5-30-1.写真立ての記憶①【陣野卓磨】
家に帰り自室にいる。ローテーブルを囲むのは俺と影姫、そして鴫野。
鴫野は写真でしっかりと確認してか等呼び出した為、写真当事の姿格好となっていた。
「いやー、やっぱこっちの方が喋りやすいし動きやすいねっ。屍霊の格好だと指の刃物が特に邪魔で邪魔で」
その事に鴫野もニコニコと自分の体を見回している。
当事の女子の制服は胸のリボンにブローチは付いていなかったようだ。リボンの結び目には何もない。
「で、卓磨。その写真立ての記憶を見るという事は、九条に確認を取る事よりも急ぐことなのか? 伊刈も早く九条の思惑と本心を早く知りたいだろうに」
「それは見てみないと何ともわからねーよ。まぁ、伊刈にはスマンと思うけど……でもさ、何かすごい胸騒ぎがして。先に見ておいた方がいいんじゃないかと思うんだ」
手に持つ写真立てを見ていると、胸がざわざわとしてくる。
「懐かしいね、それ。どっから引っ張り出してきたのさ。まだ部室に会ったの?」
鴫野が写真を覗き込んで来た。
鴫野は伊刈の件を知らないせいか、どこかのほほんとしている。
「いや、柴島先生が持ってて……それでちょっと手に取った時に、いつもの感覚があったから、借りてきたんだ。流石に職員室で記憶を見る訳にもいかなかったからな」
「ふーん、柴島がねぇ……そんなに物を大切にする印象は無かったけどな」
身を乗り出し写真を覗き込む鴫野の視線はどこか懐かしげであった。だが、そんな懐かしさで思い出に耽っている時間はない。
「で、今度は何を見せてくれるの? 私を呼び出してから見るって事は、私に関係している事なんだよね。まさかこの間みたいな……」
「俺も何が見えるかは分からないよ。とりあずこの写真に鴫野も映ってるから一緒に見た方がいいかなって思っただけで」
「ふーん」
素っ気無い返事をする鴫野を横目に、俺は取り急ぎ、目を瞑ると手に持った写真立てに意識を集中する。
すると、次第に引き込まれるように、閉じた目の内側が白んでいき過去の映像の記憶が徐々に見え始めた。
◇◇◇◇◇◇
見えてきたのはオカルト研究部の部室。今よりも物は少ない様で棚や本棚も小奇麗に整頓されている。
そこにいるのは二人の男性。二人とも見覚えがある。九条さんと、もう一人は……蘇我啓太郎。啓太郎は他校の制服を着ているが、九条さんは学園の制服を着ている。恐らく、今から十数年前の記憶だろう。
「え、蘇我さんその写真消しちゃうんすか?」
「ああ、やっぱりよ、いくら金がねぇっつってもさ、こういう事をしようとすると、俺を真っ当な道に戻してくれた刑事さんの顔が頭に浮かぶわけよ。そしたらなんつーか、思いとどまっちまうっつーかね」
部室には他の生徒はいないが、二人はスマホに映された一つの写真を見ながら何やらコソコソと密談をしている。今の俺の視点は九条さんの後ろからなので、蘇我のスマホの画面はよく見えない。
「しかし、よくこんなオッサンが有名企業の偉いさんってわかりましたね」
「偶然だよ偶然。前にチラッと動画で見た事あったんだ。それが日も暮れた時間にラブホから若い女と一緒に出てくるなんて一つしかねぇだろ?」
「なるほど、それをネタに奥さんにバラサレタクナカッタラって事っすか……」
何だこの話……まるで前に見た記憶の……。
「そうそう。でもよ、刑事さんの事もあるけど、こんなオッサンにも家族がいると考えると、優しい俺としては思い留まっちまった訳よ。んでな……」
蘇我がそこまで言いかけると、部室のドアの開く音がした。
「あっ! 九条! また勝手に他校の生徒を部室に入れて!」
ドアの方を見ると、部屋に訪れたのは鴫野だった。
部屋にいた二人を見るなり、ずかずかと部屋の中に入り込んできた。
「あ、あれー? 今日部活休みなのになんで鴫野が……」
「忘れ物取りに来たのよ! また部活の共同研究だのなんだの言って嘘ついて校舎に入れたんでしょ!」
鴫野の言った事はどうやら図星の様で、九条さんは苦笑いをしている。蘇我はというと、素知らぬ顔で窓の外を眺めつつ鴫野の方を見ようとしない。
どうやら何度か面識はあるようで、鴫野の事が苦手といった感じだ。
「そうだっ!」
と、蘇我が何かを思い出したかのように勢いよく立ち上がった。
「俺、トイレに行きたかったんだ!」
蘇我はそう言うと、目の前に立ちふさがる鴫野を押しのけ部室を出て行ってしまった。
部屋には呆然と見送る九条さんと、呆れた様な顔で廊下の方を見る鴫野だけが残された。




