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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-35-4.沢渡麗子について【陣野卓磨】

『沢渡麗子?』


「ああ、沢渡麗子だ。十年から二十年前くらいに、そう言う名の教師が霧雨学園にいたはずだ。何か変わった事があったか覚えてないか」


『えらく大雑把な期間ね。どうだったかしら……』


 少しの沈黙の後に、『あっ』という何かを思い出した理事長の声が聞こえてきた。


『あまり記憶に強く残っている人物ではないけど……確か、交通事故で亡くなったと言うのは報告を受けていたと思うわ。それ以外は特段強く覚えている事はないわね』


 どうやら、霧雨学園の沢渡という女教師は沢渡麗子で間違いないようだ。

 だが、理事長の言った事は俺が記憶で見た事と同じだ。それ以外の情報が欲しい。何かないのだろうか。影姫も同じ事を思ったのか、少しムッとした顔になり理事長に問い詰める。


「おい、中頭。沢渡という人物が教師として確かに学園にいたというのなら、何か資料があるだろう。お前の記憶だけじゃ当てにならん。長く生き過ぎて古ぼけた記憶は適当になっているだろう」


『失礼ね……。私は貴女と違ってそんなに忘れっぽくはないわ……』


「どうだか」


『まぁ、いいわ。私の所には着任時の履歴書くらいしか残ってないわよ。勤務態度とか軽い懲罰は校長に任せているから……それに、そんなに前だと学園側に保管されている書類はもう破棄されているかもしれないわね。保管期限の過ぎている物をいつまでも残して面倒事に巻き込まれるのを避けたい人も多いから……』


「……わかった、履歴書だ。それでもいい。今は少しでも情報が欲しいんだ。その履歴書の内容に何か気になる所がないか見てくれないか」


 影姫の頼みに、スマホの向こうから小さい溜息が聞こえてきたような気がした。


『全く、人の一時の安らぎの時間を邪魔して、こんな業務外の時間に人を働かせるなんて労働基準法違反よ?』


「お前に人の法律など……っ!」


『……仕方ないわねちょっと待ってて』


「あっ!」


 影姫の返事を待つこともなく、スマホの向こうからスマホを置く音が聞こえてきた。

 特に保留のメロディーが流れることもなく、無音の時間が続く。


「いちいちスマホを置いて行かんでもいいだろうにっ!」


 相手のいないスマホに向かって影姫が怒鳴り散らしていた。そんな姿を見て苦笑するその他一同。

 まぁ、どの道スマホを持って行ったとしても手が塞がっていては書類が探しにくいだろう。

 影姫はそこまで気が回らないのか、イライラとしつつ自身のスマホの画面を眺めている。


 ……。


 理事長が場を離れてから何分経っただろうか。影姫のスマホを見つめる七瀬刑事と鬼塚。

 影姫も募る苛立ちが隠せないのか、せわしなく足をパタパタと動かしている。

 しばらくするとスマホの向こうから声が聞こえてきた。


『ごめんなさい、遅くなって。森之宮さんがいればもっと早く見つけられたんだけど……』


「何をしていたんだ。執務室は寝室の隣だろう。十分以上かかっていたぞ」


『ごめんなさいって謝ってるでしょ。まったく……相変わらず短気なんだから。短気は損気って言葉を知らないのかしら』


「知らんわこっちの世界の諺など! それよりどうだったんだ、履歴書は見つかったのか!?」


『そうそう、沢渡麗子だったわね』


「そうだっ」


『五十音順にちゃんと並べてあったんだけど見つからなくて……それで思い出したのよ。彼女確か、在任中に結婚して苗字が変わってて。で旧姓が……えーっと、九条ね、九条麗子。それ以外は特段気になる様な記載はないけれど……経歴も大学を卒業してからすぐのウチへの着任だし、賞罰も特に……写真でも撮って送る?』


 それを聞いて場にいた四人が皆目を合わせた。皆同じ事を思っているだろう。

 この沢渡麗子と言う女性、恐らく九条春人の血縁者だ。


「わかった、中頭、ありがとう。じゃあまた何かあったら電話する」


『え、あ、ちょ、写真はどうす……』


 影姫の素っ気無い返事に慌てる理事長の声が聞こえてきたが、理事長の返事を待たずに通話を切る影姫。そして何かを思い出したかのように七瀬刑事のほうに顔を向けた。


「七瀬、確か九条の両親は中学の頃に亡くなったと言っていたな」


「ああ、んで、母方の祖母の方に……あ、そうか……それで……。って事は、この沢渡麗子は九条の母親かっ」


「卓磨の見た記憶の時期からしても丁度そのくらいだな。とりあえず、捜査一課の部屋に戻ろう。まだ聞いていない、卓磨が見た九条の私物の記憶を整理して説明してもらう必要がある。」


 そう言ってこちらに向き頷く影姫。

 もうこの部屋から俺に対して黒い負の感情が流れてくる事はなかった。どうやら屋上の鍵で能力を使う精神力的なものを使い果たしてしまったのだろう。だが、連続して記憶を見たせいか、まだ気分は少し優れない。


 気分が優れないなどそんな事を言っている場合ではない。まだ判明していない情報はありそうだが、バラバラになっていた線がどんどんと繋がっていっている気がする。


 そして、捜査一課に戻り、他の刑事もいる場所で全てを説明する事になった。

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