5-33-1.来客【陣野卓磨】
「どうした血相を変えて。折り返しの電話がないと思ったら直接出向いてくるとはな」
部屋で九条さんの事を聞くべく七瀬刑事からの電話を待っていたら来客があった。
それはまさに、電話を待っていた七瀬刑事本人だった。
「急ぎなんで迎えに来た。君らがなぜ九条にこだわっていたのかが気になっていた。それから九条が生きている事が判明した」
「それは本当か。電話では死んでいる可能性の方が高いと……」
その報に少し安心すると共に、問わねばならない質問がある事で少し複雑な気持ちになった。
俺としては、前に貴駒で九条さんと二人で会話した印象として、とてもそんな事をする人だとは思えなかったからだ。
七瀬刑事はそんな俺を一瞥すると、影姫に向き直り話を続けた。
「詳しい事は後で説明する。とりあえず、卓磨君に一連の事件のの遺留品と……九条の私物の記憶を見てもらいたい。証拠物件を勝手に持ち出すわけにもいかんからな……。だから迎えに来たんだ」
七瀬刑事が真剣な目つきでこちらに視線を向けた。七瀬刑事には記憶を見る能力の事は話していないと思ったのだが……九条さんから聞いたのだろうか。
「事件の遺留品はともかく、何で九条さんの私物を?」
「これを見ろ。九条の部屋で見つかった遺体を診た監察医からの報告だ」
七瀬刑事が差し出してきた一枚の紙。影姫がそれを受け取り一通り目を通す。
「これは……」
俺も横からその紙を覗きこみ少し読んだが、そこに記されていたのは普通の医者が見て得られるような情報ではなかった。この医者は明らかに屍霊の存在を認識している。しかも、何かしらの特別な能力を持っているように感じ取れた。
「九条の部屋で見つかった遺体から、その藤林とか言う医師が抜き取った情報らしい。考えたくはないんだが……あくまで俺の見解だが、それを見た限りでは九条が殺った様に読み取れる。しかも、屍霊と手を組んでだ。そうなると最近起きている一連の事件も……」
七瀬刑事のその話を聞いて改めて影姫が持つ紙を覗きこむと、一番下にその名前が記載されていた。
藤林啓子……。知っている名前だ。確か、霧雨学園高等部保健室勤務をしている養護教諭の名前と同じだ。七瀬刑事は監察医と言っているが、偶然の同姓同名なのだろうか。しかし、下部に書いてある連絡先も霧雨学園になっているし……。
「屍霊と手を組んで……? 人間がか? 何の能力もなしに?」
影姫が七瀬刑事の言葉に疑問を呈す。
俺も伊刈と鴫野に助けてもらっているので屍霊と手を組んでと言われればそうなのだが、それは月紅石の能力があっての事だ。九条さんは月紅石も持っていなければ何か特殊な能力があるということも聞いた事がない。
屍霊と対峙している立場にあって、俺や影姫も自身の能力は七瀬刑事や九条さんには伝えている。勿論、全てを伝えている訳ではないが、もし九条さんもそういった能力があるのだとしたら俺達に伝えてくれていてもいいものだと思う。
「あくまで俺の勘だ。今は何の証拠もない。だから、それを確かめる為に卓磨君に来てもらいたいんだ。物の記憶から何かしらの情報を得られるかも知れん。俺としては少しでも九条を信じたいという気持ちもあるんだがな……」
そう言う七瀬刑事の顔が少し暗くなる。信じたいとは口で言っても、それを覆すことは困難な状況にはなっているのだろう。
俺達もそうだ。伊刈や鴫野に関する新たな記憶を見てしまったのだ。
「卓磨、行けるか?」
影姫が手に持つ紙を七瀬刑事に返しながらこちらに顔を向けた。
「ああ、俺は大丈夫だけど……俺達が警察に行って、そんな遺留品とか触って大丈夫なんですか?」
「それは俺から説明して、他の奴等は何とかするから。とりあえず来れるなら急いでくれ」
「わかりました」
そして俺と影姫は七瀬刑事の乗ってきた車に乗り込み、霧雨警察へ向かうこととなった。




