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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-33-8.警察手帳の記憶③【陣野卓磨】

「なるほど。何処の誰だかわからない仔犬ちゃんが我々の事を嗅ぎ回っているとは聞いていたが、まさか警察の方だったとはね」


 次に見えてきた映像。どこだか分からないが、部屋の感じからしてどこかのホテルの一室の様であった。

 そして聞こえてきた声。聞き覚えのある声だ。


「でも、一人で調べ上げて私達の居所ややっている事を掴むなんて、なかなかやり手ね。警察なんて辞めて探偵にでもなった方がいいんじゃないかしら。そしたら私達の方で雇いたいくらいだわ。フフッ」


 九条の向かいに腰掛ける中年の男女。つい先日、あさぎり公園で見た奴等。戦邊夫妻だ。


「で、逮捕状もなしに我々を捕まえにでも来たのかい? まさか、呪い云々で捕まるなんて思ってもいなかったねぇ。なぁ、弧乃羽。ハハハッ」


「全くだわ。警察も暇になったものね。世間じゃ怠慢だのなんだの散々叩かれてるくせに。フフッ」


 そう言う二人は、警察官を前に全く動じる様子がない。それを聞いて九条は手を横に振り、笑顔を二人に向けた。


「いえいえ、僕がお二人を訪ねてきたのはそういう事ではなくてですね、依頼主としてですよ。依頼主として。誰かの紹介がないと依頼はおろか会う事すら難しいって聞いたもので、仕方なくなんとか自力で探したんです。情報屋の葬間さんまで辿り着くまではかなり苦労しましたが……」


「ほう、葬間に聞いたのか。あいつが情報を売るとなると、君にもある程度の信用があるという事になるな」


 ソウマ……見た事のある名だ。ただ、俺の想像している人物かどうかははっきりとは分からない。


「で、警察の方が我々に依頼ですと。我々が何を生業としているかは、もちろんご存知なんでしょうな?」


「ええ、それはもちろん……ただ……」


「ただ?」


 九条の言葉に眉をひそめ疑問を呈す戦邊夫。

 手に持つ奇妙な箱を撫でつつ九条の方を見つめている。


「今回僕が来たのは、呪殺ではなく、記憶を消して欲しいのが何人かいるだけでして」


「記憶、とな……」


 戦邊夫がどこか解せない顔で弧乃羽の方に視線を移す。弧乃羽にとっても、予想外の受け答えが返ってきたのか、少し驚いている様であった。

 しかし、そんな様子も束の間。弧乃羽は指輪の付いた手を少し持ち上げると、目を細め九条の方を向いて何やら小声で呟き始めた。それを見て少し表情を緩める戦邊夫。


「そこまで調べ上げているとは少し驚きましたな。しかし……記憶を消すくらいなら、呪殺でやってしまった方が早いのではないかと思いますがね。記憶の消去云々は我々の仕事の料金表には載ってませんし……仮にやるとしても、規定外の事ですからお高くつきますよ」


「いえいえ、流石に殺すだなんてそんな……」


「よく言うわね、どの口がそんな台詞を吐けるのかしら」


 『殺す』を否定しようとした九条の言葉を、弧乃羽が遮る。九条もそれがどういう意味かを理解しているのか、ただ弧乃羽の方に視線を向けただけだった。


「茅原芽依理、茅原清太、車谷進太郎……強く見えてきたのはこの三人だけど、この他にも何人かいるわね。間接的にならもっと大勢」


 それを聞いて戦邊夫が楽しそうに笑みをこぼした。


「はっはっは、面白いじゃないか。その名前、聞いた覚えがあるぞ。確か霧雨門宮広域の児童連続殺害事件の関係者の名前だな。となると、君がその事件の真犯人か? こりゃあすごい。しかもその殺人鬼が人殺しを拒否して殺し屋に記憶の消去を依頼するなんて。何か理由がおありなんですかな?」


「僕だってむやみやたらと殺してるわけじゃないんですよ。気分が乗らない時は特にね……」


「復讐といった所かしら? 大切な人が死んでから、あまり幸せな生活は送って来れなかった様ね」


 弧乃羽の言葉に九条の表情が少し曇る。自身の頭の中を覗かれた事に苛立っているのか、九条の冷たい視線が戦邊へと向けられる。だが、戦邊はそんな事もお構い無しに漏れる笑顔を緩めようとはしない。


「いい、いいね。何だか私は気分がいい。まるで心に引っかかったもやもやが晴れていくような気分だ。世間で大騒ぎになった、誰も知りえない事件の真犯人を我々は今、知ってしまったのだから。誰も知らない事をを知っていると言う事がこれほどまでに自身の心に優越感を与えてくれるとは。弧乃羽、受けてやろうじゃぁないか」


「私は気分が乗らないわね」


「そう言ってやるなよ弧乃羽。それに彼は警察官だ。万が一、何かあった時に助けになってるかもしれないだろう?」


「それはそうだけど……で、とりあえず一応聞いておくけど、記憶を消して欲しいって誰の記憶を消すのかしら。あと、高くつくという事に関しては覚悟できるのかしら?」


 戦邊夫の推しにやれやれといった感じで九条に視線を向けつつ溜息を付く弧乃羽。


「受けてくれるんですか?」


「話を聞いてからね。面倒臭い相手だったら嫌だし」


「いやいや、普通の一般人ですよ。ちょっと性格が悪いくらいの、何の変哲もない一般の女子高生とOL。それと、お金の心配は要りません。貴女が覗いた大切な大切な両親が残してくれたお金も、こういう時の為にとってありますから。で、記憶を消して欲しいのはですね……」


 九条がそう言いつつ三枚の写真を取り出す。写っているのは御厨と洲崎と大貫だった。


「とりあえずはこの三人から僕に関する記憶を……で、一つ気になる事があるんですけど」


「何ですかな?」


「記憶を消しちゃった場合って、その失った部分はどうなるんですかね」


 その質問をうけ、弧乃羽が少し考えてから口を開く。


「はっきりとは言えないけど、大体の場合は辻褄が合うようにそれぞれの脳が勝手に記憶を改竄して繋げるみたいね。複数人となると……それぞれの作られた記憶に齟齬が生じて混乱が起こる場合もあるけど、大体はどちらかが折れて新しい記憶が作られていくわ。そして次第に嘘が当人達の真実になる」


「なるほど、それを聞いて安心しました。彼女等には僕の記憶をなくしてもまだ続けて欲しいことがあるので……」


 そこまで見ると、景色が遠のき周りから白く濁っていく。俺が見れるのはここまでの様だ。


 そして、今の会話内容と先程の喫茶店の会話から、伊刈の虐めがどういう経緯で始められたかというのがはっきりと分かった。それとあの虐め事件に関してなぜ九条の名前が御厨や洲崎から出てこなかったのかも。

 そして、鴫野に関する情報もだ。


 後残る謎は、どうして九条がそうなるように仕向けたかという理由だけだ……。『復讐』という言葉が出てきたが、一体誰の復讐なんだろうか。


 そして、なぜ伊刈と鴫野だけが屍霊という壁を越えて呼び出せるようになったのかが分かった様な気がした。


 ◇◇◇◇◇◇

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