表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
605/613

5-42-5.美濃羽壮二郎【霧竜守影姫】

 眼に痛い赤い景色が元に戻ると星空が上空に広がった。


〝我慢の顔みりゃ赤い顔……。

 怖がる顔みりゃ青い顔……。

 死んだ顔見りゃ白い顔……。〟


 何か聞こえる。


〝父ちゃん、薄々は感づいてたんだ……お前が虐められてるんじゃないかって……。ごめんな、生きているうちに助けてやれなくて。


 なぁ、花子……父ちゃん、お前の恨み張らせたかなぁ……。

 父ちゃん、お前の復讐果たせたかなぁ……。


 花子……父ちゃん、父親やらしい事、してやれたかなぁ……〟


 ぼんやりと聞こえてきた美濃羽の声。

 それは今までの美濃羽と違い、穏やかなものであった。


 だが、それに返事する者はいない。最後に頭に響いてきた言葉。赤マントの本体の言葉。それは、今までの言葉と行動の残酷さとは裏腹に、娘を想う父親の優しい心の言葉であった。


 響いて来る心の声。それは奴の本心、奴のみが知る真実なのだろう。厄災の力を得て生前の記憶が戻ったのだろう。だが、それが仇となって私との戦いに迷いを生じさせた部分もあったのかもしれない。

 児童虐殺の殺人犯という事実が変わることはないが、それに人々が作り上げた噂話が真実を多い尽くしてしまったのだろう。本当は悲しい過去を持つ男なのだろう。


 だが、何があっても人を殺してはいけない。それがこの国の法律であると昔聞いた。誰に聞いたか分からない。いつ聞いたかも覚えていない。だが、聴いたという記憶だけは残っている。


 振り返り見ると、赤マントの体が光の粒子となり崩れて消えていく。市役所で首を切り落とした時のような消え方ではない。体の先からボロボロと灰のようになって崩れては光り輝き消えていく。

 そこから溢れ出てくる黒く染まった数々の魂。それもまた色を変え浄化されて天へと登っていく。その中には依代となっていた一色の魂も見えたような気がした。


 地面に転がる美濃羽の仮面に開いた目の穴からは、涙の様に血が流れ落ちていた。


「下手こいたぜ……油断した。完敗だな……。文字通り手も足も出ねぇ。後はこのまま消えるのを待つだけか……」


「美濃羽……壮二郎。あなたは……」


「俺の名……知ってんのか……」


「……」


 正気を取り戻したかのような赤マントの言葉に、ただ黙って頭だけとなったその姿を見つめる。今にも消えそうな目に浮かぶ赤い光は、悲しいものを見るような、哀れなものを見るような、そんな目だった。


「何も、言うなよ……分かってた……。人には……超えちゃいけない一線があるというのは……分かっちゃいたんだ……俺は……天から聞こえてきた声が……救いの神に……聞こえて……それに……甘えちまったんだ……もう、終いだ……全部……全部……」


「厄災に汚染されてたとはいえ、お前は罪もない人を殺しすぎた」


「俺は、そうは思ってねぇな……。罪のない人間なんて存在しねぇ……。少なくとも俺が人間を殺した事によって、救われた奴もいたはずだ。……人を貶め蔑み陥れるような奴は……殺した人の数になんて入りゃしねぇよ……おめぇも分かってんだろ……」


 コイツにもコイツなりの正義が合ったという事か。私も昔、多くの人を殺してきた。私からそれに関してかける言葉はない。


「せいぜい地獄で閻魔に詫びろ」


「……ふふ……地獄にでも、行けりゃいいけどな……はは……はははは……」


「私はお前と長話している暇はない。さっさと消えろ」


「九条を捕らえに行くのか……? それとも茅原親子を殺しに行くのか……? 何で俺の式に茅原親子が選ばれたのか、負けて初めて分かった気がするぜ……ククッ……どっちにしてもオマエラの思い通りにはなりゃしねぇよ……俺が核ダ。俺が中心なんだ。真実は全て、ヤミの……な……」


 赤マントの頭が一気に色をなくし、半分が瞬時に光の粒子となり散会し消えていく。


〝……しかし、自分を知ってる奴が居るってのが、こんなに嬉しいとはねぇ……ククッ……ハハハ……返してやるよ……八尺が奪い、厄災が俺の力に術く与えた貴様等の記憶の一部……この世界で出会った貴様等の大切な人間の記憶の一部……〟


 残りの半分が消えきる前に聞こえてきた美濃羽の声。場に残されたのは、赤マントの使っていた月紅石に酷似した紅く丸い核。少し見ていると、それは一気に黒く変色し圧縮され、黒い立方体へと形を変えた。


 近寄りそれを手に取ると、懐かしい感覚がそこから溢れ出てきた。手に乗せると、黒い立方体にひびが入りそこから光が漏れ出す。そして、圧縮されていたものが一気に解き放たれるかのように中から光の玉が飛び出した。

 紫色の光と緑色の光と黒色の光。三つの光の玉が上空へと駆け上がる。そのうち紫色の光は私の元へと飛んで戻り、胸の中へと入り込んでいった。


「……」


 残る二つの光はそれぞれの主を目指すかのように凄まじい速さでどこかへ飛んでいってしまった。同時に、森を覆っていたドス黒い瘴気が薄れていくのを感じられた。


 色々と思い出す事がある。

 だが、今は思い出に耽っている場合ではない。

 急ごう。卓磨の下へ。

 静磨の忘れ形見の元へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ