5-33-4.壊れたスマホの記憶②【陣野卓磨】
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今度は、どこかの公衆電話。九条は自分のスマホを片手に誰かに電話をかけている。
スマホの画面には小学生くらいの子供が胸から血を流し倒れている写真が写っており、九条はそれを見つめながら笑みを浮かべている。
「これが最初で最後の電話だからよく聞いてよ」
『お、お前誰なんだ! 孫をどうした!?』
「さっき言った日時に、郵便桶に入れておいた写真の男女が、さっき言った場所の付近にいるから、男の方を轢き殺して。そうしたらお孫さんは返してあげるから。間に合わなかったら……どうなるかわかるよね。意地でも探し出してね」
『何を……! そんな事できる訳ないだろう! 殺りたきゃ自分で勝手に殺りゃいいだろう! ワシ等を巻き込むな! 警察に……』
「そんな事をしたらどうなるか分かってるよね? まぁ、警察に通報した所で僕は捕まるなんてヘマはしないけどさ。先の短いアンタの未来か、まだまだ先の長い子供の命か、どっちが大事だかそれくらいわかるよね」
『……っ!』
「出来る出来ないじゃないんだよ、やるしかない。アンタはね。まぁ、孫が死んでもいいって言うのならやらなくてもいいけどね。クック……」
『く、クソが……終わったら孫は……孫は返してくれるんだろうな!?』
「嘘はつかないよ。飯塚幸一さん」
『じゃ、じゃあ孫の声を……』
そこで九条が受話器を耳元から放す。
「あーあ、引き伸ばそうとするから、お金切れちゃった。ま、返してあげるよ。生死はご希望に添えれるか分からないけどね」
そういい残し電話ボックスを後にする九条。
飯塚幸一……。どこかで聞いた名前だ。確か、両面鬼人に殺された門宮市議は飯塚幸夫だったから少し違う……。
そうだ、思い出した。前にネットの動画で見た事がある。柴島先生の友達の小路さんが轢かれて亡くなった事故の被疑者の名前が確か……。
これってまさか……流れからして話に出てきた男女って柴島先生と小路の事なんじゃ……。だとしたら、この事故ってアクセルブレーキの踏み間違えとかじゃなくて、意図的に仕組まれた……。
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また場面が変わる。いくつの映像を見せられるのだろうか。それだけこのスマホが九条と過ごしてきた時間が長いという事なのだろうが、こんな事は初めてだ。
九条がスマホカメラを向ける先には中学生くらいの少年が両手両足を縛られ転がっている。
「そうか、君が最近騒がれてる放火の犯人か。受験で精神やられるのも分かるけど、やっちゃいけない事があるのはわかるよね」
「……」
「鴫野の家に……呪いの家に火つけたのも君かな?」
「ち、違う、僕は放火なんか……」
「否定は出来ないよ。僕は君が商店街の理髪店に火をつけるところを見たからね。自分勝手な理由から思い出の詰まった家を焼き落とそうなんてよくないな……君はいない方がいい。そう、その存在は消えてしまった方が世の為になる」
九条の手に持たれたナイフが少年の胸に近づけられる。ナイフがギリギリの所で止められ、少年がそれを見て恐怖に怯えている。
「い、嫌だ! 助けて! 刺さないでっ!」
「無理だね。もう、君は僕の顔を見ちゃったし。ククッ。ふふふ」
「ゆ、許してっ! もうしない! 絶対にしないから!!」
「駄目だね。君はこの世に必要のない存在だ」
「だ、誰か! 助けて! 助けてぇ!!」
「無駄だよ。ここは人里はなれた森の中だからね」
「お願いします、何でもいうこと聞きます、許してください、許して……」
助けを請う少年の言葉に、九条からの返事はない。
ナイフがじわじわと少年の左胸に吸い込まれていく。同時に、衣服に赤い染みが広がっていく。
少年の顔が、みるみるうちに絶望の色に染まっていく。
「ああああ……ああああああっ、ああああああああああああ!! いや、やだあああ!」
少年の断末魔の叫びが辺りに響き渡った。
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