表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
572/613

5-35-5.轢き逃げ事故について【陣野卓磨】

「七瀬、陣野君の話を聞く前に見せておきたいものがある。他の奴等にはもう見せたんだが……」


 捜査一課に戻り、ふらつく俺が九条の椅子に腰掛けると、課長が一枚の紙を七瀬刑事に手渡した。


「尾田山隆二、真壁茜、瀬下誠、御厨明乃……と、伊刈亮太に伊刈幸子、ですか。前半は今回の損壊持ち去りの被害者ですね……伊刈ってのは確か、何ヶ月か前に自宅で自殺してた……」


「そいつらの共通点が見つかった」


「えっ!?」


 課長の言葉に七瀬刑事が小さく驚きの声を上げる。


「監察医のメモ書きがあっただろう。あれを見た時、何か記憶に引っかかるものを感じたんだ。それで、思い出した。最後に書かれていた沢渡麗子という名前だ。交通総務に確認したのだが、思い出せば芋づる式に思い出すもんだな。調べたら出て来た。そこに書かれている人物はその沢渡麗子が交通事故遭った時に目撃者とされていた人物達の名だ」


 そう言われて表情が固くなり言葉を失う七瀬刑事。その視線はただただ渡された紙を見つめている。七瀬刑事が何を考えているか、少し分かる気がする。

 沢渡麗子は九条の母親だ。その母親の死の目撃者であろうとされていた人物が、軒並み殺されている。となると、出てくる答えはただ一つである。


 復讐。


 ただその一言。


「昔、柳川に聞いた事も思い出した。こいつ等、事故当初の現場では好意的に聴取に協力していたらしいんだが、翌日以降になって証言を百八十度ひっくり返しやがったらしいんだ」


「それって……」


「うむ。最初に車の色は黒といっていたのに白と言ったり、運転手は男だといっていたのに女だったと言い出したり、実はナンバーを覚えていたのは上二桁だけで後は適当だと言い出したり。挙句、自分は見ていないなどと言い出す始末で困っていると言っていたとのことだった」


「しかし課長、証言者の証言がなくても物的証拠である程度は……」


「なぜか、なぜかだ。タイヤ痕や残された破片だけでは特定が困難になっていた。だから目撃情報だけが頼りだっただけに、捜査は困難を極めた。裏で轢き逃げ犯に金を回されたのかも知れんな。それに、署内に犯人との内通者がいたというのも見て取れる」


 そう言われると思い出す事がある。リサイクルショップで見た記憶の事だ。

 俺ははっきりとは覚えていないが伊刈に聞いた内容だと、伊刈夫妻が戦邊と過去の金の話をしていたと聞いた。もしかして、その話とはこの事故に関する裏金の話なのではないだろうか。


「金を回したって……この人数を黙らせるほどの大金を準備できるような人物って」


 七瀬刑事の言葉に課長が頷きながら話を続ける。

 俺にもその人物が予想できた。天正寺明憲だ。戦邊夫妻と伊刈夫妻の対面の場面を見て取れたのは伊刈の虐め隠蔽の為の裏金。という事は、前の沢渡麗子轢逃げに関しても天正寺明憲が関わっていると考えられる。


「それと後もう一つだ。門宮署から連絡が入った。天正寺の家で天正寺恭子の母親である天正寺かほりの遺体が見つかったそうだ。これで天正寺家は一家全員死亡だ」


 課長の淡々と続く話に、場が静まり返る。


「……沢渡麗子の事故当時、轢き逃げ犯の目星はある程度つけていた。当事与党のやり手地方議員として注目されていた奴だ。だが、証拠が出ずに逮捕できなかった。当の車も早々と外国へ売り飛ばしてやがったんだ。しかも足がつかない様に裏のルートでな。七瀬、俺が何を言いたいのか分かるか」


「天正寺明憲が……沢渡麗子を轢き殺した……って事ですか……」


「そうだ、そうなるな。だが、当事も今も確たる証拠がない。だから、あくまで推測の域に留める事しか出来んがな。しかし、最近起きている一連の事件の被害者からみて、明らかに過去に起きたその交通事故が関係していると思わざるを得ない」


 そう。そうだ。最近起きている一連の事件だけじゃない。目玉狩り事件も、首切り事件も……様々な事件が関係している。そうとしか思えない。


「それと当事、門宮署の捜査一課にいた沢渡という刑事が、数少ない証拠物件を元にその交通事故の真相を独自に追っている時に、不審な死を遂げた。天正寺の腰巾着だった飯塚と宮﨑が裏から手を回して何らかの関与しているという所までは突き止めた様だったが……」


「その刑事って……」


「そうだ。名前を聞いて分かる通り、沢渡麗子の夫だ。そして、その沢渡麗子の旧姓が……」


 九条。


 そうだ。九条。さっき証拠物件管理室で俺達もその結論に至った。

 九条春人の母親の事故死、そして父親の不審死。

 いや、不審死なんかじゃない。今の話からすると、明らかに天正寺明憲がスキャンダルを恐れて、何らかの手を尽くして殺害したのだろう。天正寺の虐めの事件に関しての伊刈夫妻の口封じから考えても、九条の父親殺害にも戦邊を使ったのかもしれない。


 そして、沢渡の件以外にも、鴫野静香や蘇我啓太郎の記憶の件もある。これまで俺が出会ってきた屍霊が全て九条春人に繋がっている。そして、絡む事件の関係者やその家族が大勢死んでいる。


 早く皆に、俺が見た記憶の全てを伝えなければ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ