5-30-3.鴫野の怒り【陣野卓磨】
数秒の沈黙。俺も影姫も、鴫野の方を見てはいるが、怒りで肩を震わせている姿を見て、声をかける事が出来ない。
影姫は何の事か分からないだろうから当然だろうが、俺はどちらかと言うと、なんて声をかけていいのか分からないといった感じだ。
「卓磨、何を見たんだ」
事情を掴めない影姫が、こちらに向き直り小声で聞いてきた。
「あ、ああ……」
そして、見た記憶の内容を大まかに説明する。俺の説明を聞いて考えに耽る影姫。そして、鴫野が俯いたまま口を開き始めた。表情は伺えないが、まだ冷静になった様には見えない。
「あの写真、私見た事ある……お母さんに見せられた。何の手紙も添えられずにあの写真だけ入ってたって聞いた……。何? 九条君があの手紙をウチの郵便桶に入れたって事? あいつが、うちの家族をバラバラにしたって事……? 何の為に? でも、クソ親父は否定してた……誰もいないところで否定してた……」
怒りが収まらない鴫野は、そう呟きながら小刻みに何度も拳をテーブルに軽く叩き付けている。
記憶を見る前の明るい姿は、もう見る陰もなかった。
「鴫野、私達はこれから、ある刑事をツテに九条と連絡を取るつもりだ」
「……」
「伊刈の件もあるし、聞く事が増えたな。ここまで屍霊になった人間と屍霊になった原因に関わっているのは偶然とは思えん。それに今の話だと、首無しライダー……蘇我啓太郎の死にも関わっているんじゃないのか。だとしたらターボババアに成った柏木鶴ゑが死亡したのも、九条が大元の原因という事になる」
そうなのだ。最後に聞こえてきた蘇我との会話。意識が戻る前ではっきりと全部聞き取れた訳ではないが、九条さんの発言が元で、蘇我が貴駒峠でスピードを出したと考える事も出来る。考えを深めていくと、伊刈の両親が屍霊になったのも、伊刈が自殺した事が起因となっている。
そうなると、目玉狩り、赤いチャンチャンコ、赤い部屋、両面鬼人、首無しライダー、ターボババアの全てが九条さんに繋がってくる。
もしかして、赤マントや、今出現しているメリーさんや隙間男ももしかして……。
そうなると、九条さんを問い質すと言う事は、今起きている事件を解決に導く糸口になるかもしれない。
「何の為に九条君はウチにそんな事を……? そんな事したって、九条君にメリットなんか何も……」
「鴫野に心当たりはないのか?」
影姫のその問いに鴫野は少し表情を曇らす。だが、それ以上口を開く事は無かった。
「影姫、すぐに七瀬刑事に連絡を……」
「わかっている」
影姫は既にスマホを耳にあてて七瀬刑事を呼び出しているようであった。
そして繋がる電話。九条さんにアポをとれないか確認をする影姫。
しかし、返ってきた返事は耳を疑う返答であった。
『九条は……死んだ。今朝方、九条のマンションで隙間男に殺られた遺体が発見された……』




