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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-35-6.刑事達の怒り【陣野卓磨】

 俺が署内で見た記憶の全てを話し終えると、捜査一課内は再び静まり返っていた。

 課長も七瀬刑事も、鬼塚も他の刑事も表情が暗い。中には感情を抑えきれずに手を震わせている者もいる。


「つーことはよ……」


 最初に口を開いたのは七瀬刑事だった。


「つーことはだな、アイツは事件の真相を色々と知りながら、右往左往走り回る俺達を見て心の中であざ笑ってたって事か? 俺達に見せてた姿は全部演技だったってのか!?」


 ギリギリと握り締められた七瀬刑事の拳が、震えている。そして、何処を見つめるでもないその視線からも怒りが伝わってくる。

 だが、俺がその問いに答えることは出来ない。答える事が出来るのは九条ただ一人である。だが、その本人もこの場にはおらず、今は連絡が全く取れないという状態である。


「大した役者だぜ……九年前の児童連続殺害事件も、目玉狩り事件も、首切り事件も……貴駒峠の遺骨発見も全部知ってたって事かよ!!」


 七瀬刑事の声が室内に響き渡る。


「そう言われれば、あの貴駒峠の小屋の発見の時、九条の様子が少しおかしかった気もするな」


「あのヤロウ……」


 影姫の言葉に七瀬刑事が更に怒りを強めたようだ。

 怒りをぶつける対象がなく、握る拳を何とか堪えていると言う状況だ。


「最初から屍霊に関して知っていたとは思えんが、幾つかの事件で九条が裏で糸を引いていたのは間違いがないな。そして、署に来る前に卓磨から聞いた話だと、貴駒峠に頻発していた事故に関しても少し関わっている。蘇我啓太郎に貴駒峠でスピードを出すようにけしかけたのは九条だという事だ。そのせいで蘇我啓太郎と柏木鶴ゑが死亡したと言っても過言ではないな」


 影姫が七瀬刑事の発言に補足を入れるように話をした。

 それを聞いて七瀬刑事の怒りが更に増していった様だった。無理もない。蘇我啓太郎は七瀬刑事の事を慕っていたし、七瀬刑事は九条と二人で行動していた事が多かったからだ。うちに来る時も、いつも九条と二人で行動していた。


「クソが……あの野郎……」


「屍霊の発生自体は九条が関係しているとは思えんし、九条が最初から屍霊を知っていたとも思えんが、タイミングが悪かったな……」


 そうだ。タイミングが……。伊刈が自殺したのと、影姫が現れたのがほぼ同時期だ。伊刈の屍霊化から全てが始まってしまっている。影姫のせいだと言う訳ではないが、すごくタイミングが悪かった。


 そしてまた少しの沈黙。室内の空気がとても悪くなっているのが分かる。それは九条さんに対する感情から出る物だけではない。


「七瀬さん、本当に……本当にこんな子の言う事を全部信じてるんですかっ!?」


 静寂を破り口を開いたのは鬼塚だった。何人かの他の刑事も、鬼塚に同調するように七瀬刑事の方を見ている。


「私、課長から色々聞きましたけど未だに信じられません! それに、確かに九条さんは少し変わった人ではありましたけど、そんな……人殺しをするような人じゃ……本人がいないことをいい事に、この子達が適当な嘘をついて……」


 鬼塚の視線がこちらに向けられる。怒り、悲しみ、不安、不信感。色々な感情が織り交ざったような顔をしている。そんな相手の顔を見て俺はなんと言っていいのかが分からなかった。

 何を考えているのかは分からないが、影姫も鬼塚の言葉を聞いて黙ってしまっている。


「鬼塚、俺はな、俺だって今までこういう特別な力を持った人間なんてものは宗教的で信じるに値しないと思ってたさ。だがな、彼等を信じるに値する様な経験を、最近何度もしてるんだよ……聞いただけで信じられないとかそう言うレベルの事象じゃないんだ。今、彼が説明してくれた事は……残念ながら真実なんだ。俺はそう思う」


「七瀬さん、いくらなんでも彼等の言う事を一から百まで信じろってのはあまりにも、その……無理があるんじゃないか?」


 鬼塚の隣から顔を覗かせていた船井も、俺に少し目線を向けつつ七瀬刑事に問いかける。


「船井、俺だって九条を信じてやりたい気持ちはまだ心のどこかにあるさ。でも、それ以上に彼等への信頼の方が大きいんだ。まだ短い付き合いではあるが、今はな……」


 七瀬刑事のその言葉を聞いて、鬼塚も船井も黙ってしまった。部屋にいる誰もが、どうしていいか分からずに戸惑い止まってしまっている。そんな中、課長が口を開いた。


「……よし、鬼塚。もう遅いから彼等を自宅へ送っていってやってくれ。後は警察の仕事だ。彼等を危険に巻き込む訳にはいかんからな」


「で、でも……」


「でもも何もない。俺は七瀬と同感だ。九条の言い訳を聞くまでは、彼等の言う事を一通り信じる事にする。今回の相手はだ。これ以上彼等に手を借りる事はない」


「わかりました……」


 人間だけ……。


 そう思い影姫を見ると、影姫と目があった。影姫もどこか解せないという顔をしている。


 本当に人間だけなのだろうか。九条の復讐なのだとしたらおかしい点が多々ある。天正寺一家や沢渡麗子の事故の目撃者を殺したのがどれも屍霊である可能性が極めて高いという事だ。偶然なのだろうか。

 あの監察医のメモ書きの事もある。考えられないが、九条が屍霊と手を組んでいるという可能性が頭に浮かんでくる。

 嫌な予感がする。本当にこのまま帰ってもいいのだろうか……。

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