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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-42-11.別れ【陣野卓磨】

 目を開くと、俺の涙に呼応するように、二体の屍霊の目からも涙が溢れるのが目に入った。

、口から嗚咽が漏れ、全身を震わせている。


「ア……アアアアァァァァ……」

「ウウウ……」


 お互いを見つめる二体の屍霊。

 隙間男のドロドロな巨大な体が崩れ中から一人の男性が、メリーさんは乗っていた巨大なスイカが崩れ上に乗っていた少女が地へと降り立つ。二人の魂が模った生前の姿なのだろうか。少し透明がかった二人は元に戻ったお互いの姿を見ている。


〝芽依理……芽依理……!〟


 涙ながらに男性が屈みこみ少女を抱きしめる。


〝ごめんな、一緒にいてやれなくて、ごめんな、助けてやれなくて……〟


 娘を抱きしめながら悔いるように呟く父親。

 茅原清太と茅原芽依理。屍霊となった二人が、ハンカチに残された僅かな記憶で自分を取り戻したのだ。


〝おとう、さん……お父さん……っ! うっ……うわああああああん! 怖かったの! 痛かったの!〟


 父の言葉にしまいこんでいた感情が溢れ出したのか、娘が大声で泣き始めた。そんな娘を父親がより強く抱きしめる。


〝もう……もう大丈夫だからな。一緒に、いこう……母さんもきっと待ってる……〟


 そういい芽依理から身を離すと、立ち上がり此方を向く。そして一礼すると、芽依理の方もそれを見て涙を拭いながら此方に小さく一礼をした。

 手を繋ぐ二人。足元から小さな光の粒子となって消えていく。九条によって引き裂かれた親子が再開し、共に天へと昇って行く。


〝ありがとう〟

〝ありがとー!〟


 最後に聞こえてきた二人の言葉に、屍霊の時のような淀みは一切無かった。


 ………………。

 …………。

 ……。


 そして、蓮美達も駆けつけてきて今の状況である。

 残されたのは九条が潰された残骸だけ。


「卓磨、この先は私達の仕事じゃない……後の事は七瀬に任せよう」


「簡単に言ってくれるな。まぁ、そうなんだがよ……どう説明すりゃいいんだか」


 影姫の言葉に七瀬刑事も一歩前に出て肉塊となった九条を見て一つ頷く。だが、その顔はなんともやり切れないという表情をしていた。

 全ての元凶となった犯人たる人物は、罪に対する罰を受ける事無く逝ってしまった。

 様々な事件の大まかな内容は記憶で見たが、詳細が明かされることはもうない。


「じゃあ、我々はもう引き上げよう。これ以上ここにいるとまた面倒だ。鴫野と伊刈も……」


 影姫がそう言い此方を見ると言葉をそこで止めてしまった。どうしたのかと、自分の横を見ると鴫野と伊刈も、茅原親子と同じ様に足元から小さな光の粒子が漏れ出ている。


「ここで私等は終わりってとこかね。結局何が出来たのかわからなかったけど」


「ね……全ての事件の真犯人が死んで、私達の役目は終わり。その紅い石に引き止められていた私達の魂も解き放たれるって所かな」


 二人は自身の状態を察している様だった。

 俺の手にある月紅石を見つめる伊刈の顔は少し寂しそうであった。

 桐生にも柴島先生にも二人がいる事は伝えなかった。二人とも現世に対する未練がまだまだあったのだろう。それを押し殺して俺に付き合ってくれていたのだ。


〝短い間だったけど、色々知れてなんかスッキリした。あんがとね〟


 鴫野の体がみるみるうちに光の粒子となり立ち昇り消えていく。


〝もう会う事はないと思うけど、たまには思い出してね……〟


 伊刈もまた同じ様に消えていった。


「ああ、ありがとう……またな」


 気の利いた言葉の一つもかけてやることは出来なかった。自分の頭の悪さに少し腹が立つ。

 出会いも別れも突然だった二人。短い間だったが、濃い内容の時間だった。そんな消え行く二人を見て、影姫も珍しく寂しそうな顔をしていた。


「蓮美さん、日和坂さんの月紅石、ありました。やはり盗られてましたね」


 立和田が肉塊の中からキラリと光る指輪を拾い上げ蓮美の元へ持って来た。


「あーやっぱり。怪しいと思ってたのよねぇ。じゃ、これでウチは任務完了ってとこかね」


 そう言い仮面を外し肉塊の方を見つめる蓮美。


「まぁ、色々素質はあったんだろうけどね。性格捻じ曲がったサイコパスじゃ遅かれ早かれこうなってたわよ。じゃ、いつまでもしけたつらしてないで私達は帰るとしましょ。後は、影姫の言う通りそこの刑事さんに任せてね」


「おいおい、勘弁してくれよ……俺一人でどう説明すりゃいいんだ……誰か手伝ってくれてもいいんじゃないか」


 そうぐったり肩を落とす七瀬刑事。すると、背後の森の中から一つ声が響いてきた。


「仕方ないですねー! 私が刑事さんにお付き合いしてあげましょうっ。はっはっは」


 そう言って片手を上げつつにこやかに出てきたのは、麦藁帽子を被った白髪の女性だった。どこかで見たその姿の横には、これまた見た事のある人影が二人。同じクラスの七瀬と本忠だった。

 二人は神妙な面持ちで辺りを見回している。こんな所で何をしていたのだろうか。そして七瀬菜々奈は父親の姿をそこに見つけると、声をかけて駆け寄り泣き出してしまった。


「ゲッ……白鞘……何でこんな所に……」


 蓮美はその女性を見るや否や、とたんに嫌そうな顔をして立和田に「行くよっ」っと声をかけて足早に行ってしまった。

 他の或谷組組員も、眼鏡の男性がかけた声により皆がその場を後にした。


 蓮美に先に帰られては、俺の帰る手段がなくなってしまう。そう思い、俺も七瀬刑事に「後は頼みます」と一言声をかけて、厳しい顔つきの七瀬刑事を背に、影姫と共に蓮美達を追いかけた。

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