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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-15-2.持つべきは親友【陣野卓磨】

最終更新日:2025/3/14

 弁当を食べるために辿り着いた場所。そこは屋上へ続く扉が構える踊り場だ。

 今は誰もおらず、冷え切った空気と薄暗さもあってか、昼休みだというのに奇妙な静けさを醸し出している。


 昨年、俺はここで友惟、二階堂、三島と共に四人で集まって昼食を取っていた。

 ほぼ物置状態だが、使われていない机や椅子などが放置されており、便利と言えば便利な場所だ。さらに言うと、階段を降りたすぐ横にトイレもあるため、その点も便利だった。


 だが、伊刈の件があってからは、ここに近寄らなくなった。俺たちだけでなく他の生徒もだ。春休みを挟んだこともあり、ここに来るのは久しぶりだった。


 辺りを見回して誰もいないことを確認し、踊り場手前の階段に腰掛ける。ここなら一人で食べていても誰にも見られないだろう。しかし、見つかればなんとも寂しい姿になる。誰にも見つからないことを祈るしかない。


 そして、今度こそ弁当を……!

 高鳴る期待と急かすように鳴る腹を抑えつつ、弁当の包み袋を解き、蓋に手をかける。ついに二年に進級して初の弁当のご尊顔を拝む時が来た。いかなるおかずが俺を出迎えてくれるというのか。


 だが、蓋を開けようとしたその瞬間だった。


「うーっす、やっぱここにいたか」


 前を見ると、友惟ともただが弁当を手に持って立っていた。横には霙月みつきもおり、彼女もまた弁当を持っている。


「あれ? 二人ともどうした。霙月は七瀬さん達と食べるんじゃなかったのか?」


 突然かけられた声に驚き、思わず蓋から手を放してしまう。蓋は元の位置に戻り、中身の確認ができなかった。


「俺も教室で食べようとしてたんだけどさー。突然霙月が来てな、『卓磨たっくんが教室を追い出されて可哀想だから、どこ行ったか心当たりないか』っつってな」


 そう言って友惟は霙月の方を親指で指差す。横にいる霙月は、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「そうなのか。気にする事ないのに。俺は飯さえ食えればどこでもいいから。今はスマホという文明の利器があるんだ。一人でも寂しくない」


「だって、二階堂君や三島君とも喧嘩してるみたいだったし……」


 霙月がボソッと呟いた。見られていたのか。あの時目が合ったし、隣の席なのだから当然気づくだろう。


「てっきり二階堂達に追い出されたのかと思ったらよ、女子に囲まれて追い出されたっつーじゃねーか。情けねぇなー」


「んで、二人して来たわけか」


 持つべきものは幼馴染だ。こいつらが幼馴染でよかった。正直、春先とはいえ、こんな冷え切った場所で一人もくもくと一心不乱に食べるのは寂しすぎると感じていた。


「しかし、この場所もアレだな。あんな事があってから人っ子一人近寄らなくなったな。前は若干場所の取り合いみたいな事もあったのに」


 友惟と霙月が階段を上がってきた。俺もスペースを空けるために立ち上がる。


「私はここに来たことないから何か新鮮かな。新鮮って言っても複雑な気分だけど……」


 踊り場に三人が集まった。昔は三人でよく遊んだものだが、中学に上がってからは部活や委員会などで霙月が抜けることが多くなった。こうして三人並んで何かを食べるなんて、いったい何年ぶりだろうか。とても懐かしく感じる。


「まぁ、そりゃそうだろ」


 友惟が後ろに構える冷たい鉄の扉を見る。扉に備えられた丸棒貫抜まるぼうかんぬきは、真新しい南京錠なんきんじょうと鎖で固く閉ざされている。


 あの日、どうやって伊刈がここを出たのかは未だに謎のままだった。

 職員室にあった鍵を誰かが持ち出したとしても、その犯人が分からない。なぜなら、伊刈が飛び降りた後、ここの南京錠は施錠されており、鍵はその後紛失したままなのだ。

 伊刈が鍵を持ち出したのなら、錠は開いていたはずだ。閉まっていたということは、他の誰かが伊刈を外に追い出したということになる。

 謎とは言うが、誰もがその犯人はコイツであろうという人物を頭に浮かべている。しかし、確証が取れない今、それを口に出す者はいない。


 それに、しばらくここの鍵は使われていなかったため、職員室の鍵棚にあったかどうかを覚えている教師もいなかった。当然、その日の伊刈の所持品にもここの鍵はなかったそうだ。


 今かかっている南京錠は新しいもので、鍵に加えて時間のかかるダイヤル式になっていた。鍵を手に入れてもすぐには開けられないようにするためだろう。

 伊刈の自殺後、現場検証のためにこじ開けた後の断ち切られた古い鎖と南京錠は、横の机の上に乱雑に置かれて放置されている。


「この鍵を持ってる奴が事の真相を知っている! ……んだろうけど、さすがにもう捨ててるよな」


 そう言って、机の上に置かれている古い方の南京錠を手に取った。小さいながらもズシリとした重みが手に伝わってくる。


「そうだねー。結局見つからなかったらしいし、校内にはもうないかもね。ひょっとしたら見つかるのを恐れて犯人がまだ持っているーってことも考えられるかもだし」


 霙月が俺の手にある南京錠を見ながらそう言った。

 繋がっている鎖ごとジャラジャラと持ち上げると、さらに重みが感じられる。思ったより重く、早く手放して机の上に戻そうと思ったその瞬間だった。

 不意に視界がぼんやりと白みがかり、まるで目の周りに白い煙が立ちこめるように視界が狭まっていく。


 あの時と同じだ。

 あの時? どの時だ。

 そう、刀。刀だ。昨日、俺は居間で見た刀を……。


 視界が狭まり、足の力が抜けると足元がふらつく。

 俺はふらついた拍子に、鉄の扉に勢いよく頭をぶつけてしまった。

 だが、意識が遠のいているせいか、痛みはさほど感じなかった。そのまま力なくずり落ち、膝をつく俺の体。まるで自分の体が自分のものでないみたいだ。一体どうなってしまったんだ。


「お、おい、卓磨!」


卓磨たっくん!? 大丈夫!?」


 二人の声が聞こえる。

 いや、聞こえているようで聞こえていない感覚。

 徐々に俺を呼ぶ二人の声が遠ざかり、現実を見る視界が一気に消えていった。

 そして、家で刀を手にした時と同じように、目の前に映像が流れ込んできた……。


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