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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-18-2.狂気は突然に【陣野卓磨】

最終更新日:2025/3/19

 忘れるところだった。友惟ともただに二階堂と三島への説明を頼んでおかないと。この変な書き込みはさておき、今年の二年生は始まったばかりで、少なくとも一年間同じクラスだ。あいつらの誤解を早めに解くのは、学園生活のためにも重要だろう。


 そう考えて、スマートフォンを手に取りSNSアプリを開こうとするが、電源ボタンを押しても画面が点かない。表示されたのは電池マークと「0%」の赤文字だ。


「あっ、くっそ」


 どうやら充電が切れたらしい。長年使い続けたこのスマートフォンは電池が劣化しており、普段家以外ではあまり使わないため充電を怠っていたのが裏目に出たようだ。

 連絡が取れずに状況を変えられないとなると、明日も嫌な空気を向けられそうだ……。


 パソコンのメールで送るか、家の固定電話を使うか……いや、面倒だ。そもそも友惟の電話番号やメールアドレスを覚えていない。

 その場で行動に移せないとやる気が薄れ、明日学校で頼めばいいかと考えるようになる。結局面倒になり、パソコン画面に戻った。


 再び目に飛び込むのは学校裏サイト掲示板の黒い画面だ。兵藤七瀬の話では、このサイトが何か怪しいらしい。

 興味本位で覗いてみたものの、何も起こらず、何をすればいいのか見当もつかない。書き込みをすれば何か反応があるのか。トリガーやフラグのようなものがあるのかもしれない。ウイルスやブラクラには特定のきっかけが必要だ。都市伝説や噂話みたいなものを実際に試すのは、これが初めての経験だ。


 いやいや、待て、俺。何を考えてるんだ。呪いなんてありえない。

 そんなものが存在したら、人を好き勝手殺せることになる。だが、この掲示板の暗い雰囲気が、俺に微かな不安を植え付けていた。


 試しに何かやってみよう。どうせ何も起こらないだろう。まずは書き込みから始めてみるか。

 時計を見ると、針は十六時五十分を示している。誹謗中傷ではないから問題ないだろう。挨拶だけにしよう。そう、挨拶だけだ。


「えーと……スレタイは、と」


 スレッドのタイトル欄と書き込み欄に、恐る恐る『こんにちは』と入力する。

 何も起こらないはずだが、心臓の鼓動が少し速くなり、頭をよぎる「呪い」という言葉に微かな恐怖が湧いてくる。


「ん……………………?」


 文字を打ち終え画面を見ると、何か黒いものが横切ったような気がした。

 ほんの一瞬で、瞬きするほどの短さ。右から左へ黒い影が通り過ぎたように見えた。目を擦って確認するが、変わったところはなく、今日初めて見た掲示板画面が表示されているだけだ。

 もしかすると、この手のサイト特有のダークな演出がなされているのかもしれない。昼間のあの出来事もあり、疲れが溜まっている可能性もあるし、飛蚊症ひぶんしょうというものかもしれない。

 だが、その一瞬の影は、俺の記憶に焼き付いて離れない。伊刈の死や目玉狩りの噂が頭をよぎり、心がざわつく。


「おい、卓磨」


「んー? なんだ?」


 影姫の声に答えながら、マウスに軽く手を置き、人差し指に力を入れる。カーソルを投稿ボタンの上に移動させる。

 いざ! とクリックする直前、影姫がこれまでとは異なる警戒心を帯びた低い声で呼んだ。


「おい」


「何だよ、ちょっと今、手が離せないから後に……」


 きっとさっきのようなつまらない質問だろう。なら、すぐ振り向く必要はない。

 そう思い、影姫の声を軽く無視してマウスの左ボタンを押す。


「おい!!」


 ガタッと背後から音がした。影姫が身を乗り出したか、テーブルがずれたのだろう。

 だが、マウスのボタンを離すだけだから、少し待ってほしい。

 そう思い、人差し指に力を込める。


 カッチッ……。


 投稿ボタンが押された。

 画面が切り替わり、投稿してもいいかの確認画面が現れる。続けてOKボタンをクリックする。


「だから何だよっ! ちょっと待ってって……」


「それを止めろっ!! 今すぐにっ」


「言われなくても、もう終わったよ」


 マウスから指を離す。投稿が承認され、掲示板の画面が更新される。俺の書き込みがトップに表示された。


「あー、やっぱ何もねーじゃん。ちょっとビビッて損したわ」


「……」


「んで、さっきから声荒げてどうした? その甘そうなフルーツタルトは俺のだからな。やらんぞ。指一本触れるんじゃァないぞ」


 そう言って画面をそのままに、フルーツタルトを食べようと回転椅子を回し、影姫の方へ向き直る。

 目に入った影姫の表情は硬く、俺の方を見ていない。どうやら背後のパソコンディスプレイに目を凝らしているようだ。


「どうしたよ、変な顔して。そんな珍しいものでも見えてんのか?」


 そう言いながらフルーツタルトを手に取ろうと立ち上がったその時だった。


 ビュルルルルル!! と、部屋では馴染みのない異様な音が耳に届く。


 背後から聞こえたその音は、何かが飛び出したようなものだった。慌てて影姫から視線を移すと、巨大な触手のような不気味な物体が視界に飛び込んできた。


「え??」


「卓磨! そのまま後ろに下がれ!! 伏せろっ!」


 後ろに下がれと言われても、それは難しい。椅子の後ろにはパソコンデスクがあるため、これ以上は下がれない。となると、伏せるしかないか。


 影姫の叫びが響いた瞬間、目の前にどす黒い赤色に染まった嫌なものが飛び出してきた。それは、ゲームで見るミミズやワーム系のクリーチャーに似ている。

 触手の先には鋭い爪が生え、俺に向かってその先端を向けている。爪先からは微かに血の臭いが漂い、背筋を凍らせた。


 その触手を視線でたどると、背後から回り込んできたように見える。

 止まった爪の先を辿ると、手の平が横に見え、その中心には目玉が付いている。ギョロリと俺の顔を覗き込んでいる。


「えっ? な、何……」


 その手の平の目と俺の目が合った瞬間、何かが起きた。

 俺の目を狙って、触手が爪を突き出し襲いかかってきた。

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