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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-42-10.ハンカチ【陣野卓磨】

 鈍い音を立てて地面に落ちる九条の頭部。それに隙間男の大きな握り拳が振り下ろされ、叩き潰された。

 地面に叩きつけられて虚しく飛び散る隙間男の緑色の肉片。同時に飛び散る九条の頭であったモノ。


「……」


 隙間男もメリーさんも、自分達が真に復讐すべき相手を殺し、動きが止まってしまった。

 九条であった肉塊を挟んで静止する二体の屍霊は言葉を発する事もない。


 主たる目的を殺した屍霊は暴走する。

 影姫の言葉を思い出した。


 どうするべきだ。俺がこのまま屍霊武具で屍霊にとどめを刺すべきなのだろうか。

 そうしなければ、また新しい被害者が出てしまうかもしれない。


「じ、卓磨君、どうするんだ、アレ……君のその、それでやれるのか?」


 七瀬刑事の声が聞こえてきたが、俺にもどうしていいのか分からなかった。

 周りにいる人間に襲いかかる気配は感じられないが、このまま放って置くわけにも行かない。


「卓磨、大丈夫かっ!」


 俺がどうしていいか分からず固まっていると、背後から聞きなれた声が聞こえてきた。

 振り返ると木々の隙間から駆け出てきた影姫が目に入った。見た所、怪我などはしていなさそうないつもの姿だ。


「あ、ああ、影姫。そっちこそ無事だったのか」


「それよりこれは……一体どういう状況だ」


「それが……」


 俺が影姫の質問に答えようとした時、自身の上着のポケットから暖かな感覚が体に伝わってきた。同時に、屍霊武具となった鴫野と伊刈が元の姿に戻る。二人はゆっくりと立ち上がると、俺のポケットに視線を向けた。


 ポケットに入れていたのは確か、伊刈のスマホと鴫野の腕時計。それと……。


 ゆっくりと手を突っ込みそれ以外に何かあったかを探る。手に触れた感触は柔らかい。それは一枚の布切れだった。

 それを取り出すと、全員の視線が俺の手の中の物に集まった。


「卓磨、それは?」


「天正寺の……ハンカチ、だ」


 そう、俺が天正寺から借りて、その後天正寺が殺されて……。ポケットに突っ込んだままになっていた。色々ありすぎて忘れていた。


「なぜ天正寺のハンカチが不思議な……」


「影姫、覚えてるか。俺等が天正寺に始めて相談された時の事」


「ああ、学校の廊下での事だな」


「そう。そん時、アイツ言ってただろ。スイカが好きだとか言う幼馴染の話」


「……あったな、そんな話も」


 そして、俺がこのハンカチがどういう物かというのを認識した時、一気にハンカチの持つ記憶が頭に流れ込んできた。前にこのハンカチから見た記憶とはまた別のものだ。だが、記憶の量はそれほど多くはない。がこのハンカチと時を共にしたのはごく僅かな間だったのだろう。だが、このハンカチに対する思い入れが伝わってきた。


『ちゃんと洗ってから返しなさいよ。大事な物だから……』


 同時に天正寺の最後の言葉が脳裏に蘇ってきた。そして……。


〝ねぇ、お父さんっ、このハンカチ可愛いよね?〟


〝ああ、いいんじゃないかな〟


〝誕生日のプレゼント、恭ちゃんこれで喜んでくれるかなぁ?〟


〝芽依理の選んだものなら、何でも喜んでくれるさ。親友なんだろ?〟


〝うん、一番仲がいいの! 約束したの。高校も、大学も、ずっとずっと仲良しでいようねって!〟


〝ははは、良かったな、そんなに仲のいい友達が出来て。お父さんも嬉しいよ。じゃあ、それにしようか。レジに持っていこう。とびきり可愛くラッピングしてもらおうな〟


〝うん!〟


 俺がこの記憶を見た事によって意識を失う事はなかった。

 目を瞑ると、普通の親子の二人の笑顔が瞼の裏に浮かんできた。


 それはとてもとても短い記憶。

 俺は意識を失うまでもなくその記憶を聞いた。


 偶然とはいえ、最後に天正寺は俺に鍵となる物を託してくれたのだ。

 ハンカチから伝わってきた記憶を見てそう思うと、自然と涙が出てきた。

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