表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
613/613

5-99-1.エピローグ

 あれから数日が経った。

 新たな屍霊が出現したという話はない。少しずつではあるが、以前の日常が戻り始めている。

 七瀬や本忠も、警察に口止めをされているのか学園であの件についての話をする事は一切無かった。


 だが、世間は違った。今まで未解決となっていた事件の幾つかの真犯人が判明し、その犯人の日記やノートパソコンから事件の全貌が明らかになったからだ。毎日毎日、新たな情報が公開される度に飽きる事も無くその件についての報道がなされていく。

 屍霊の関わっている部分はうまく捻じ曲げられて話が作られ、目玉狩り事件も、首切り事件も全ては一人の男の犯行という事になっていた。ネットでも「世紀のシリアルキラーがこの国で爆誕した」等と盛り上がりを見せている。

 プライベートであまり人付き合いが無くアリバイも取れない九条に対し、都合よしとばかりに罪が被せられていった。死人に口無しという奴だ。

 だが、そんな中公開されない情報もある。九条も両親を殺された被害者であるという事が。

 そんな真実を知る俺を含めた人達は、素直に九条を全ての根源である絶対悪として見ることは出来なかった。


「何をしているんだ」


 いそいそと少ない荷物の整理をしている影姫。何処まで本当の事か分からないが、どうやら母さんが使っていた空き部屋の予定とやらが無くなったとの事で、影姫はそちらの部屋に移動するらしい。そんな中、手伝いもせずに部屋でボーっと伊刈と鴫野の遺品を眺める俺に影姫が声をかけてきた。

 最近の影姫はどこか以前と雰囲気ふんいきが違う。何がどうこうと言うと俺にもはっきりとは分からないのだが、どこか俺を見る目が少し優しくなったような気がするのだ。


「え、ああ……別に何って事は」


 あれから何度か二人の遺品を元に月紅石の能力発現を試してみた。

 あの時発現させる事が出来た〝奇刀・目玉狩り〟や〝紅衣ノ篭手〟は発現させる事は出来た。ただし、一つずつでしか出せない。その上、あの時ほど俺自身に力がみなぎると言った感じもしない。

 そして、二人の声ももちろん聞こえない。父さんの日記に書かれていたように、記憶から武具を発現させるだけの能力に収まったのだ。


「……二人は死者だったのだ。この世に留まっている方がおかしい存在。在るべき場所へ帰っただけだ。少しは寂しくなるかも知れんが……もう会う事もないだろう。死後の御霊の平安を祈ってやれ」


「ああ、まぁ……うん。そうだな」


 寂しい、とかそう言う感情はないのだが、別れがあまりに突然で、あっという間に終わってしまったので、胸になにかモヤモヤっとしたものが残っていただけだ。パッと気の効いた言葉の一つも思い浮かばなかった俺も悪いのだが、何か一つくらいは声をかけて別れたかった。


「……静磨も、昔その武具で屍霊と交戦していた。それぞれの武具にそれぞれ特有の能力があるし、消えていった屍霊達の想いもある。今後、どう使うかは卓磨次第だ。石や能力に飲み込まれんように体と精神の鍛錬も怠るなよ」


 影姫はそう言うと押入れに敷いてあった布団をたたみ始めた。


 ……って、ちょっと待てよ。

 何気ない会話の中に引っかかる事があった。

 影姫が父さんの名を口にし、屍霊武具に関しても何かを知っているような口ぶり。


「影姫、父さんの事思い出したのか?」


 以前は父さんの事を思い出そうとするだけでも少し辛そうにしていたというのに。

 俺のかけた言葉に布団をたたむ手を止めると此方に振り向く。


「ん? 言ってなかったか?」


「一言も聞いてないぞ。すごい重要な事だと思うんだが……」


「千太郎には言ったんだがな。忘れていたみたいだな」


 影姫は何一つ悪びれる素振りなく、済ました顔をして畳んだ布団を持ち上げ部屋を出て行ってしまった。

 雰囲気ふんいきが変わったと感じた原因はこれか。

 胸につかえていたものが少し取れ、大きく息を吐いて身を倒し床に寝転ぶ。


 見慣れた天井。いくつか傷跡が見える。初めて屍霊に襲われた時に付いた傷だ。それを見るとあの時の事を思い出す。あの時は何も出来なかった。だが、今は違う。俺には戦う事が出来る武器が手の内にある。


 これからは影姫ばかりに頼っていく訳にはいかない。自分でも戦っていかないといけないのだ。そう思うと気が引き締まる……というより、そう考えると不安しかなかった。今回の一連の事件では何とか命は取りとめたものの、今後はどうなるか分からない。


「お兄ちゃーん!!」


 ドタドタという足音と共に妹の怒号が聞こえる。


「冷蔵庫に入れてあった私の『たけのこの村はちみつプリン味』食べたでしょ!! あれ期間限定でもう売ってないのに!」


「……悪いが俺はキノコ派だ。たけのこを口にするなんてとてもじゃないが……」


 食べた気はするが、気のせいだろう。そう言いつつゴロリと転がり背を向ける。


「嘘こけぇ! この汚物っ!」


 怒声と共に背中を思い切り蹴られた。痛い。

 そして聞こえてくる影姫の「やれやれ」という呟き。


 痛い。痛いのだが、こんな平和がずっと続けばいいのにな。


 END

第一部「死人達の記憶と刀の少女」は、これにて終了となります。

2019年の6月6日が初投稿となっておりますので、おおよそ2年弱といった所でしょうか。

(途中何ヶ月か諸事情で更新止まっておりましたが)

初めて書き始めた小説でしたので至らぬ所も多く、表現方法のボキャブラリーの無さが目立つのは承知しておりますが、最後まで何とか書けてよかったです。最終的には百万字を超えたというのもありますが、それ以上に完結できたという事に驚きでした。


第二部「白鞘家の一族」からは別のNコードで書こうと思っておりますので、もしまだお付き合いいただける方がいらっしゃいましたら宜しくお願い致します。


しばらくは第一部の見直し・修正・添削や挿絵やキャラ画像の追加等も行っていこうと思っておりますので、第二部の更新は遅めになると思います。画像の追加の更新履歴に関しては活動報告で行っていく予定です。


第二部第六章は予定通り「生人形・死人形」で書いていく予定です。

第四章の舞台となった火徒潟町における白鞘家のドロドロとしたなんかあれです。

陣野卓磨君はしばらくメイン視点としてはお休みになります。影姫も出てきません。

時系列としては第一部の前年となり、霧雨学園オカルト研究部夏の合宿の面々は白鞘家の事件にどう巻き込まれていくのか。第一部であまり目立たなかったキャラが前に出てくる感じです。


評価やブクマなど、何かしら反応お願いしますm(__)m


第二部のNコードは N2132GX となります。


重ね重ね、ここまで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ