ようとする影姫の後ろ姿を見て、いろいろな疑問が頭に沸いて出てきた。怖さやら何やらで頭からは離れていたが、俺からも色々と聞かないといけないことがある。俺は知る必要がある。


 まるで俺が知っているかの如く、当然の様に先程から影姫が口にしている、〝屍霊しれい〟とは何なのか。

 そして、彼女が何者なのかを。

 

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