5-41-3.メリーさん【或谷岳彦】
「はっ……やってくれるな」
うじゃうじゃうじゃうじゃと見るのも汚らわしい。低く唸る耳障りな声が煩わしい。動く死体の山。前を見ても後ろを見ても、右を見ても左を見ても死体人形の姿。
「嵌めようとしたら嵌められたって所か。苛つくな。九条が余計な入れ知恵してやがるのか、それとも……」
死体人形共の向こうに、死体人形とは違う影が見える。そいつは他の死体人形とは頭の位置が違う。巨大な何かに乗って浮いている。恐らくアレが霊力屍霊……警察署長の言っていたメリーさんか。写真に映っていた姿と影も似ている。
「アソボー、お人形さん遊びシヨー?」
何が遊ぼうだ。こちらに向けられたガキの鬱陶しい声がここまで聞こえてくる。
「坂爪、蓮美達は到着しているのか?」
「分かりません。GPSが反応していない上に通信電波が切れています。屍霊の固有空間に取り込まれたようですね」
「ちっ……何の為に親父の目を盗んで月紅石を渡しておいたのか分からんな。まぁ、相手がこういう状態に持って来たって事は、恐らく到着しているんだろう。相手もさっきまでの状態じゃ太刀打ちできないと判断して……しかし数が多いな。他の組員はもう殺られたのか?」
「それも分かりません。ただ、数からして死体人形はここら周辺に集中していると思われます。まずは組の攻撃の要となる数の戦力と結界師を潰そうとしているのではないでしょうか」
「となると、面倒だが他の援護は期待できないか。人の目はないし、殺るしかないな。坂爪、準備しろ」
「了解しました」
そう言い坂爪は闇を束縛する聖なる鎖を解除し俺の方に近寄ってくる。そして俺の手を握ると、体から黒いオーラのようなモノが流れ始めた。
「穿多のジジイも実戦データをかなり急かして来ていたからな。人工刀人の初実戦には丁度いいだろう。折れるなよ?」
「御意に」
その言葉と共に一振りの刀へと姿を変える坂爪。黒く美しいオーラが溢れ出す半生物の刀。手に持つだけで此方にまでその力が伝わってきて、自身にも力が溢れ出して来るのが分かる。この状態ならば、いざと言う時の為に鬼の力は温存できるだろう。
ガキの相手をするまでに力尽きるなんて事は流石にあってはならない。
「おおおおおおぉぉぉ! ああう!」
坂爪の刀化に何かを感じ取ったのか、死体人形どもの動きが早くなった。
数体の死体人形が襲い来る。
「なかなかに気分がいいものだな。刀人を遣うというのは」
刀人坂爪を一振りすると、その剣閃でいとも簡単に死体人形の体が引き裂かれる。
そんな俺の刀に気がついたのか、メリーさんが不気味な笑い声を漏らしながら少しずつ此方に近づいてきているのが分かった。今の今まで死体人形の陰に隠れてほくそえんでいたクソガキがやっと前に出てきたか。
「今、あなたの目の前にいるのぉ~……」
「さて、性根のクソ悪い娘にはお仕置きが必要だな」
右手に刀人坂爪、左手に愛刀である屍切市丸。さて、どういう戦い方をしていこうか。楽しみで仕方がない。




