5-33-6.警察手帳の記憶①【陣野卓磨】
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「どう?」
「チョロいチョロいっ。ここの店員ボーっとしてるからね。あいつしかいない時を狙や百パーいけるって」
御厨と洲崎だ。ということは、先程まで見ていた記憶とは違い、そう遠くない過去の記憶。
二人はコンビニの店内でコソコソと何かを話している。よく見ると、二人でうまいこと死角を作り隠しながら、店の商品を鞄の中に突っ込んでいる。そして、めぼしい商品を二、三個突っ込むと、そそくさと足早に入り口へと向かう。
しかし、店を出てその場を立ち去ろうとする二人に背後から声をかける人物が現れた。
「ちょっといいかな君達。カバンの中身を見せてほしいんだけど」
九条だ。
「んだよおっさん」
「聞こえなかったかな? カバンの中だよカバンの中」
睨む御厨と洲崎に、一切動じる事がない九条。そして、九条はやれやれといった感じで内ポケットから手帳を取り出すと二人にそれを開いて見せた。
「僕、こういう者なんだけど、君達のやったことチョーっと見逃せなくてね」
それを見て顔色が変わる御厨と洲崎。
万引きの瞬間を九条に見つかったのだ。
「げっ、緑、逃げ……」
「おっと、そうはいかないね」
手帳を見て咄嗟に逃げようとした洲崎だったが、そんな事はお見通しとばかりに九条に腕を捕まれてしまった。御厨はというと、手帳を見せられて相当焦ったのか動けずに固まっている。
「あっ、離っ……! 離せよっ!」
「ちょっと騒がれると困るなぁ」
「私達が何をしたって言うのよ! 離しなさいよ変態!」
洲崎と九条の問答を見て割れを取り戻したのか、御厨も九条に言葉を投げかける。
悪いのは万引きをした二人の方なのに怖いものだ。
腕を振り暴れる洲崎に、あくまでシラを切ろうとする御厨。そんな二人を見て、少し困り顔の九条。
「うーん、じゃあこうしよう。ちょっと僕に付き合ってくれないかな」
そんな九条の言葉に、二人の表情に不信感が募っていく。
「お願い事聞いてくれたら見なかったことにしてあげるからさぁ。どの道、監視カメラを調べたら君等逃げられないよ?」
「……お、お願い?」
九条の提案を聞いて、二人は顔を合わせると大人しくなってしまった。
心の内では逃げられないという事を悟り覚悟していたのであろう。
九条は二人が逃げられないように御厨と洲崎の生徒手帳を一時的に預かり、自身の手帳に色々と書き写している。そして、道路を挟んで向かいにある喫茶店へと入っていった。




