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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-29-5.若い刑事【陣野卓磨】

 あらかたの話しを終えると、本忠は泣きそうな顔をしていた。


「私、私、あの後あんな事になるなんて微塵も思ってなくて……本当に、解決して学校の雰囲気ふんいきが少しでも良くなったらって……」


 本忠の目からは涙が溢れてきた。


「あの手紙に入ってた鍵のせいで伊刈さんが自殺して……もしかしたら御厨さんや洲崎さんや天正寺さんが殺されたのもそのせいじゃないかって思うと、毎日不安で怖くて……」


 泣きながらそう訴える本忠を、廣政が宥めている。

 伊刈はそんな二人をじっと見つめているが、何を考えているのかは分からない。


 本忠が天正寺の机に鍵の入った便箋を入れなければ、伊刈が自殺に追い込まれなかったのは事実かもしれない。だが、彼女も良かれと思ってやった事だ。一から百まで責めることは出来ない。


「でも、そんな時に伊刈さんそっくりな女の子と陣野君と影姫さんが一緒にいるのを見かけたから、ひょっとしたら伊刈さん生きてたんじゃないかって……でも、そんなはず無いよね、屋上から飛び降りてあんな状態だったんだから……」


 本忠の声はだんだんと小さくなっていく。

 伊刈は二人から視線を逸らし寂しそうな顔をしている。さすがに彼女に罪は問えないだろう。結果としてはよくない方向に向いてしまったが、彼女は虐めの問題を解決する為に動いただけだからだ。


「伊刈さんが自殺してから、春香の様子がおかしかったから、私問い質したの。春香さ、ずっとその事を気にしてたみたいで……それで私も相談に乗ったんだけど、あまり人に言うと何か疑われたりするんじゃないかって思って、このことは黙ってようって事にしてたんだけど……何かあれから付近で色々事件が続いてるでしょ? 大量殺人のあった店でも、その……伊刈さんの呪いでその時店にいた生徒が原因で事件が起きたって噂も一時期流れてたし……春香のお姉さんも……」


 廣政も、その事を知っていたと言う後ろめたさからか、暗い顔で俯いている。だが、この二人を責める訳には行かない。どちらかと言うと被害者側だ。


「私、もう、前に教室で桐生さんが泣いてるの見て、辛くなって……うっ……誰に言っていいのか分からなくて……」


 そう言いながらすすり泣く本忠さんを廣政さんが宥めている。

 問題は話の中に出てきた刑事。この刑事が伊刈が自殺をする様に仕向けている気がする。理由は分からないが、ある程度の事実を知った上でそうなるように誘導している気がする。


「本忠さん、その刑事の詳しい容姿は覚えているか」


 影姫も同じ事を思ったのか、本忠に問い質す。


「背が高くて、茶髪で……若い刑事だった。名前ははっきり覚えてなくて。こんな事になるなら、もっとしっかりと見せられた手帳を確認しておけばよかった……」


 それを聞いて影姫の方を見ると、影姫もこちらを見ていた。

 そして二人同時に頷く。その刑事に俺達は心当たりがあった。恐らく影姫も同じ人物の姿を思い浮かべているであろう。


「ありがとう、本忠さん、廣政さん。その話は伊刈にとって、とても有益な情報だったと思う。それと、今の話を聞くに伊刈の自殺は本忠さんのせいじゃない。自分を責める事は無い」


 そんな影姫の言葉を聞いた伊刈も小さく頷いている。だが、少し様子がおかしい。本忠達に怒りの感情を抱いているという訳でも無さそうだが、平静を保っている様にも見えない。


「ありがとう、本忠さん、廣政さん。正直に話をしてくれて。私が……私が何で未だにこの世から消えれないのか、理由が分かった気がする……」


 伊刈の声が少し震えている。


「伊刈、どうかしたか」


「ううん……」


 そう言って小さく頭を横に振ると、伊刈は本忠と廣政の方に目を向ける。それにつられて俺も二人の方を見ると、二人はどこか怯えた様子であった。


「あのさ、伊刈こんなんだけど、全然怖くないから。そんなに怯えなくても……」


「ち、違うの。何かさっきから、誰かに見られてる気がして……」


 そう言いながらキョロキョロと目を動かす本忠の言葉に辺りを見回すが、俺達の他には誰もいない。校舎の方も窓は開いていないし誰もいないのか、話し声すら聞こえてこない。


「私もそんな気がしてた。今はしないけど……」


 廣政も心配そうに辺りを見回している。俺は何も感じなかったし、伊刈も同様のようだった。ただ、影姫だけはどこか張り詰めた空気を出している。


「……気のせいじゃないかな……。とりあえず、二人ともありがとう。私は今の話を聞いて、二人に私が自殺した事に関しての責任があるとは思ってないから。その後の事件の事もそう。たまたまその男の目に留まってしまっただけ。運が悪かっただけ。だからもう自分を責めないで」


「そうだな。とりあえず、私と卓磨はその人物に心当たりがある。後で問い質してみるとしよう。二人はもう帰れ。これ以上かかわらない方がいいかも知れん。あと、分かってると思うが、今日の事は他言無用だぞ」


 伊刈と影姫がそう言うと、本忠と廣政は伊刈に向かって軽くお辞儀をして逃げるようにこの場を去っていった。


「伊刈、聞かせてくれないか。その刑事と会った時の事」


 二人が去ってから影姫が口にした言葉。それはまるで伊刈がその刑事とあった事がある様な質問内容だった。

 だが、それは俺も感じていた。刑事の風貌を聞いてから伊刈の様子が明らかにおかしかったからだ。

 そして、影姫が伊刈にそう問うと、伊刈は小さく頷き口を開き語り始めた。

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