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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-20-1.荒れた部屋【陣野卓磨】

 目の前に広がるのは、影姫が化物を撃退して荒れた部屋。

 元々綺麗に整頓された部屋という訳ではなかったのだが、先ほどの一件のせいで元より更に酷い事になっている。

 襲われている時にはそれどころではなかったので気付くことが出来なかったが、色々と散乱しているのだ。本棚から崩れ落ちた本の中には穴が開いたり真っ二つに切断されているものもある。

 それを見ていると、アレは夢じゃなく現実だったのだと改めて思い知らされる。


「ああ……。なんてこった」


 思わず口から言葉が漏れてしまう。

 ほっぽり出していたゲームのディスクも何枚か割れている。

 あれほど二階堂に『使わざる円盤はすぐにケースにしまうべし』と言われていたのに……。

 そして、俺が食べるはずであったフルーツタルトは化け物にぶつかって床に落ち、原型を留めていない。正直そんな物を食べるような心境でもないのだが、見ていると切なくなってくる。

 これは掃除が大変そうだ……。いや、掃除とかそういう場合なのだろうか。あんな化物が実在するだなんて今でも信じられない。だが、腕に付けられた傷がその存在をはっきりと実在のものとして俺の頭の中に刻み込んだ。


 今回の件は不用意に行動してしまった俺の責任だ。

 まさかこんな事になるとは思いもしなかったが、命あっての物種である。ある程度は諦めないと仕方ない。散乱する物の中でも、三島に借りたゲームのディスクだけはなんとか無事であった。


「不幸中の幸いというやつか……」


 俺しかいない部屋で、思わず溜息と共に再び声が洩れる。

 しかし……あの時の状況を思い出しただけでも背筋が凍る。あれが殺されるかもしれない恐怖と言うものなのか。あの時の気分、心臓が口から飛び出そうだった。むしろ内臓が全て上へ押し上げられるような感覚。今まで生きてきた中で一番の恐怖だった。

 死と言う恐怖に直面して全身が張り裂けそうな思いだった。


 そして、パソコンのディスプレイ。俺の大事な通信媒体。


「はぁぁぁぁ……」


 もう、一目瞭然。誰に見せても買い換えろと言われるだろう修理不可能な位に破壊されている。画面はヒビだらけで液晶は破れ、中の部品やフレームも割れてあちこちに飛び散っている。


「何を大きな溜息をついているんだ」


 下の階から俺の部屋に戻ってきた影姫も、部屋を片付けるのを一応手伝ってくれている。

 散乱した本などを仕分けて、無傷な本を適当に本棚に突っ込んでいる。たまに興味のある本を見つけてはパラパラとめくって中身を見ているようだ。


「だってよ、このディスプレイ、学校の進級祝いって事で先週買って貰ったばっかりだったんだぜ……。また、前に使ってた一回り小さいのに逆戻りかよ……」


「自身の命とそれとどっちが大切なんだ。それを壊さねば私も卓磨も殺されていたかもしれないのだぞ。その画面は代わりの効く物があるが、命はそうは行かない。今生きているという事をありがたく思え」


「それはそうだけどさぁ……」


 自身の命はもちろんの事、パソコン本体が無事だっただけでもありがたく思わないといけない所だが、やはりそれはそれ、これはこれである。


「それに、新しい画面を設置するのはしばらくやめておけ。あの手の地縛じばくされてないたぐいの屍霊はしつこいぞ。またその画面をつけたら、いつ襲ってくるかわからん。そればかりか、あの黒い画面が表示できる物が近くにあった時、卓磨の近くで誰かがあの画面を表示でもしたら……」


 そうなったらスマホも危ないかもしれない。

 俺のスマホは運良く電池が切れてそのまま放置されていた。もし、あのスマホの電池が切れておらずに起動したままだったらどうなっていたのだろう。ディスプレイと共に影姫に破壊されていたのだろうか。考えただけでも恐ろしい。しばらく充電しない方がよさそうだ。


「あの掲示板か……」


 爺さんや燕は、さすがにあんなサイト知らないだろうから家で表示されるなんて事はないと思うが、学校はどうだろう。凄く危ない。

 今思えば、友惟ともただに教えてもらった時にスマホの画面に見えた黒い影。アレは今回の件の前兆だったのか。


「画面を割って消えたという事は、恐らくおもたる出現条件は先ほどの黒い画面……掲示板なのか? その掲示板以外にも何か条件があるのかも知れないが、私にはそれがわからん」


 出現条件……。

 恐らく影姫の言っている事はあっているだろう。そして他の条件。御厨みくりや洲崎すざきの事件から見ても、サイトを開いている時間。あと、書き込みも関係あると思う。何時何分にぴったりではないと思うが、少なくともその特定範囲の時間前後数分は危ないと思う。


「時間と、書き込みも関係あると思う。俺の知ってる範囲の事から考えると……って、何で冷静にこんな事考えないといけないんだよ! 殺されかけたんだぞ!? 今! ここで! 俺が!! 影姫はよくそんなに冷静でいられるよなっ!」


阿呆あほう。殺されかけたからこそ考えないといけないんだろう。卓磨、お前はすでに一度襲われている。標的にされているんだ。もう時間や書き込みの条件が満たされていなくても、近くにその掲示板が表示さればそれに関係なく奴が襲ってくる可能性もある。あくまで予想だが」


「まじかよ……もし、もしだぞ。学校で、俺のクラスで授業中に掲示板見てる奴がいたら……どうなる?」


「クラスまとめて皆殺しだな。邪魔をする私にも迷わず襲い掛かってきたし、かなり凶暴な奴だと見受ける。相当な怨念を感じ取れたし、目に入る全ての人間を殺意の対象とする可能性が高い」


「全ての人間……」


「しかも先程みたいに閉じ込められでもしてみろ。さすがに私もあのクラス全員あの人数を助けるのは無理だ。それ以前に……」


 そこまで言うと影姫は何か言いたげにこちらを見る。その研ぎ澄まされた圧を感じる視線は冷たく感じる。

 ああ、襲われてた時に何か言ってたあれか……。


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