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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-41-4.赤マントの怪人【霧竜守影姫】

 辺りを見回すが誰もいない。目に入るのは赤くなった森の景色。

 だが、誰の声かは分からないが遠くから声は聞こえてくる。森の中で屍霊に襲われている人間の声だろう。


 卓磨はすぐ近くにはいないが、そう遠くない場所にいるというのは感じられる。もし私が屍霊に襲われたとしても戦闘に支障がない距離だといいのだが。むしろ、私よりも卓磨が心配だ。あそこにいた四人が全員別の場所に飛ばされたというのなら、私と同じく卓磨も今は一人。伊刈や鴫野の力があるとはいえ、彼女等が卓磨を守りきれるかどうかというのは不安しかない。

 分断した目的はどこにある。それぞれに総攻撃を仕掛けて一人ずつ潰していくつもりか、はたまた、それぞれが誰かを狙い一対一の状態に持ち込むつもりなのか……。

 どちらにせよ……。


「出て来い、いつまで見ているんだ」


 先程からこちらに向けられている殺気。

 私がそう声をかけると、前方の木々の間から一人の人影が姿を現した。

 赤いマントに趣味の悪い髑髏を模った仮面。だが、その姿は以前市役所で見た姿とは違っていた。


「赤マントか」


「ご名答。って見りゃ分かるか? フフッ、テメェにゃ首を斬り落とされた借りがあるからな」


「思ったより復活してくるのが早かったな……それと、斬ったのは私だけではないだろう?」


「テメェを殺したらすぐにあの鬼仮面のガキも殺しに行くさ。テメェ等から出向いてくれるとは探す手間が省けた。そこんところは感謝するぜ?」


 屍霊にしてはいやに饒舌だ。普通の屍霊の様子ではない。市役所で刃を交えた一色正造とは別人物。本体の美濃羽か。会話が成り立っている所を見ると、既に生きている頃の記憶が蘇っていて、思考なども復活していると見える。


 それに、あの手に持っている鎖付きの禍々しい大鎌……。

 もしやアレは……。


「月紅石、か……?」


 私がそう小さく呟くも、相手には聞こえていたようだ。

 赤マントは軽い笑い声とともに息を一つつくと、その大鎌を一振りして見せた。風を切る低い音と共にジャラジャラと鎖がうねりを上げる。巨大な鎖鎌か……。


「同じ石持ちには分かるのか? まぁ、そうだ。どうも、一部の……屍霊つったか? お前らの呼び方じゃ。一部の屍霊は体内で生成されるみてぇだな。厄災に聞いたぞ。月紅石の成り立ちを知っているお前なら理解できるだろ?」


「記憶にないな。何にせよ、月紅石持ちの厄災級屍霊など野放しにはしておけんな。覚悟しろ」


 そう言い腕から刀を飛び出させ構えると、赤マントが動きを止める。

 そして、人差し指を此方に指して来た。


「なぁ、お前よ。……お前だ。殺す前に一つ聞きたい事がある」


「殺すとは言ってくれるな。その言葉そっくりそのままそちらに返してやる。此方から貴様に聞きたいことなど何一つないがな」


「はっ、大した自信だな」


 赤マントの仮面から覗く赤い光を放つ目が此方を見つめる。

 屍霊如きが私に何を問おうと言うのだろうか。


 訪れる静寂。木々のざわめく音すら聞こえてこない。

 この隙に先手を打ち一撃でも相手に加えておくべきか、或いは……。

 しかし相手の武器の間合いがまだ掴めていない。始めて見る月紅石の能力に迂闊に飛び込むのも危険だ。

 そう考えているうちに赤マントが口を開き始めた。髑髏を模った仮面の顎が動くと、漆黒に包まれる口内からドス黒い吐息が漏れ出す。


「お前、何で人間の手助けをするんだ? お前、人間じゃないだろう? 俺には分かるぜ? お前の手も、心も、全てが血に塗れているのが俺には分かる。お前は俺等の同類だ」


「失礼な奴だな……確かに、今は純粋な人間ではないかもしれない。だが、自分は人間であると思っている。貴様の様な薄汚い奴と同類にされるとは心外だな」


「俺はな、テメェに首を飛ばされた事に怒りを感じてんじゃねぇんだ。ヒトじゃない存在がなぜゴミみたいな人間どもの味方をするのかって事に怒りを感じるんだよ。あの鬼仮面のガキもそうだ。アイツも僅かに違うにおいがする。なぜ人間に味方する」


「愚問だな。貴様ら屍霊の方が自然の摂理に反した薄汚いゴミだからだ。それ以上の答えが……あるか」


 そんな自分の言葉に一瞬フラッシュバックする消えていたはずの幼い頃の記憶。だが、それも本当に一瞬ですぐに消えてしまう。残るのはバケモノ、蛇、妖怪……人あらざる怪異は全て敵だという思念だけ。私を造り上げた翁が託してくれた想いだけ。


「残念だな。もしかしたらぁ―――よぉ、分かり合えてお仲間になれるかも知れねぇなとも思ったんだがよ。クククッ。ほら、人間って好きだろ? 話し合いだのなんだのの平和的解決ってやつがよ」


 赤マントはそう言うと、何の予備動作もなく鎖の先についた鉄球を此方へと飛ばしてきた。

 それを、両手から伸びる刀を交差させ受け止めいなす。なかなかの重量ではあったが、これくらいなら刀が折れることもないだろう。刀の強度からして卓磨もそう遠くない場所にいることも分かった。


「ククッ、四人がかりで依代状態の俺の首を駆るのがやっとだったテメェが、一人で俺を殺れるかな? 見た所その腕から生えてる刀は月紅石の能力でもないんだろ? 内に秘めた本当の力も出さねぇで、俺も舐められたもんだな」


 至極真っ当な意見ではある。が、出さないのではない。出せないのだ。それを相手に悟らせるわけには行かない。

 今は相手も私が力を隠し持っていると慎重になっているようだが、出せないとバレれば一気に攻め入られるだろう。ここはなんとか防戦中心に時間を稼ぎ、蓮美か卓磨が合流してくれるのを待つしかないかもしれない。


「ククッ、お仲間さんを待っても無駄だぜ? それぞれ皆、相手がいるからなぁ……」


 私の心を見透かしたような赤マントの視線にすごく苛立ちを感じた。

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