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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-18-4.交戦【霧竜守影姫】

最終更新日:2025/3/19

 事前に千太郎から、卓磨には戦う力がないと聞かされていた。だが、私を目覚めさせた当の卓磨がこれほど無力であるとは予想外だった。

 屍霊しれいの姿を目にした瞬間、卓磨の顔が青ざめ、全身が震えていた。対峙の経験が一度もないのだろうか。むしろ、屍霊を初めて見るという反応にしか見えない。


 迫り来る屍霊の猛攻はかなり速い。その全身が画面から出てしまえば、さらに強力な攻撃が繰り出されるのは明らかだ。

 刀一本で対抗するのは難しいかもしれない。

 しかし、術さえ使えない力で二本目の刃を出すことができるか不明だ。鬼蜘蛛のたすきも攻撃には適していない。どうにかして短くても左手に刀を形成する必要がある。


 左腕に力を込めたとき、内部からわずかに反応が感じられた。どうにか成功しそうな予感がする。


「ンンッ!」


 踏ん張るように力を込め、左腕から刃を搾り出すと、二本目の刃が現れた。しかし、右腕の刃と比べると著しく短い。長さは刀と脇差ほどの差があり、半分程度だ。今の状態では二本が限界のようである。


「でりゃぁ!」


 迫り来る屍霊の触手爪を右の刃で弾き、隙を突いて攻撃した。

 当たり所が良かったのか、触手はバランスを崩し、壁に激突した。


 今がチャンスだ。身を翻し、左腕の刃を屍霊の喉元へ向ける。頭を切り落せれば、この場は一時的に収まるはずである。


 勢いよく接近し、刃が刺さった瞬間、肉を貫く柔らかな感触が腕に伝わった。

 だが、刺さったのはこれまで見えていた屍霊の喉元ではなかった。


「イ゛ヤア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!! 痛いいいいいい!! 助けてっ! タスケテェ!」


 部屋に甲高く響き渡る屍霊のけたたましい叫び声が響いた。

 殺したのかと半信半疑で顔を見たが、口は動いていない。

 この叫び声は屍霊自身の声ではなく、先ほどからボソボソ聞こえていた本体とは異なる声だった。


「ひいい!」


 卓磨は相手の姿と叫び声を聞き、恐怖で頭を抱えていた。


 屍霊の肩から服を突き破って伸びた、本体とは別の頭が刃を受け止めていた。刃は新たに生えた頭の喉元に突き刺さり、首の骨に食い止められ、ギリギリと音を立てている。


 生え出た女の頭には目玉がなく、頭が割れているのか血を流していた。こいつが自分で殺した人間の魂を取り込んだのだろうか。それを盾に使うとは狡猾な手段である。


 刃を引き抜くと鮮血が吹き出し、だが傷は瞬く間に癒えて消えた。

 しかし、肩から生えた頭は苦悶の表情を保ち、悲痛な呻き声を漏らしながら宙を漂っていた。


 屍霊は私が首を落とそうとしていることに気づいたようだ。肩から生えた頭の首を伸ばし、マフラーみたいに自分の首に巻きつけた。これで本体の首は切り落とせない状況だ。


 ……それにしても、この部屋は戦うには狭すぎる。物が散乱しすぎており、足を取られればこちらが危険に晒される。散らかった部屋は足手まといで、状況が不利すぎる。


「ア……アハ……」


 無数の目玉を四方八方に向けながら、屍霊はこちらの急所を的確に狙い、触手を伸ばしてきた。


 ガキィン! キィン!


 力任せに弾いた屍霊の爪が、黒い映像を映す画面にぶつかった。


 ピシッと音を立て、黒い画面にヒビが入った。


「アアアアアアアアアアアアアア! ハヤクシンデエエエヨオオ! ダアアアアメエエナノオオオ!!!」


 耳障りで気分を害する屍霊特有の叫び声が響いた。画面にヒビが入った瞬間、屍霊が怯んだようだ。

 ジワジワと出てきていた屍霊の体にヒビが入ったかのように慌てているように見え、這い出る動きが画面のヒビに阻まれているようだった。


 引き下がるなら今がタイミングだ。この部屋から誰もいなくなれば、屍霊も引かざるを得ないだろう。あるいは、出てきたとしても広い場所に移動できれば勝機が見えてくるかもしれない。


「卓磨! 一旦引くぞ! 逃げろ!」


 部屋の隅で動けずに固まっている卓磨に声をかけた。


「わわわわ、分かってるよ! こんなの相手にできるかよ!」


 卓磨がふらふらと立ち上がり、ドアへ駆け寄ったが、屍霊は逃げようとする彼を追おうとしない。やはり画面のヒビに引っかかって出てこれないのだろうか。


 だがなぜだろう。逃げようとする卓磨へ攻撃の手を向けない。元々の標的は卓磨のはずだ。怨霊怪異である屍霊が標的を見逃すとは……。


 チラリと卓磨の方を見ると、ガチャガチャとドアノブを回す姿が目に入った。


「お、おい! 開かない! 開かないぞ! ドア! 鍵なんて付いてないのに!! マジ何なんだよ! 開けっ! 開けよぉ! くっそおお!」


 卓磨がドアノブを力任せにガチャガチャと回すが、ドアは一向に開かない。よく見ると、部屋の窓の外も真っ暗な闇が広がっていた。夜で外が暗いとはいえ、外の風景が全く見えず、近所の窓の明かり一つ見えない。窓の向こうは光のない闇だけだった。


 まずい。固有の領域か何かを持っているタイプかもしれない。見落としていた失策だ。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!! ジャマシナイデヨオオオオオオオォォ!!」


 しばらく黙っていた屍霊が突然叫び声を上げ、画面から出た上半身と両腕から目に見える負の感情がビリビリと放たれた。


「イコ? イッショニイコ? ノロッタカラ。 シヌノ? カキコミ、シタデショ? ワタシヲ、イジメタデショ? ミステタデショ?」


 意味不明な言葉を呟いている。何を指しているのか分からない。つい最近目覚めた私には当然身に覚えがない。


「ちょ、ちょっと待て、この声……聞き覚えがあるぞ……誰だ、誰だ、誰だっ」


 だが、その声を聞いた卓磨は何かに気づいたようだった。


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