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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-42-6.もぐら叩き【或谷蓮美】

「グオオオオオっ!!」


 赤い森に轟き響く隙間男の唸り声。

 だがその声は様々な隙間から漏れ出てきており、相手の位置をなかなか掴む事が出来ない。


「ドオオッせいッ!! これで百七十三回目ェ!!」


 木々の隙間から此方に飛び掛ってくる隙間男の手を、立和田がすかさずハンマーで叩き返す。

 さっきから同じことの繰り返しだ。私も紅夜叉の峰で飛び掛ってくる隙間男の大きな手を叩き返してはいるが、その度に相手がまた別の隙間へと逃げていく。


「蓮美さん! 僕の方が叩いてます! 点数は僕の方が上ですね!」


「バカッ! 今何やってると思ってんのよ! もぐらたたき大会してんじゃないのよッ!」


 隙間男が隠れている間は少しの気配も感じられない。出てくる一瞬の間に居場所を察知して叩き返さねばならない。斬っても飛び散り再生するだけで全然ダメージを与えられないからだ。かと言って、叩いた所で相手にダメージが蓄積されている様にも見えない。まるで効いていないのだ。

 このままでは此方の体力だけが削られ疲弊して、いずれはやられてしまう。何度か見えた相手の巨体からしてパワー系かと思ったがそうでもない。とても素早く小ざかしい。反して此方は私も立和田もどちらかと言うとパワー系だ。相性がすごぶる悪い気がしてきた。


「す、すいません。でも、二人でこれだけ月紅石の武器で叩けば相手だって……!」


 返す言葉も見つからない。立和田は心の底から頭が悪いらしい。相手の状態を全然見れていない。


 どこか……あのグチャグチャな体のどこかに屍霊の核となる部分があるはずだ。そこを叩けば相手にダメージを与えれるはず。しかし、その場所が全く分からない。どこかの部分に包まれているのだろうが、体がスライムのようにグチャグチャになっている為に場所が特定できないでいる。


「立和田、アンタのハンマーの方が広範囲を叩けるんだから、もっとしっかり狙って叩きなさいっ」


「蓮美さん、僕だって狙っているんですが、相手が速過ぎて……。これでも精一杯やってるんですって」


 それは分かっているのだが、致命的な一撃をヒットさせられていない状況に苛立ちだけが募っていく。こんなことをしている間にも、この赤い森に閉じ込められたであろう影姫や陣野先輩、それに兄貴もどこかで別の奴と戦っているのだろう。

 正直言って、私よりも戦力が上といえる人物がその中にも思い当たらない。早く隙間男を片付けて加勢に行かねばならないというのに。こんな飛び掛ってくるだけの下級屍霊相手に、二人がかりで手間取るなんて思いもしなかった。


「……!!」


「ぐあおおぎええ!!」


 再び飛び掛ってきた隙間男に紅夜叉の峰をめり込ませる。頭部に直撃するも、まるで粘度のようにひしゃげるだけだ。そして隙間男はその殴られた勢いのまま吹っ飛び、再び木々の隙間に姿を眩ます。


 キリがない。ここはもう、立和田だけ残して私だけでも他の加勢に行くべきなのだろうか。

 とは言っても、この赤い森の変な空気のせいで他の味方が、どちらの方向にいるかの気配すらつかめない。


「蓮美さん、このまま二人で相手しててもキリがありません。まずはこの固有領域を開放する事が先決じゃないでしょうか。見た所この領域はコイツの出してるものじゃなさそうですし、ここは僕一人に任せていただいて……」


 と、その時だった。周りの風景が一変する。赤く染まった景色が元の色へと瞬時に戻ったのだ。同時に辺りを包んでいた嫌な空気も消滅する。

 誰かが今閉じ込められていた領域を発生させていた屍霊を殲滅したのだ。


「蓮美さん、これは!」


「わかってる……」


 市役所での戦いの事を思い出しても、今の状況で周辺にいる自分以外は屍霊を殲滅できないと思っていた。思い上がりだったのかもしれない。皆成長しているのだ。それなのに私ときたら隙間男一匹にこんなに手間取って。


 そんな事を思いつつ武器を構えて次の攻撃に備えていると、突然隙間男の大声が辺りに轟いた。


「うぐおっぐおおおおおおお! オマっ! おまえッラッ! くく……きさまぁアアア! 貴様だっタかアアア!」


 少し離れた場所から聞こえてきた突然聞こえてきた隙間男の声は、今までの単調な決まり文句などではなく、怒りに包まれた叫び声であった。

 声が聞こえてきた方を見ると、隙間男が此方に飛び掛ってくるでもなく徐々にその全体像を現し、あらぬ方向を向いている。


「蓮美さん、何だか様子がおかしいですよ……やるなら今かも」


 立和田もそちらを見て、急に変化を表した相手に少し動揺している。

 確かに、やるなら今かもしれない。だが、先程までビリビリとこちらに伝わってきていた殺気が全く感じられなくなった。まるで今まで閉じ込められていた何かを解き放たれたかのように頭を抱えて苦しんでいる。


「許さん、ユルサンぞォッ!」


 隙間男は上空に向かって雄たけびを上げると、まるで私達など相手にしていなかったかのように、あらぬ方向へと飛んで消えてしまった。


「ど、どうなって……」


 立和田も私も一通り辺りを見回すが、近くに隙間男の気配が全く感じられなくなってしまった。

 先程までの隠れていて感じられないというものではない。近くにいるであろうという屍霊の瘴気すら感じられなくなってしまったのだ。


「わかんない……でも、野放しには出来ない。飛んでいった方、探すよ」


「了解っす」


 急いでその場を駆け出す。見える景色が全て元の暗い森へと戻っている。やったのは影姫か陣野先輩か……。どちらにせよ、このままじゃ屍霊を逃した私が足手まといになってしまう……。

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