5-36-3.[5-17-4]工作【美濃羽壮二郎】
「また派手にやってくれたな……」
目の前に広がる光景。二人の人間が者から物へなった姿。
標的は御厨明乃だけだったというのに、契約者からはあまり屍霊の存在を思わせるような行動はなるべく控えてくれと言われているのにこの有様だ。
興奮冷めやらぬ二体の屍霊が、逃げた警官達を追いたそうに体を震わせながら俺の方を見ている。警察内では隙間男、メリーさんと呼ばれているらしい。
「消えろ。呼ぶまで出てくるな……」
俺がそう言うと二体は何を言う事もなくスッと姿を消した。
二人の名は茅原清太と茅原芽依理というらしい。親子だ。二人とも俺の契約者である九条春人が殺した人間だ。
厄災がそそのかして屍霊に仕立て上げた。だが、だからこそだ。九条が殺した二人だからこそ、契約をした俺が使役できるのかもしれない。
だが、茅原芽依理の方はある程度言う事を聞くものの、茅原清太は放って置くといつの間にか人を殺している。よほど警察官への恨みが強いようだ。
「さて、どうしたものか……。少しでも撹乱材料を作っておくか」
そう思い目に入る窓を叩き割る。知らない人間からしたらここから逃げたようにも見えるだろう。
とは言っても、遺体を見れば一目瞭然だ。女の死体はともかく、男の体は頭を残して残りは挽肉だ。ほんの少しの時間稼ぎにしかならないだろう。時間稼ぎというより、一応体裁は取ったと言う九条への言い訳の為に窓を割ったのかもしれない。
一色との精神リンクで、俺も九条と契約している状態になっている。だから九条のいう事はある程度聞かないといけない。面倒臭くはあるが、新たに手に入れ三体の屍霊の使役はすごく面白くおかしいものである。
……。
だが、物になった人間の死体を見ていると思う事がある。血で染められた自分の赤いマントを見ていると思う事がある。力を得る度に自身に戻る記憶の中で、自分自身との葛藤や厄災との乖離が大きくなって来ているのが感じて取れるようになってきた。
聞こえてくる厄災の言葉のままに、ただ単に〝赤マントの怪人〟として世間で暗躍していた頃の記憶は薄っすらとしか残っていない。だが、思うのだ。俺はなぜ、未だに人を殺し続けているんだ、と。
最早、俺の復讐は当の昔に終わっている。俺は娘を自殺へ追いやったクソガキどもを皆殺しに出来れば十分なはずだった。だが、今は喋った事も見た事もない人間を大勢殺している。そんな事をしても、娘を失って心に大きく開いた穴が塞がるなんて事は無いというのに。
この、一色正造という男の体を依代としたのも原因の一端を担っているのかもしれない。俺と同じ様に家族を殺された男だ。だが、俺とは違う感情を多少なりとも持っている。今は眠っている一色の感情、それが俺を惑わせているのかもしれない。
俺はここで何をしているんだ。
俺は何の為に未だにここに存在しているんだ。
俺はこれから何をしたいんだ。
俺は今現在の世間では異常性癖者として語り継がれているらしい。被害者の親共が真実を捻じ曲げて伝えてきたのだろう。確かに、子供を多く殺したのは間違いない。だが……。
俺が今この世に存在していると言う事が知れたら、世間はどう思うのだろうか。




