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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-29-7.伊刈と九条②【伊刈早苗】

 私は刑事の車に乗せられ近くの公園へと連れて来られた。

 到着したのは、私の住んでいるマンションからも近いあさぎり公園という公園。そこで私と刑事はベンチに肩を並べて座っている。刑事の名前は九条というらしい。


「あの……」


「まぁ、言えない事や言いたくない事ももあるだろうけど、あの様子を見ていたら大方の想像はつくさ。ま、これでも飲んでとりあえず温まりなよ。今日も冷えるしねぇ」


「は、はい……そうですね」


 差し出される缶コーヒー。私はそれを手に取ると両手で握り締めた。

 缶コーヒーなど今まで飲んだ事は無かったが、久しぶりに受けた親以外からの優しさに心も温かくなったような気がした。


「それをね、こうするとさ」


 九条さんはそう言うと、不意に缶を握り締めた私の両手の上から自分の両手を被せてきた。


「え……?」


 暖かい手。恐らく九条さんのても缶コーヒーで温まっているのだろうが、人の温かさに触れるのはいつ振りだろうか。そんな温かさがとても嬉しく感じた。

 そう思っていると、握り締めた手を思いっきり缶を上下に振り始めた。


「あっつ!?!?」


 手の平にとてつもない熱さが缶から伝わってきて、思わず被された手を力任せに振り解き、缶コーヒーを地面に投げ出してしまった。


「ハハハハッ! 大きい声出るじゃん。ダメだよ黙ってちゃ。僕だって君を捕まえる為に連れてきたんじゃないんだから」


 そう言いながら地面に転がる缶コーヒーを拾い、ハンカチで周りに付いてしまった土を拭くと、再び私に手渡した。今の私の状況から考えると、とても笑えるものじゃない。火傷をするかと思うほどの熱が手に伝わってきた。


「や、やめてくださいっ! こんな事をする為に私を連れてきたんですか!?」


「いやいや、ごめんごめん。あまりに暗い顔してるから、ついさ。悩みがあるなら相談くらい乗ってやろうかなと思ったんだけど、ずっと『あの』とか『その』とかしか言わないから」


「だって……警察の人だって言っても完全に信じれる人かどうかなんてわからないですし……」


「やっと普通に喋ってくれたね。大体察しは付いてるけどさ、何であんな事しようとしてたのか話くらいしてくれないと。まぁ、とりあえずコレもあげるよ」


 そう言って差し出されたのは、さっき私が万引きしようとしていたコスメだった。本当はこんなもの欲しくないのに。命令されて万引きしようとしていただけなのに。


 九条さんはニコニコした笑顔をこちらに向けてくる。

 相談……刑事に相談……。相談して解決するものなのだろうか。私が虐められていると分かって、この人は何かをしてくれるのだろうか。でも、他に頼れそうな人もいない。さっき会ったばかりの人だが、その職業もあってか話していると信用できない人ではなさそうだ。


 この人なら……藁にでもすがる思いで、私はポツリポツリと今までの経緯を話し始めた。


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